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謎解きへの誘い

 あれから2週間、晶の周りもだいぶ静かになった頃。僕らはよく話すような仲になっていた。


 昼休み、掃除から帰ってきた晶に話しかけられた。

「ねぇねぇ、何書いてるの?」

「ミステリー小説だよ。」

 僕は趣味で、よく小説を書く。とりわけよく書くのが、ミステリーだ。お姉ちゃんが大の推理マニアな影響か、僕もミステリーが好きで、自分でもこっちゃこっちゃ書いている。

「読んでもいい?」

「いいけど……まだ途中書きだよ。」

 今書いているのは、通りすがりの女子高校生が様々な事件を解決する物語。ちなみにその女子高校生のモデルは僕のお姉ちゃんで、事件もお姉ちゃんが解決した(無理矢理謎解きさせてもらった)もののアレンジ。

「面白いじゃん!完成したら一回見せてよ。」

「うん。ありがとう。」

 そういえば、自分の小説を他人に見せたのは、お姉ちゃんを除いて初めてかもしれない。

「将来、小説家になるの?」

 こんなことを言われたのも初めて。

「いけるでしょ。小説書くの、好きでしょ?」

「好き、だよ。そりゃあね。」

 そういえば、考えたこともなかったなぁ、そんなこと。

「今のうちに、サインもらっとこうかなぁ〜」

 隣で晶はにこにことご機嫌そうだった。

「そういえば、晶の夢は何?」

「オレ?具体的なものはまだ決まってないけど、世界中を回りたいんだ。親の都合でいろんな国に行ってるからさ。」

「世界かぁ……大きいね。」

「まぁね。でも、宇宙よりは小さいよ。」

「逆に、宇宙より大きいものなんて、見たことも聞いたことも無いよ。」

 チャイムが鳴る。

 ––––––夢、か……。

 僕はまだ、すぐ目の前の現実しか見つめることはできない。


「雅ーっ!帰ろーぜ!」

 晶が僕のところにパタパタとやって来た。

「あー……その、ちょっと図書室に寄りたいからさ、待っててもらえる?」

 いつもは昼休みに図書室に行くのだが、今日は委員会で行くことができなかった。かといって本の返却日は今日。行かないわけには行かない。

「そういえば、図書室ってどこだっけ?」

「あれ?教えてなかったっけ? 一緒に来る?」

「行く行く!」


 僕らの教室は北館だから、図書室に行くには二階の渡り廊下を通って本館に行き、そこから四階まで登らなければならない。

 あまり現代の本(ティーンズとかライトノベルと言われているもの)がほとんどなく、しかも教室から遠いので、来るのはせいぜい僕みたいなよっぽどの本好きくらいしかない。生徒の大半は、もしかすると知らない(忘れている)かもしれない。

「こんにちはー」

 戸を開けば、いつも通り図書の先生しかいない。

 僕はいつものように本を返し、そして新たに数冊借りる。

 帰ろう、と言おうとした時、晶が壁に飾られたものを見つめていることに気づいた。

「それは、宝石画だよ。」

 高さは僕の身長とほぼ同じくらい、横幅は2メートルはあるだろう。誰でも手の届く位置にある。

 描かれているのは、風景だと思われる。コバルトブルーの夜空には、大きくてブリリアントカットの上半分のようにカットされた黄色の水晶(たしか、シトリン、って言われていた気がする。)が埋め込まれている。そしてそのまわりには、流れ星をイメージしたと思われる様々な色の水晶(別の宝石も混ざっているかもしれない)と白い線。

 深い緑色の山の麓には木の薄い板で作られたうつむく少年。周りを囲むのは明るく咲き誇る赤や、黄色、白などの薔薇。幾らかは宝石で描かれている。(詳しくは「雅's note 1ページ目」をご覧ください。)

「きれいだね。……でも、高そう。盗まれたりしそうだなぁ。」

「無茶だよ。だって、こんな重そうなもの、そうそう運べないし、第一壁に思いっきりくっついてるでしょ?壁ごと持っていく勢いじゃないと。」

 晶はふんふんと頷いている。

「ところでまた、何で学校なんかにあんの?」

「作者––宮島天河氏の意向だよ。この学校が造られた時に、ぜひこの絵を、って。」

 僕は近くの本棚から一冊の薄い本を取り出した。

「この本と、一緒にね。……もっとも、これはレプリカだけど。」

「一体、どんなことが書いてあるんだ?」

「詩と、幾らかのショートストーリー、あと、近所の博物館にある本物には、設計図が載っているんだ。」

「設計図?この絵のか?」

「違うよ。『夢の花』––宝石彫刻の作品のだよ。この絵のキャプションを見て。題名は、『花園と種』でしょ?」

「そうだな……なら、おかしくないか?どうして本は、宝石彫刻とではなく、この絵と一緒なんだ?」

「……実を言うとね、『夢の花』は今、行方不明なんだ。」

「……え?」

 意味が分からない、晶はそんな顔をしている。

「設計図があるだけで、実際にその宝石を見た人は誰もいない。」

「じゃあ……実際にあるのか……?」

「さぁね。ただ、宮島氏はこんなことを言ったそうだよ。」

  絵の紹介の時に校長先生がおっしゃった言葉を思い出す。


『これは、花の種です。子供たちが謎を解けば、花は必ず咲くでしょう。』


「なんだ?そのわけの分からない言葉は?」

「まぁ……簡単に言うと、この絵や本が宝の地図で、これらの謎を解けば、宝である『夢の花』を見つけられるっていう意味だと思うよ。」

「なるほど。」

 晶が腕を組み、じっと絵を見つめる。

「雅、やらないか?」

 彼の赤茶色の輝く瞳が僕を誘う。


「宝探し」


 なぜだか分からない。

 でも僕は、

「やろう、謎解きを。」

 そう答えていた。

宝石画「花園と種」の描写、多すぎて泣く泣く本文からカットしています。

その分を「雅's note」で解説していきます。

あなたも雅と一緒に、謎解きしませんか?

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