第三話 計画始動!
「俺を切り分けてしまえばいい、か。そら、一体どういう意味だ?
それとも、遠回しに反乱を起こすことの宣言なのか?」
俺は、唐突に無茶苦茶な事を言いだしたウノの言葉に、眉を顰めながら、呆れ返る様な声を出した。
「いやいやいやいやいやいやいやいや。破壊神様じゃないんだから、
幾ら俺でも、この状況でそんなふざけたことを言える程、度胸有りませんよ。
破壊神様を地上に降ろすアイディアですよ。スライムみたいに、
破壊神様を切り分けてしまえばいいんです」
そんな俺に向かって、ウノの野郎は、どことなくカチンとくる様な事を言いながら、立ち上がり、へらへらと笑いかけて来た。
正直、胡散臭くてむかっ腹が立つが、そんな事は後でどうとでもなる。今は、兎に角、話しを進めることが肝要だ。
「人を小馬鹿にしたその態度と科白はムカつくが、一先ずはお前のアイディアから
聞こう。ぶん殴るかどうかは、それから決める」
「簡単に言えば、破壊神様の魂抜いて、それを切り分けるんです。
そうして、弱くなるまで切り分けた魂を地上に落として、後でそれを回収するんですよ。
そうすれば、破壊神様が地上に降臨しても、被害は最低ランクに押さえられるはずです」
俺はウノのそのアイディアを聞いて、思わず眉根をしかめてしまった。
確かに、こいつの言う通り、俺の体から魂を抜き出し、それを地上に降ろすことができれば、その発想は可能だろう。
だが、
「成程。だが、お前のそのアイディアには、致命的な欠陥があるんじゃないか?」
言っちゃあ、悪いがウノよ。そんなことはもう、とっくの昔に試したことが有るんだよ。
しかも、無残にして悲惨なレベルでの大失敗。という結果付きでな。
「それは、魂だけの状態にした場合、その魂が勝手に人格を持つこと。
つまり、幽霊化してしまう可能性の事を言っているんですか?」
「ああ。その場合、厄介、というより、世界滅亡レベルの大事になるぞ。
何しろ、切れ端とは言え、神の力を持った霊体なんて、神そのものだろう。
そんな存在が地上で好き勝手に暴れまくっちまえばどうなるかなんてのは、
想像したくも無い。つーか、思い出したくも無い」
あーもう。あの時の失敗は、忘れて―のに、忘れられない最悪の出来事何だよ。
大昔に一回、もういっそのこと、魂だけ地上に降りて、それとなく破壊神の存在を示そう。と思い立ったわけだけれども、その所為で、人格を持ち始めた俺の魂が暴走しまくった結果、その当時、地上に居た、魔族、人族、問わず、人口の九割が死滅。
その当時の世界の大陸も八割が消失しかけるという大参事が発生。
余りの大災害ぶりに女神様が登場。その後、神様のチートを使って何やかんやで、今までの全てを無かったことにするという、超反則技を使って死んだ人間を全員生き返らせたり、消滅した大陸を元に戻したりしてことなきを得たが、破壊神である俺を含めて、超ガチのリアルマジに、世界中の全ての生命体が消滅するところだった。
その後の女神様からペナルティが激烈過激だったことは、言うまでもない。つーか、うっかりとはいえ、世界を滅亡させかけたのだから、本来なら、情状酌量の余地なく、存在抹消物である。
それでも今こうして俺の命があるのは、ひとえに、女神様から下された使命あっての事である。全く、使命。とはよく言ったモノである。
本当にこの仕事の為に、俺の命は使われている。
まあ、そう言うことがあったのである。
だからここではっきりと言おう。もう二度と、あんなことは起こしたくない。
だからここではっきりと言おう。もう二度と、あんなことは起こしたくない。
だからここではっきりと言おう。もう二度と、あんなことは起こしたくない。
途轍もなく、凄い大事な事なので、三回言いました。
「そこを何とかする方法を今さっき思いついたんですけど、
もういっそのこと、俺達ごと、地上に転生するんですよ」
