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破壊神転生ー我が道を往く異世界ライフー  作者: 九蓮 開花
序章 月面国家、破壊神殿より。
3/8

 第二話 計画の萌芽

 さて、こうして、俺が勇者と魔王を育てることを決めてから、三百年が経過した。


 おい、そこ!あんだけ大見得切って置いて、何百年もほったらかしかよとか言わない。


 別に俺だって、好きで放っておいたわけじゃないんだよ!


 あの破壊神殿会議の後、俺は、新たな問題にぶつかることになり、そこで再び頭を悩ませることになったのだ。


 その問題とは、他でもない。


「まあ、地上に降りるのは良いですけど、破壊神様強すぎるから、

降臨した瞬間、地上が壊滅しますよね?」


 という、部下からの地味に痛い指摘だった。


 そんな核心を突いた指摘を口にしたのは、アイン・カセッティ。

 かつては地上で、錬金術師の神とまで言わせしめたほどの腕前を持つ、恐らく、史上最高の頭脳を持つ男だ。


 俺はそんな男からの忠言に、頬杖して溜息を吐きながら、答えた。


「痛いところを突いて来るなー。アイン。それ、何気に俺の最大の悩みだぞ?

そこ何とかできるんだったら、とっくの昔にこの神殿何て、魔王なり勇者なりに

攻略されているわ」


「ああ、すいません。けど、この問題って、使命を果たそうとしようとすると、

邪神様が望むが、望むまいが、どうあったって解決しないといけない物なんですよね。

問題解決のために賭けに出る以上、此処を避けて通るわけにはいかないですよ」


「こまけぇこと言うなよ!って、言いたいけど、

そぉなんだよなぁ。結局、この問題は解決しないと、

話先に全然進まねぇんだよなぁぁぁ」


俺は、思わず深い溜息を吐きながら頭を抱えた。

そう何だよな。そうなんだよなあああああああ!


 そもそも、今回のこの計画だって、あんまりにも勇者と魔王が弱すぎて情けないから、本来だったら反則すれすれのところを、俺が手助けして強くしよう!という計画である。


 だけど、それをするには俺の力が強すぎて、地上に降りることすら出来ない。

 俺が地上を滅ぼさずに地上に降りる為には、恐らく勇者が俺を倒せる位強ければいい。

 だが、それが出来ないから勇者を鍛えよう。というのだ。


 俺としては、こうなってしまった以上、兎に角当たって砕けろ。行き当たりばったりの出たとこ勝負!の精神で行きたいところなんだけど、そもそも、それができたら一万年間、何もせずに月に引き籠っている事なんてしない。


