季節外れの転校生
今日から、3学期が始まる。
中学生から卒業するまで、あと、3か月。カウントダウンが始まる。
そんな、寒い季節のことだった。
教室の中は、ある話題で持ちきりだった。
何の話かって?それは、教室を見ればわかる。机が1つ、多いのだ。僕――清条 雅の隣にぽんっと、普通の机といすが置いてあるのだ。
みんなはどんな子が来るのかということに興味があるらしい。だけど僕はそんなことよりも、どうしてこの時期に来るのか、ということの方が、気になっていた。
先生が入ってきた。
「はいはい。静かにしろー。ホームルーム、始めるぞー」
この声でみんなは席につく。
「もう気付いていると思うがー、転入生がいる。」
手招きされて1人の少年が入ってくる。
女子たちが黄色い声を上げる。
「静かにしろー。紹介できないだろー。」
そんなこと言ったって、静かにするわけがない。なんていったって、「超」を何個つけても足りないくらいの美形。赤茶色の髪で、優しそうで明るい笑顔。
先生が手をたたいて、ようやく静かになる。
「向井 晶です。よろしくお願いします。」
拍手の中、向井君は僕の隣に座った。
「短い間だが、みんなで仲良くしてあげてくれ。」
こうして、朝のホームルームが終わった。
「そうそう、雅。」
「あ、はい。」
急に呼ばれて、僕はかばんから出しかけていた教科書を落としてしまった。
「隣の席だから、晶にいろいろと教えてやってくれ。あと、しばらくは教科書とか見せてやってくれ。」
そう言って先生は教室を出て行った。
「はい。」
向井君が僕の落とした教科書を拾ってくれていた。
「あ、ありがとう。向井君。」
「晶でいいよ。よろしく。名前は?」
「僕は清条 雅。好きなように呼んでくれればいいよ。」
「OK.じゃあ、雅って呼ばせてもらうよ。」
人懐っこいきれいな笑顔を見せる晶。その顔に、どこか惹かれるものがあった。
昼休みはにぎやかだった。
クラスメイトは当然、他のクラスからも「イケメン転入生」のうわさをきいて晶のところに来る人が多かった。
いろいろな質問が飛び交い、晶は1つずつ丁寧に答えていた。
「前はどこに住んでいたんだ?」
「えっと……外国なんだけどさ、オーストラリアにいたんだ。父さんが出張?終わったのかな? それで日本に戻ってきたって感じ。」
「いいなぁ。帰国子女かぁ。」
「まぁね。他にも、南アフリカ共和国、ロシア、中国、フランス……あと、アメリカにもいたことがあるよ。」
「すっげぇ。」
「ってことは、英語以外もしゃべれるのか?」
「まぁ、少しね。」
「ずっと外国にいたんだろ?日本語上手だな。」
「あぁ、父さんが日本人だからさ、家では日本語を使っていたんだ。」
「じゃあ、お母さんは?」
「フランス人だよ。」
「ハーフかぁ。かっこいいなぁ……。」
男子が群がる中、女子が割り込んでくる。
「ねぇねぇ、誕生日は?」
その子が話題を変える。(おそらくこの子は、彼に一目ぼれしたんだろうな、と僕は推測した。)
「誕生日?……あー、もう、結構前に終わってるんだ。」
「じゃあ、星座は?」
別の女子も話に入ってくる。僕はその子が、後ろ手に星座占いの本を持っていることを見逃さない。
「えっ……と……。ごめんね、オレ、あんまりそういうのさ、詳しくなくって……。」
「それね、誕生日が分かればすぐにわかるよ。」
「へぇ~そうなんだ。そういうの、興味なくってさ。こっちでは流行っているの?」
「みんな、自分の星座くらいは知っているよ。教えてあげるよ。何月何日生まれ?」
「え……っと……。時差とかってどうなのかな……?それによっては日付、変わっちゃうかもしれないし……。」
僕は不思議に思った。どうして、誕生日を言うのをためらうんだろう……?言いたくないのかな?
キーンコーンカーンコーン
予鈴が彼を救った。
みんなはそれぞれの席(それぞれのクラス)に戻っていった。
僕は腑に落ちないことがあった。
彼は親の転勤で日本に来たといった。
だけど……この時期に転勤なんてあるのだろうか?
不思議な少年は、隣で笑っていた。