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それが彼らの答えとなった  作者: 東条 暁
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1ー1 チャンポン祭りとハローとジェスチャー

「ん、俺は……寝てたのか?」


優しげな風が真っ黒な髪をそよぎ瞼をくすぐる。端正な顔をしかめうざったそう瞳を開き、木漏れ日に目が眩む。


「寝てたのはいいにしろ、俺にこんなところで爆睡しちまう悪癖があったとは驚きだなぁ」


苦笑交じりの彼の呟きも最もである。なぜなら、掻きむしったその髪と同じ真っ黒なツリ目がちな瞳が映し出したのは、大自然。辺り一面、木。木。木。

そういった趣味を持つ者。あるいはなんらか余程の事情がなければ、落ち葉と土に塗れて夢の世界に旅立つなど、到底不可能であろう。そして彼にはそんな趣味を一切持ち合わせていない。とすれば後者である。


「こんな場所に打ち捨てられるように寝てるなんて、昨日は"世界のマズイ酒百選!地獄のチャンポン祭り!"とかでもしてたのかねぇ」


軽口を叩きながら眠る前の事を思い返そうとするが、


「ーーッ!?グぅぅぅウウウ!?!?」


絶叫。

頭を抱え、再び落ち葉と土のベッドに倒れ込む。


「な、なんなんだ?今の頭の痛みは……。二日酔いなんてレベルの話じゃないぞ」


痛みは幻のように一瞬で消えたが、滲み出る汗と煽るような心臓の鼓動が現実である事を痛いくらいに突き付けてくる。


「くそッ!一体なんだったんだ。俺は昨日、ああああァアアアアア!!!」


再び森に叫び声が響き渡り、三度目の地面とのふれあいを許してしまう。

しばらく呼吸を整え、木に寄りかかるよう座り思考に耽る。


頭痛自体は地獄と言っても差し支えないが、どうやら地獄のチャンポン祭りの線は薄そうだ。

頭痛は記憶を思い出そうとするたびに発生する。この条件は二度の苦痛と引き換えに学習した貴重な情報と言える。


「とりあえず思い出すのは無しの方向だな。俺に嬉々として苦痛を感じにいく性癖はない。他にわかることは」


自分を中心に辺りを見渡すが、やはり見覚えのない森が広がるばかりである。そして服装、落ち葉や土のオプションを除けば至って普通のシャツにコートにズボン。ーー全てが真っ黒だがそれは趣味の範疇であろう。それらのポケットを探るが、なにもない。

なにもわからない。ということがわかった。そして、


「自分の名前もわからない……」


記憶喪失。

過度のストレスや、頭部への物理的な衝撃により稀に引き起こされるとされる記憶障害である。

その性質は様々で、長期的なもの、短期的なもの、日常生活ができるものからできないものまで。

幸い今の思考能力的に日常生活は可能だと思われるが、記憶を掘り下げようとすると謎の頭痛に襲われるという結末。

ようするに、


「ここはどこ、わたしはだれ。を地でいくってわけだよなぁ」


まさに手詰まりとも言える状況である。


「まぁ、悲観しててもしょうがない。それに、色々わからない状況でも水も食料も無いってのがマズイってことぐらいはわかるしな」


そう呟き手近な石を拾うと立ち上がり、背にしていた木に石で傷をつける。


「まずは目印を付けながら川を探す。あわよくば人に会って助けてもらうとしますかね」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「ん?水の音か?」


二時間程休み無しで歩き続けた彼は、目下の目標の一つに辿り着きかかっていた。

何気なく歩いていたが、道中彼は気づいた事が二点あった。

まずは自分の体力。いくら若く体力がある年頃と言っても、舗装もされていない、しかも場所によっては上下勾配のついた道無き道をノンストップで歩く事は、相当な負担がかかるはずだ。なのに息一つ乱すことなく歩き続けられる体力があるとわかったこと。

そして、辺り一面に生い茂る木々が自分の知っているそれとは違うということだ。つまりこの森は、自分の生活圏とはかけ離れた場所である事が想像できた。


そんな事を考え、音のする方向へ足を進めると幅五メートル程の綺麗な川が目の前に広がっていた。


「おー、ようやく川に到着っと。ーーん?」


川の存在に感動したのも束の間、香ばしい香りがすると思い、向いた視線の先には燃え尽きた焚き火とその場に刺さっている三匹の串刺しの魚だ。


「川に続き人の存在も発見! おーい!どこに行ったんだー?」


嬉しさのあまり声をああげつつも、植生が違う事からも言葉が通じるか些かの不安もよぎるがそれはそれ。たとえ人種が違っても必殺のハロー&ジェスチャーでなんとかなるだろう。


「なんにしろ服と体を洗いたい」


それもそのはず。二度の謎の頭痛による脂汗に度重なる地面へのダイブ。もはや汚れていないところを探す方が難しい状況での使用制限無しの水。なりふり構わず川へ飛び込んだ。


洗った服を天日干ししーーただ河原に置いただけだが、濡れ猫のような佇まいで焚き火の前でパンツ一丁で胡座をかく。


「ーー食べたい」


標的は目の前にある三匹の焼き魚達。魚の種類はわからないが、香ばしい匂いから食欲を掻き立てられてしまう。まだ見ぬ遭遇者の物と思われる魚達を前に自分の中の悪魔と天使が格闘するが、


「一匹くらい食べても大丈夫だよな。俺にはハロー&ジェスチャーがあるし」


軍配は悪魔に上がったようである。

むしゃむしゃと音を上げ平らげていく。


「んー、食べた事ない魚だな。味付けはないが素材の味がいいのか、これはうまい」


骨を残し食べきり串ごと川へピンと指で弾き捨てる。

美味かった、と寝転び腹をさすりながら空を見上げ、もうすぐ日が暮れるなー。などと物思いに耽っていると、ガサガサと森の方から草木を掻き分けるような音が聞こえた。


「お、流石に寝ながらじゃ印象が悪いよな」


と、立ち上がり遭遇者を迎えようと、


ーーグルルルルル


熊が現れた。

一本の鋭い角の生えた六本足の熊が。


「ハ、ハハ、ハロー?」


苦笑いとウェルカムポーズで出迎えるが、


ーーガアアアァァァァ!!!!


森を揺らすかの咆哮。

必殺のハロー&ジェスチャーは遭遇者に通用しなかった。




はじめまして。東条暁と申します。

今回初の執筆となります。至らない所が多々あり、皆様に不快な思いをさせてしまうかもしれませんが、

どうぞよろしくお願い致します。

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