仲違い
先を越されてしまった。ついに、怪盗団ドリームサーカスは花の種の在り処を見つけたのだ。
「あと3日……。」
予告日までにどうにかしてこの謎を、せめて種の在り処だけでも明かしたい。
「でもさぁ、本当にあるわけぇ?」
クラスのリーダー格の奴がだるそうに言う。
「ナントカって宝石、誰も見たことが無いんだろぉ?あるわけねぇじゃん。」
「だよなだよな。」
取り巻きもヘラヘラと頷く。
「だいたいさぁ、予告状とかいつの時代だよ。あえて敵を増やすとか、バカみてぇ。」
「ってか、あの目立つ泥棒、バカだよ。無いものは盗めねぇだろ。」
リーダーとその取り巻きはバカにするように笑い合う。
バンッ!!
鋭い音が響き、彼らは笑うのをやめ、音のした方を振り向いた。
晶が机を叩いたのだ。
「……少しは物を考えてから言えよ。」
怒ってる。あの晶が、優しくて温厚な晶が怒ってる。
「ここにいるみんなのこと、少しは考えろよ。『夢の花』があるって信じてるやつもいるかもしれねぇのに、そんな言い方ねぇだろ。人を見下すような言い方、恥ずかしいとか思わねぇのか?」
リーダー格がこちらへ寄ってくる。
「何だよ帰国子女。てめぇはあるとでも思ってんのか?」
「あるさ。」
晶は立ち上がり、断言する。
「見えないからといって、必ずしも存在しないとは限らない。逆に、見えるのに存在しないことだってあるんだぜ?」
「なら、証拠みせろや。」
なぜか、僕の前に立ち、手をつく。
「そこまで言い張るなら、それなりの証拠があるんだろ?」
「え?」
リーダー格は僕に掌を突き出す。
「出せよ。この間、テレビに映ってたじゃねぇか。こいつを引きずり回してんだろ?秀才にとっては今は一番忙しい時期なんだよ。」
「いや……僕は頭良くない……。」
に、睨まれた……。
「そんなこいつを動かせる根拠とやらを見せろよ。」
「そ、そりゃあ、あの絵とか本があれば––––」
「はぁ?どっかの泥棒がこっそり盗んでりゃ、宝石もクソもねぇだろ!ちゃんとあるのか、存在証明しろっつってんだよ!」
「えっと……それは……。」
さっきの勢いはどこへ行ったのか。助け舟を求めて僕の方を見る。
「どうなんだよ、清条。」
無理だ。彼らが求めているのは答えの景品。謎が全く解けていない僕が、答えられるわけがない。
「……まだ……ない……。」
そう答えるしかない。
「いいご身分だな。こんな時期に遊んでいられるなんて。」
リーダーは鼻で笑って去って行った。
「あー!悔しい!」
帰り道、晶が叫ぶ。
「ったくあのヤロー、オレの存在全否定しやがって!」
––––––いや、そこまではしていないとおもうけど……。
「雅だって、悔しいと思わないのか?」
「そりゃあ、悔しいけど……。」
––––––仕方がないじゃないか。
言えば晶が機嫌をさらに損ねるので黙っておく。
「あー!何か仕返しがしたい!」
「……無理だよ。」
僕も少しイラついていた。予告状が出されていたから、少し焦っていた。
だからつい、本音を口にしてしまった。
「証拠はない。今の僕らでは、言い負かすことはできない。」
「証拠……あの紙!あれなら––––」
「ならないよ。」
言いたいことは分かる。以前僕も、似たようなことを考えたから。
だから、否定した。
「彼らが求めているのは答えの景品。僕らはそれを、ましてやそれにつながる物でさえ何一つ持っていない。だから、無理だよ。」
晶は足を止めた。
「……どうして?」
僕は振り返る。
「どうして、そんな簡単に諦めるんだよ?」
そう言う彼は泣きそうで、
「どうしてまだ何もしていないのに、諦めるんだよ?!」
僕にその言葉を突き刺すと、走り去ってしまった。