 俺はもう、机に突っ伏して、深く、深い溜息を吐いて嘆息してしまう。


 何なんだよ、このジレンマ……。神様、助けてください。俺、破壊神だけど。


「それともう一つ問題があります」


「まだあんのかい‼」


 アインからの更なるダメ出しに、俺は机からすごい勢いで顔を上げると、瞳孔をカッ広げながらツッコミを入れた。


「周期の問題が有ります。もう、今回の魔王と勇者は既に選ばれてしまっているので、

今回の決着に合わせて地上に降りる。となると、相当な介入行為になってしまうので、

どうなっても禁忌に触れることは避けられませんね。今回を無視する場合、

次に魔王と勇者が出るのは、三百年後になりますね」


「あーそっかー。その問題があったか―。確かにそれはきついなー。まあ、それは

次回に降りる方向で検討しよう。ただ、そうなると、降り方が問題になるなあ」


 アインから入ったそのツッコミに、俺は思わず天上を見上げて嘆息した。

 しまったー。そこ考えてなかったー。目の前のことに集中するあまり、すっかり忘れてたよー。


 話の前提として、この世界では、勇者と魔王が存在する。

 まあ、そこは言われずとも。というべきところであろうが、問題は、この勇者と魔王。

 実は、出現には一定の周期があるのだ。


 勇者は二十年に一度、『神器』と呼ばれる五つの武器に選ばれ、五人現れる。

 この神器というのは、神権、神槍、神杖、神弓、神鎧の五つであり、この五つの武器は、地上に存在する五つの国家によって管理されている。


『神剣』を管理するのは、『世界樹帝国』と呼ばれるこの世界最大の人類国家。すげー強い。

『神槍』を管理するのは、『法皇領』と呼ばれる、教会組織によって建国された国。面倒くさい国だ。

『神杖』を管理するのは、『月光王国』と呼ばれる、世界屈指の魔導技術を持つ国。色んな種族がいる。

『神弓』を管理するのは、『六花王国』と呼ばれる、世界屈指の戦闘技術を持つ国。エルフが多い。

『神鎧』を管理するのは、『鉄血王国』と呼ばれる、世界屈指の製鉄技術を持つ国。ドワーフが多い。


 世界情勢とか、地理に関しては、この際、脇に置いとく。

 何時か説明するかもしれないが、此処では『神器』についての説明のみをする。

『神器』というのは、文字通り、『神に匹敵するほどの力を秘めた武器』である。

 ちなみに、製作者は俺。ツッコミは受け付けません。


 この『神器』というのは、勇者の資格がある人間を選び、その中に眠る力を引き出し、強化する武器だ。

 こういう説明すれば何となくわかると思うが、『神器』とは、平たく言えば、潜在能力を引き出す武器。と言う事である。

 その為、必ずしも戦闘能力が高い人間が『神器』に選ばれるわけでは無い。

 その結果、かなりの頻度で、ドロドロした悲劇が起こる。


 具体例を挙げればキリが無いが、劣等生の少年が『聖剣』に選ばれたことからエリートのお坊ちゃんに陰湿ないじめを受けるだの。

 たたき上げの現場の騎士に、『聖杖』に選ばれたからって、理由だけで指図されることには、納得いかねえっつって反発されるだの。

 少年漫画的な人間ドラマがすげー展開されていたよ。


 特に、十代目の『神剣』の勇者には滅茶苦茶燃えた。

 田舎の村人として生まれた、引っ込み思案の少年だったそいつは、凄腕剣士の少女に命を助けられた

事から、剣士として生きていくことを誓い、『神剣』の勇者に選ばれる。

 その後、色々あって、少女と再会したり、少女が実は王国の王女だったり、かつての親友と戦う羽目に成ったりと、何処の少年マンガだ!って言うくらい、毎日が波乱に満ちており、こいつが生きている時代は、こいつしか見てなかった位だ


 それとは逆に、『神器』に選ばれたことで調子に乗って、周りを見下して、驕り高ぶった挙句に、自分の気に入らない奴を殺すだの、他人を奴隷か何かの様に扱って、道具か何かの様に使い潰した挙句に、死に追いやるだのをした、勇者という名のクソ野郎もそれりの数いた。

 ちなみに、そう言う奴は、大抵『神器』に見放されたことが切欠で、これまで買い叩けるだけ買い叩いた恨みつらみが爆発して、これ以上ない!って言うくらい凄絶な処刑をされたなあ。


 まあ、そういう主人公の試練的な奴が何度となく繰り返されたよ。

 製作者として、時の勇者には幾度か同情したが、見てる分には面白かったな。


 また、『神器』の持つ最大の能力は、潜在能力の引きだしでは無い。

 使用者の能力の蓄積。である。平たく言えば、『神器』は学習する武器なのだ。

 例えば、仮に『神槍』の勇者が強力な炎の魔法を覚えたとする。

 すると、『神槍』は炎魔法に対して、より強力な炎魔法が使えるようになる強化支援や、敵側からの炎魔法に対する耐性と言った、免疫が出てくる。


 そして、この学習する能力。というのが、『神器』が二十年に一度だけ勇者を選定する。と言う事に関わってくるのだ。


 というのも、人間の持つ潜在能力を引き出せる限界。というのが、二十年だからである。

 若干、結論が速すぎて解説が不足しているので、かいつまんで説明しよう。


 まず最初に、人間の身体能力というのは、十二歳頃から急激な成長を始め、大体二十六歳頃で絶頂を迎える。と言われることがある。


 この、成長を初めてから絶頂を迎える期間。これが俺の言う潜在能力の限界。である。


 とは言え、この世界で言う戦闘能力の成長度合いというのは、こんな分かりやすい形では無く、急激な成長の始まり自体、幼少期から二十代前半までと大きく開きがあり、戦闘能力の絶頂期も、二十代後半から五十代前半まで。と、開きの幅はさらに大きい。


