お姉ちゃんのアドバイス
晶と別れてそのまま家に帰り、心に少しモヤモヤとしたものを抱いたまま普段通りに過ごそうとした。
「みっやびぃー。」
風呂上がりの僕を呼び止めたのは、お姉ちゃんの気の抜けた声。
「……寝っころがって本読まないでよ。だらしないよ。」
お姉ちゃんはソファから体を起こして僕の方を見る。
「何か、あったでしょ。」
漆黒の瞳が、どんな巧妙なトリックも、どんな迫真の演技も、どんなに小さな嘘も、全部見抜いてしまう、そんな瞳が今、光を放っている。
「焦ったら負けだよ、雅。」
つけっぱなしのテレビから、怪盗団ドリームサーカスの犯行予告まであと2日、というニュースが流れてきた。
「タイムリミットまであと2日?違うでしょ?時間はまだ、十分に残っている。」
「……え?」
それは、一体、どういう意味……?
「雅が今、証明しなきゃいけないものは何?解かなきゃいけないものは、何?」
言葉が凛と響く。
「雅、あなたは何で、この謎に挑んだの?」
心臓が鳴る。
––––––何で、謎に挑んだ?
宝が欲しいとか、思い出を作りたいとか、そんな安っぽい理由じゃない。
もっと、根っこの部分。僕はただ、ただ––––
少し、落ち着いた。
「お姉ちゃん、ありがとう。」
そうして部屋に戻ろうと思った時。
「あれ?」
なんか、変な違和感を感じた。そして、その原因はすぐに分かった。
「お姉ちゃん、まさかとは思うけど、『夢の花』の謎、解けてたりするの?」
「うん?そーだけど?」
さも当たり前のように返事が返ってくる。
数秒の沈黙。
「何でそれを早く言ってくれないんだよ!?」
「わー!雅、ストップストップ!」
驚きのあまり、お姉ちゃんの肩をシェイクしてしまった。
「何で隠していたんだよ?」
「いや、隠していたつもりは微塵もないよ。聞かれなかったもん。それに、あんなわくわくする謎を見て、私が解かない訳がないでしょ?」
……ふむ……一理ある。
「じゃあ、今、『夢の花』はお姉ちゃんが持ってるの?」
「まっさかぁ!私は怪盗団ドリームサーカスと違って、宝石をコレクションする趣味はないよ。」
お姉ちゃんは手をヒラヒラと振る。
「じゃあ、どうしたの?」
「そのまま元に戻してあるよ。あと、記念写真も撮ってあるよ。」
––––––写真……!これは、ものによっては、すごいヒントになる……!
「その写真、見せてくれない?」
「別にいいけど……やめておいた方がいいと思うよ。」
「何で?」
「だって、今見ちゃうと、見つけた時のびっくり感とか達成感が半減しちゃうんじゃないかな?」
「……そっか。」
「そうだ雅、アドバイスを2つ。」
お姉ちゃんは指を2本立てた。
「1つは、あの謎を今まで誰も解けなかったってのは嘘。結構たくさんの人が解いたと思うよ。」
「何でそんな嘘を……?」
お姉ちゃんは笑って答えない。
「もう1つ、花の種の在り処はあの本と絵だけで解ける。雅が見た暗号や地図は全く要らないよ。雅が解けないのは、先に全てのピースが揃っちゃったからかもしれないね。」
そう言い残して、再び本の世界へと戻ってしまった。