怪盗団からの挑戦状
久々です。よろしくお願いします。
あれから晶とは一言も話していない。
犯行時刻まであと2時間。僕は今日までずっと図書館で絵とにらめっこしていた。が、手掛かりは何もつかめていない。
鍵はどこだ?手掛かりは?
僕は一体、何を見落としている……?
「……やび……!……雅!」
誰かの声がする。
ゆっくりと目を開けると、心配そうな顔をした晶が映った。
「……ったく……心配させんなよ……。」
「……晶……?」
僕は晶の上で横になっていた。
「図書室に来たら……お前が倒れてっからさ……。」
「ご、ごめん……。」
どうやら寝てしまっていたらしい。
残り、3分。
警察たちが警備のために入口付近や絵のすぐそばで待機している。
「よく、僕たち追い出されなかったね……。」
「どうやら気づいていないみたいだぜ。灯台下暗しってやつだな。」
僕は本棚の横にもたれかかって、絵を見上げる。
――――怪盗団ドリームサーカスにはもうすでに、鍵が見えている……。
「晶。」
僕は隣に座る彼に向ってまっすぐ言った。
「ごめん。」
晶は苦笑してこちらを見る。
「オレも。ごめん。あのとき、つい、かっとなって……。」
僕は立ち上がる。
「晶、僕は、夢の花が欲しいから謎を解くんじゃない。君と思い出が作りたいから謎を解くんじゃない。」
壁の『花園と種』を見つめる。
「僕は、謎を解きたいから、解くんだ。」
そして、晶の方を見て笑いかける。
「諦めるつもりはない。」
彼もようやく、笑顔を見せる。
「ありがとう、雅。」
夕日が絵画の宝石にあたり、きらきらと輝く。その光は反射して――――
その瞬間、頭の中に衝撃が走ったように感じられた。
「……そうか……そういうことかっ!」
――鍵のありか、それは、あそこだ!
一歩、遅かった。
午後5時を告げるチャイム。
音もなく突然現れた、銀色の少年。
「こんにちは。皆さん。」
彼は、絵の前に立っていた。
「僕の名前は、シルバー・ジョーカー。以後、お見知りおきを。」
優雅に一礼するジョーカーさん。それは、この場にいる警官にというよりも、まるで僕に向って言っているようだった。
「貴様、一体いつの間に……。」
警官の一人がそう呟く。
「僕は、初めからここにいましたよ。」
つまり、初めから変装してここにいたということだ。
「それでは、ただいまより、怪盗団ドリームサーカスの公演を始めさせていただきます。」
「それで、無い物を一体どうやって盗む気だ?」
彼は不敵に笑う。
「見えないから、存在しないとは限りませんよ?ねぇ、名探偵さん?」
彼は僕の方を指してそう言った。
その瞬間、警官たちの視線が僕たちに集まる。
「お前たち!立ち入り禁止だというのに、なぜいるんだ!?」
「えーそうだったの?ごめんなさーい。ちょっと勉強してたら眠っちゃって……。」
晶がてきとうな言い訳でごまかす。
僕はその間、じっとジョーカーさんを見つめていた。彼は、一ミリも動かない。
ジョーカーさんは笑みを崩さず言葉を続ける。
「君たち警官では、この僕たちを捕まえることはできませんよ?この場において、僕たちを捕まえられる可能性があるのはただ一人――――」
その指を僕に向ける。
「――――そこの、名探偵だけです。」
その名ざしは、まるで挑戦状のよう。
「えぇ、僕たちなら、捕まえられますよ。」
僕はその挑戦状を受け取った。
「では、名探偵君。これから僕は、視えない鍵をどう盗むだろうか?そして君は、どうやってそれを止める気だい?」
ジョーカーさんは挑戦的なまなざしで僕を見る。
僕は首を横に振る。
「1回戦は僕の負けです。」
「試合放棄かい?」
「いいえ。僕は確かに今、鍵が視えている。でも、視えたのはついさっき。僕は残念ながら、瞬間移動はできません。つまり、ここからあなたを止めるのは不可能。きっとあなたは、僕が一歩踏み出す間に、鍵を盗んでしまうんでしょうね。」
「僕の――いや、ここでは『花園と種』と言ったほうが正しいかな、トリックの種明かしをすれば、例え君が止められなくても、ここの警官たちなら止められるかもしれないよ?」
「そうですね。それでも構いません。ですが――――」
僕は手を振ってメモとボールペンを一瞬で――マジックのように取り出した。
「折角のマジックが、台無しになるじゃないですか。」
ジョーカーさんはきょとんとする。
「種明かしはいつでもできるんです。先に、鮮やかなマジックショーを見てからでもばちは当たらないと思いますよ。」
「Excellent!」
彼はとても嬉しそうな顔をしている。
「では、名探偵君の期待に応えて、最高のイリュージョンを提供しよう。」
「その前に、一つ、いいですか。」
僕はまだ名乗っていないことを思い出す。
「僕の名前は,清条 雅。気が向いたら、覚えておいてください。」
「雅君、ね。覚えておくよ。好敵手。」
マジックショーの合図は、彼の優雅な一礼だった。
両手には何も持っていない。
くるりとターンして、体に何も仕掛けをしていないことを示す。
彼は絵の右側に立つ。
そして、絵の前を優雅に素早く、まるでフィギュアスケートのジャンプのようにターンしながら跳んで通り過ぎる。
赤色の光を反射する銀のコートが一瞬、絵を隠す。
絵の左側に着地した彼は右手に持ったものを見せる。
それは、鍵だった。
ところどころにきらきら光る宝石が埋め込まれた、複雑で美しい黄金の鍵。
夕日に照らされ、眩しい光を放っている。
「確かに、『花の種』は、いただきましたよ。」
僕は素早く、その鍵の特徴をメモする。
「捕まえろ!」
警官の一人の声を合図に、警官たちは一斉に動き出す。
「凝りませんねぇ。どれだけ人数をかき集めたところで、あなたたちでは、捕まえられないのに。」
軽くジャンプして、するりと間を抜け、いつの間にか開いていた窓の枠に着地する。
「それでは、本日のショーはこのあたりで、閉幕とさせていただきます。」
そうして彼は、銀のマントをはためかし、赤い夕陽の中に消えていった。