 何故、これほどの開きがあるか。と言えば、この世界には身体能力以外の戦闘に関わる能力として、『魔力』・『聖気』・『闘気』・『神力』と言った、多数の能力が存在する。

 そして、潜在能力の成長というのは、これらの能力をどれだけ強化し、かつ操れるか。と言う事も関わってくるのだ。


 そして、これ等の能力の強化、及び、成長。というのは、年齢だけでなく、鍛錬の度合い。という物が深く関わって来る。


 つまり、この世界では鍛錬すればするほど、戦闘能力が伸びる。


 無論、一概には言えない。


 何をどうしたって、老化による身体能力の劣化は免れないし、体内に存在する魔力の量は先天的に決まってしまっている。

 だが俺が元々人間として暮らしていた世界と比べて、知力と体力だけでなく、魔力や、それ以外の諸々の能力が多数存在しているこの世界は、より多くの選択肢が存在しているために、元から存在している才能の数を増やしている。


 そのために、総じて、努力が報われやすい世界。という風に言うこともできるだろう。


 だが、この努力によって伸びる戦闘能力も、大体、二十年ほどで限界が来る。

 無論、この限界にも開きがあって、およそ、五年から十年の年月は大体が誤差の範囲だ。


 但し、全体的な傾向として、成長の始まりから絶頂期までの期間というのは、この二十年という数字が一般的な値であるのは変わらない。


 そうして、潜在能力の成長が終り、戦闘能力のレベルがある一定のラインで安定するようになると、『神器』は勇者からこれ以上学習できる能力は無い。と判断して、その人間を勇者として見なくなり、自動的に新たな勇者の選定に入るようになる。


 そして先述した、『神器』に見放される勇者。というのも、この『神器』の学習能力と潜在能力の成長期間が関わって来る。


 と言うのも、先述したようなクソ野郎は、勇者という立場に溺れるうちに、自分の能力と『神器』の能力との区別がつかなくなり、努力を怠るようになる。その結果、戦闘能力のレベルが限界を迎える前に止まってしまい、『神器』から勇者として見なされなくなるようになる。


 つまり、クソ野郎が勇者でなくなるのは、天罰では無く因果なのである。


 だから、強くなるためならどんな滅茶苦茶な努力でもするが、性格のねじ曲がったクソ野郎。というのもごく少数ながら存在していたことがある。


 ちなみに、神器以外にも、『聖武器』と呼ばれる、神器に近い性能を有する武器も幾つかの国々に少数存在し、それ等を操る人間は、聖者とか、聖騎士とか、賢者とか呼ばれて勇者に匹敵するほどの人間世界の戦力として重宝されている。

 それとは逆に、『魔武器』と呼ばれる神器とは真逆の性能を持つ武器類も存在しており、この武器を操る人間は、覇王とか、黒騎士とか、魔導師とか、勇者に匹敵しながらも、

 何処となく畏怖される形で戦力として数え上げられている。

 この二種類の武器の詳しい説明については、この場での説明からわき道にそれるからしない。

 こいつも、そのうち説明もするだろうしな。


 一方、魔王は百五十年に一度、現れる。

 魔王の場合は、勇者とは違い、『王痕』と呼ばれる紋章が体に浮かび上がった魔族が、全ての魔族の頂点に立つ。

 そしてこの『王痕』というのは、『神器』とは違い、資格のある者が選ばれるのではなく、魔力、体力、感知能力等など、戦闘能力が一定のレベルを超えた魔族に自動的に現れるのだ。