「お前たちごと?」
「はい。俺達、此処にいる破壊神殿の人間全員を地上に転生させます。
その際に、予めこちら側で肉体を作って置いて、俺達の魂諸共、破壊神様の魂を
転生させるんです。俺達が転生するための肉体と俺たちの魂を器とすることで、
破壊神様の魂に人格が発生することを防ぐんです。そうすれば、理屈の上では、
余計な破壊活動など、しない筈です」
「……けど、それだと逆に、俺の分割された魂は、
お前等の魂に影響を受けて新たな人格を得たり、
お前等自身の魂が侵食されたするんじゃないのか?」
「可能性としては、恐らく後者の方が高いでしょうね。ですが、それを防ぐのなら、
ホムンクルスの技術の応用すればいいんじゃないでしょうか?」
「ホムンクルス?」
唐突に出てきた単語に、俺は眉根を顰めた。
「はい。ホムンクルスの構造は、この中の誰よりも破壊神様が詳しいと思いますが、
まずは簡単にホムンクルスの基本を説明してくれますか?」
「まあ。確かに、俺が開発した技術だからな。お前よりかは、
薄皮一枚ほど詳しいとは思うが、それが何の関係があるんだよ?」
口ではぶつくさ言いながらも、俺はウノの質問に答えて見せる。
この世界では、ホムンクルスと呼ばれる存在は、この月面国家にしか存在しない。
そして、先ほど述べたように、このホムンクルスの開発に成功したのは、実は俺なのだ。
いやあー、人間努力すると意外と結果って出るもんだね。生物含めて、高校卒業時の理系科目の成績が、足して漸く3になった俺が、錬金術師もびっくりの偉業を成しちまうんだから、人生って、神生って何があるのか判らねえ。
さて、それはともかく。このホムンクルスだが、その作り方は口にすればシンプルだ。
エリクサーと呼ばれるエネルギー体を、スライムの中に埋め込む。これで完成。
ぶっちゃけ、この製法を見つけるだけで、千五百年もの時間がかかったんだから、やっぱり地頭の良さってのは、大事だね。
さて、それはともかく。
「んで、これがお前のアイディアとどうつながるんだ?」
「関係大ありですよ。破壊神様は、ホムンクルスの作成に当たって、
何故、スライムという生物にエリクサーと植え付けるという手法を取ったのですか?」
「そりゃあ、アレだ。元々、エリクサーってのは、人間の魔力を吸収し、蓄積する構造を
しているから、魔力の発生源である魂魄や精神と言ったものも蓄積できるんじゃねーかって、
そう思って、って、ああそう言う事か」
「そうです。破壊神様の魂は、エリクサーの中に封印することでただの膨大な魔力の塊に
変えることが可能なはずです。そして、[タダの魔力]であるならば、此処にいる全員に
使いこなせない筈がない!我々は、その為に此処に集められたのでしょう?」
「………………」
成程。論理的には穴はないな。そして、穴はない以上、試してみる価値はある。
ただ一つ、大いに気になる問題だけを除いて。
俺は席から立ち上がると、ウノの奴につかつかと歩みより、その頬桁を思い切りよくぶん殴って会議場の端にまで勢いよくすっ飛ばした。
「その計画、ナイス!グッドアイディア!お前って、マジで一万年に一度の天才だぜ!」
そして、サムズアップしてウノの奴を褒め称えた。
「何で褒めるのに、殴るの!」
「ノリだ!お前のどや顔って、すげームカつくから!」
「酷い!横暴だ!権力の暴走だ!訴えてヤル!」
頬を押さえながら抗議してくるウノを無視して、俺は、円卓に座る他の邪神どもに向き直ると、ウノのアイディアに対する意見を求める。
まあ、求めるも何も、このまま他にアイディアが出なければ、ウノのアイディアは即刻発動するわけだが。
「まあ、それはともかくだ。ウノのアイディアは実に良い。それに対する
意見を、反対、賛成含め、各方面と各分野の方から検討しようか。
まず、アイン。錬金術師の意見として訊きたい。
