プロローグ
怒号、悲鳴、怨嗟ーー。
どこを向いても同じ有り様。
全てを変える為の願いは、全てを壊す為の手段となった。
「これが私達の求めていた答えだったのか? こんな絶望に満たされた世界が理想郷だと言えるのかッ!!」
年若い一人の少女には似合わない、薄暗く何もない石造りの部屋の中。涙を流し、しかしその目から諦めを感じさせることはない。
「やるんだ。もう一度。今度こそ変えてみせる」
噛み締めた歯は砕け、力強く握った拳からは血が滴り、冷たい床へと流れ落ちる。
「前とは違って」
ーーぽたりぽたり、と音を立て。
「今の私には力がある!」
ーーじわりじわり、と広がってゆく。
「例え外道の行いだとしても、やらねばならないッ!!」
やがて赤々と輝くその血が、目も眩むような本当の意味での輝きを放つ。
閃光は突風を起こし、少女の華奢な体躯を飲み込む。しかし、その意思を表すかのよう、決して怯むことなく言葉を紡ぐ。
「目の前には一つの扉。求めるのは強き力。我は祖にして末となる者。混沌の海に迷いし命よ、我の求めに応じ給え!」
彼女の言葉が進むにつれて、部屋のすべてが変質する。
「開け!」
ーー空気が、
「開け!」
ーー音が、
「開け!」
ーー少女が、
「開け!!」
あやふやとなり、幻想的な空間がそこにはあった。
ひたすら繰り返す言葉。どれほどの時が経ったであろう。己の限界を超えた力に段々と苦悶の表情を浮かべながらも、
「……見つけ、た?」
朦朧としながらも歓喜と驚愕に染まった顔で、力を使い果たした彼女は、再び冷たくなったただの石造りの床に崩れ落ちた……。
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ーーなんだ?
音も光もない、闇そのものと言える空間。
前後左右の感覚もなく、只々漂う。そんなことしかできない状態でーー、否、手足を動かすどころか呼吸すらもしていない状況下で"そんなことしかできない"もなにもないだろう……。
そんな何もできない状態で唯一許されたのが、考える、ということだけだった。
ーーそれにしてもここはどこなんだ。
口もきけない。目も開かない。
ーー俺にはやらなければいけないことがあるってのに。
最後に見たあの光景はーー。
ーーそうか。俺は死んだのか。
その結果に思考が辿り着いた瞬間全身が燃え上がるように熱くなる。
ーーなんで、なんで、なんで、なんでッ!!!
ーーなんで俺は失敗したんだ!!
虚無の海とは裏腹に、心の慟哭に呼応するように男の存在が力を増し、男を飲み込む巨大な渦が生まれた。
ーーもう一度。いや、一瞬でもいい。どうか俺にチャンスをッ!!!
闇の奔流に飲まれる瞬間、彼の瞳が赤く輝いた。