一人では気づけなかったこと
次の日の朝、僕は晶に声を掛けた。
「へぇ、これ、寺だったのか。」
晶はまじまじと地図を見つめる。
「日本の地図記号は変なのが多いなぁ。学校が『文』とかさ。」
「やっぱり、変?」
「あぁ。学ぶ場所なんだから、『学』でもよかったんじゃねぇの?って思った。」
「今回の謎については、僕よりも晶の方が適任かもね。気づいたこと、どんどん教えてほしい。」
「よっしゃ、雅を驚かせてやるよ!」
僕は自分のメモを眺める。
――――病院……十字。図書館……本。
「晶、地図記号の形の感想を、教えてくれない?」
「ん?いいけど、何か役に立つのか?」
「いや、なんとなく……。」
「いいぜ。町役場ってのはそのまま白丸だろ、交番がバッテン、雅が説明してくれたように棒が二本クロスしている感じ。郵便局がカタカナのテで、博物館が……なんだろう、古代の宮殿の門?か?」
――――古代の宮殿……!
「もしかして……!」
僕は詩を見る。そして、思いついたことが正しいと確信する。
「晶!これだ!この詩の言葉の中に、地図記号が隠されていたんだ!」
パルテノン神殿は博物館。
本は図書館。
文は学校。
十字は病院。
クロスは交番。
ただ、二番目の頂上にあたる地図記号は……?
「それは、そのままでいいんじゃねぇの?山の頂上だから、三角点とかさ。」
「そっか、そうだね。だいぶ進んだよ。あとは色と、6つが3つになる謎か……。」
「色と言えば、絵じゃねぇか?」
「絵?」
「あの宝石画。いろんな色の宝石が使われていただろ?もしかしたら、その色と対応しているのかもしれないぜ?」
今日の晶は冴えている。
「じゃあ放課後、早速見に行こうよ。」
この勢いで、一気に解いてしまおう!
「やっぱりだ、間違いない。」
晶は絵を見てガッツポーズをとる。
「色と地図記号が一致、っていうことかな?」
黄色が博物館、紫が三角点……。
「あとは、6つが3つ、だけだね。」
「それさえ分かれば、『夢の花』のありかが分かるんだな。」
晶は時計を見ると、慌てたように「やばっ!」と言って荷物を持った。
「わりぃ、雅!オレ、もう帰らねぇといけないんだ!じゃあな!」
そして図書室を走り去っていった晶だった。
「……もうちょい考えてから、僕も帰ろう。」
僕は絵を眺めながら、思考を巡らした。
相変わらず、夕日が絵を照らす。その光が反射して、宝石はますます美しく輝く。
なんとなく、ひときわ大きいあの黄色の宝石の中をのぞいてみる。
「ん?」
わずかだが、何かが光った気がした。もう、中には何もないはずなのに。
僕はうつむいた少年の顔を上げる。
あの時のように、カタンと蓋が開く。そして開いた空間に指を滑り込ませる。
何か冷たいものが触れた。それは、セロハンテープで貼り付けられており、簡単には取れなかった。
やっとの思いで取り出したものは鍵だった。それは、盗まれたものとよく似ていた。
「なんで……どういうこと……?」
怪盗団がやったとは到底思えない。間違いなく、怪盗団の妨害を目的としている。ただ、仕掛け方がとても意地悪。さらに、仕掛け人はこの謎をすでに解いていることになっている。
こういうことをする人を、僕は一人だけ知っている。
いつの間に。そこで思い出したあの時の違和感。
「そっか、そういうことだったんだね。」
絡まった糸を解いていく。
少しずつ、確実に。
僕は少年を元に戻す。
「かつて少年が花の種を垣間見た場所に、か。」
絵と宝石の配置のつながり、そして、6つが3つ……。
そういえば、あの詩には中心、という言葉が入っていたはず。
中心といえば。
「少年が、絵の中心ってことかな?」
そして、絵の中で対応する宝石6個を目で追ってみる。もしかして、ここに関係があるのではないかと思って。
そこで気付いた。少年の足元はどう見ても、絵の中心には位置していない。だから、もし少年の足元が中心だというのであれば、何か別のものの中心ということになる。たとえば、ある2点をつないだ線分の中点とか。
「中点、可能性はあるな。」
ただ、絵に直接書き込むわけにはいかない。幸い、あの本に絵の模式図はあるから、家に帰ってからそれをコピーして書き込もうと思った。
真っ赤な夕日が沈みかけている。
――――晶……
なぜ、晶の顔を思い出したかは分からない。
「そういえば、結局、季節外れの転校の理由、はっきりしないままだったなぁ。」
そのうち、聞いてみようっと。