ウノ・カセッティの意見をどう思う?」
「まず、技術的な問題が先に来ますね。破壊神様の魂をどうやって分割するか。とか、
分割した魂の入れ物をどうやって地上でつくるか。とか、あと、破壊神様ほどの存在が
魂を分割してしまった時、記憶と精神の間にどれだけの影響が出るかが、未知数です。
ですが最大の問題は、肉体の暴走制御ですね。破壊神様の肉体への干渉は、それだけで
人類は優に百回は皆殺しにできるレベルの荒業ですからね。技術的にも、魔力的にも、
おいそれとは、できるものではありません。……おそらく、どう見積もっても、
この技術の総合的な開発には、五百年は必要です」
俺はその言葉に、うん。と、一つ頷くと、きっぱりと言い切る。
「そうか。三百年以内に短縮しろ。取りあえず、何なら、今やってる全ての研究を
差し置いて、魂を分割する技術の開発に走れ」
俺の言葉を聞いた瞬間、会議場に集った邪神の中から、主に魔術や魔導、錬金術や科学開発を担当する邪神どもの間から、否定的なざわめきが巻き起こり、無理だ、不可能だ、と言った類の、弱音が溢れかえる。
まあ、仮にも魔術研究を行う身としては、彼らの言い分が是であろうことは、重々承知だ。
俺だって、同じような無茶振りされたら、まずは速攻でストライキを起こす自信がある。
それくらい、俺の言っていることは酷いことなのだが、俺は、そんなことに頓着するつもりはない。
俺は、目の前の円卓に降り上げた拳を思い切り打ち込んで破壊すると、その感情のままに、目の前で逃げ腰そのものでヘタレたことをのたまいやがる連中に向かって、怒声を上げた。
「グダグダ言ってんじゃねえよ、カスども!お前等が、出来ない出来ないと言って、
本当にできなかったことは無かったじゃないか。それに、何度も言わせるんじゃねえ。
俺らには、四の五の言っている暇はねえんだ。文句があるなら、まずはやれ。
やってできなきゃ、聞いてやる。良かれ悪しかれ、まずは口出す前に結果を出しやがれええ!」
俺の激昂と同時に放たれた言葉に、破壊神殿に居る技術開発担当の頭脳労働者どもの不平不満が静まり返り、方々からは溜息とともに、仕方ない。とか、やるしかないのかあ。とか、と言った、ネガティブな言葉と、活発とは言い難いが、活気に満ちたざわめきが溢れかえり始める。
「それじゃあ、次の問題だ。技術的な開発はともかく、
この技術が開発された場合、俺達は全員、地上に降りなければならん。
その場合、どの方面から、どれくらいの問題が起こると思う?
俺のその質問に答えたのは、ラムダ・カセッティ。
見た目は、大日本帝国陸軍士官の軍服を着た、細身で血色の悪い顔色をした、青白い肌をした優男だ。
見た目的には、引き籠りニート其の物のくせして、中身は体育会系バリバリの鬼軍曹型の軍人だってんだから、詐欺にも程がある。
「本官としましては、破壊神様のご提案には反対の意見です。
最大の問題として、『おじゃまむし』の問題を上げさせていただきます。
破壊神様のお力を疑う訳ではありませんが、矢張りアレは、監視の目を
緩める訳にはいきません!」
「恐れながら発現させていただきますが、破壊神様。
少々、趣向は違いますが、私もラムダ殿と同じ意見です」
ラムダがそう言うやいなや、今まで俺と技術畑とのやり取りを見守っていたミューも手を上げて立ち上がり、ラムダの意見に賛同の意見を示した。
「へえ、美人秘書の自己主張ってのは、珍しいな。興味がある。言えよ」
ラムダとミューの主張には、軍事担当、内政担当の奴らも一様に頷きを返しており、普段は顔も見合わせる度に角突き合せるこいつ等も、流石に今回ばかりは、一致団結の方面で動くらしいと見える。
俺は、普段は顔を突き合わせる度に口論の絶えない癖に、幼馴染かよと思うくらいに息のあったラムダとミューの顔を見て、続きを促した。
どうでもいいけど、実はこいつ等できてんじゃねーのかな?
「は。良くも悪くも、この破壊神殿と月面国家は、全て破壊神様を中心に回っています。
破壊神様という精神的な支えとなる存在があってこそ、月面という、厳しい環境の中でも
皆が高い士気と強い結束力を持って纏まることができたのです。その破壊神様がごくわずかな
期間とは言え月面から離れ、あまつさえ意図的に弱体化する。等という姿を晒してしまえば、
この月面に、少なからぬ悪影響が出ることが予想されます。そうなってしまった時、非常時に
どれだけ的確な対応がとれるのか、疑わしいところです。ですので、矢張り、この計画は行う
べきではないかと、浅慮ながらも考えます」
「一理あるな。つーか、一理もねえ慎重論なんざこの世のどこを探しても存在しねえがよ。
だがな、ミュー。一つ肝腎なことを忘れてねえか?」
「は?肝腎な事、ですか……?」
「高い士気と強い結束を保ち、時に実務と実権を持って大衆を指導する。
それ、お前の仕事だろう?俺はお前のそう言う面を見込んでこの破壊神殿に
列席させたはずだ。まさか忘れたわけではあるまいな?それとも、秘書の仕事
はそんなことも忘れるくらいに忙しかったか?」
「…………っ!!」
俺の指摘に対して、ミューが言葉を失い、息を呑むのが分かった。
およよ?もしかして、うっかり忘れてたのかよ?
クールビューティーのくせして、うっかりしてドジを踏むとか、普段は喧嘩してるくせに、土壇場になると息が合うとか、こいつ意外と、オタクキラーの萌えキャラだよなー。
「はっははは。お前さんが俺に言い包められるとは、良い物が見れたな。
だがまあ、お前とラムダの言う事は確かに、最大の不安要素だよ。
『おじゃまむし』に関しては何が有ってもおかしくねえからなあ……。
だからその上で訊きたい。お前等の言うその反対意見の中で、
現状を打破する最良の方策は何だ?」
俺のその質問に対し、会議場の空気が凍り付いた様に静まり返った。
というより、怯えた。
まあ、仕方ない。こういう時発言した俺は、大抵の場合、ロクでも無い。
具体的には、ムカつく発言をした奴には、心を折るだけの電撃を不意打ちするぐらい、キレて暴れ回る。
だが、別にそれはいつもそうって訳じゃねえし、今回は特別だ。
兎に角誰か発言してくれよ。
「別に怒っている訳じゃないし、お前らの意見を否定する気も無い。ただ、この会議の
本来の目的は、現状を打破するために最も有効な手段を模索することにある。だから、
俺の魂を分割する方法や、勇者を育成するという策戦に対して、反対であるならば、
この作戦の対抗策として匹敵するだけの策を講じて、反対意見を述べてくれ。
はっきり、言うぜ。状況は、思ったよりも切羽詰まってる。今は、無駄な事でもしなくちゃ
ならない状況なんだ。とにかく、試せることは何でも試したい。
だから言ってくれ。------現状打破の為の策を」
しかして、俺の最後の一言に答える声は無かった。
此処に初めて、破壊神殿初、『勇者と魔王を鍛えて、破壊神倒させちゃおう計画』通称、『キタコレ計画』が始動した。
こうして、こうして漸く、俺は一万三百年越しに女神様から承った、勇者に殺される。という、使命を果たすべく、初めて破壊神らしい計画に沿って活動するのであった
☆
そして俺は再び生まれ変わる。
地上の人間として。
さあ、此処からが俺のターンだ。覚悟しろよ、まだ見ぬ勇者と魔王ども。
お前等はこれから俺の掌の上によって、未だかつてないほどの力を手に入れるべく、地獄の様な訓練を受けさせられるのだからな。
しかも何が有ろうと、苦情は一切受け付けねえからな!