 つまり、一定のレベルに達した者はほぼすべての例外なく、魔王。と呼ばれることになるのだが、此処から先の事情は、大分勇者とは異なる。


 勇者とは違い、魔王とは、『王』。つまりは、支配者である。単純な戦力というだけでは無い。

 支配者が二人も三人も現れてしまえば、その下にいる民衆たちに混乱が巻き起こるのは必至だ。

 しかも、人の上に立つ者。というのは、良くも悪くもリーダー気質。お山の大将ともいう。

 つまりは、人の下に就くことを嫌う。

 無論、中には無駄な流血を好まず、別の魔王の下に就くことを良しとして、戦いを回避する温厚な奴らもいないわけではないが、こいつ等は少数派である。


 大方の場合が、生き残りをかけて泥沼の戦いを行うのだ。


 言ってみれば、魔族における戦国時代である。

 その戦国時代の決着が着き、支配者が固定されるのにかかる時間が、百五十年なのである。んで、その時には大体魔王は死んでる。


 死因として大きなものは幾つかあるが、暗殺、戦死、病死と色々ある中、最大の死因は過労死である。


 別に冗談では無い。それ程魔王というのは、大変なのである。

 戦場に出ては最大戦力として戦い、

 時には外交に智謀を巡らせ、交渉を行い、

 内政においては下は領民、上は官僚に至るまでの面倒を見て、

 それでも時には、裏切られ、罵られ、何もわかっていないと言われる始末。

 戦争で負ければ、全ての罪悪を背負わされ、

 戦争で勝てば、今までの苦労は倍増する。


 その結果、本来なら人間の十倍はあるはずの寿命は、百五十年まで減らされる。

 ちなみに、この世界の平均寿命は、六十歳から七十歳ほどだから、本来、魔王なら優に七百年は生きられるはずなのである。


 魔王になってしまった魔族は、不規則で均衡の欠けた食生活、過度な睡眠不足、数千、数万人の命を握り、時にはその数と殺し合いをするというプレッシャーに加え、外交交渉を初めとする人間関係の軋轢に頭を悩ませ、時に命の危険まで生じるストレス、という、肉体的な疲労と精神的な重圧から、軽く五百五十年は寿命が削られる。


 こうして、魔王というのは、大概の場合は、労災がおりるんじゃないか。というほどのブラックな職場環境の所為で過労による突発的な死亡を迎えてしまうことが殆どだ。


 その上、大抵の場合はそんな風に唐突に死んでしまうから、後継者等を決める暇など、当然の如くにあろう訳が無く、あれだけ苦心して統一された魔族の勢力は、再び分裂して戦国時代に突入する。

 そうして、戦国時代が収まると、今度の魔王は勇者と戦い殺されることになる、というわけだ。


 こうして、必死の努力の末に勇者に殺された魔王は、人間達の都合によって、悪は滅びたとか言われる始末なのだ。

 正直、地獄に居る方が、まだましな生活できるだろう。

 魔王の苦労に終りは無い。


 ぶっちゃけ俺は、勇者と魔王が戦っている間は、いつも魔王の方を応援していた。さっきの言っていたように、十代目の『神剣』の勇者を面白がって眺めていたのは、凄い例外である。


 長々と説明したが、結局何が言いたいかというと。


 勇者と魔王がかち合うのは、時期的な問題で、三百年に一度なのである。


「しっかし、三百年かー。半端な時間だなー。進化するでなし、しないで無し」


 俺の何気ない呟きに対して、アインは、深い同意を示す様に重々しく頷きながら、話を進める。


「そうですね。正直、三百年というのは、帯に短し襷に長しの時間です。

ですが、それでもそれなりには進歩をします。下手な降り方をした場合、

魔王以上の脅威として、地上の存在に確認されてしまう事でしょう。

そうなってしまうと、やっぱり三大禁忌に触れてしてしまう恐れがあります」


 三大禁忌その二 

『邪神は、邪神の存在と、自らが邪神であると言う事を、勇者と魔王、ひいては地上の存在に自ら示してはならない』


 アインの言う通り、今回俺がやろうとしていることは、このルールに違反することになる。

 何故なら、俺ほど力のある存在が地上に降りるとなれば、山脈が抉れるだの、湖が蒸発するだの、地形が跡形もなくなる程変形してしまうことが多く、俺が地上に出現すると言う事は、天変地異を巻き起こすことに他ならないのだ。


 そして、そんな存在が出現しておきながら、魔王や勇者に知られずにいられとか、まずありえない。


 ただ、


「そのルールには、若干抜け道がある。要は、俺の存在にさえ気づかれなければいいから、

魔王や勇者の出現に合わせて、隕石の動きを活発化したり、月の運行を少し弄ることで、

俺の存在を誤魔化せるんだ」


 俺は、アインに対して、どや顔を決めてそう言った。


 何でこんな裏技を知ってるかっつーと、実は、前に言った三度地上を滅ぼした時もこの手を使ったんだよね。


 月とか隕石とかを利用して天変地異が起こる前触れを起こしつつ、歪んだ情報を地上に流す事で、俺の存在と降臨を誤魔化すことに成功。


 その後は、地上で一発魔法をぶっぱなしちまえば、自動的に地上の文明諸共、魔族・人類を問わず、地上の人口の九割九分九厘は消し飛ばせるという寸法だ。


 最初は、一か八かの賭けだったが、物は試しとはよく言ったモノである。

 お蔭で、今では地上の被害を最小限に抑える隕石の落とし方とか、さりげなく異変を伝える月の動かし方とか、無駄に壮大なくせに、他に使い道の無い技術ばかり覚えたものである。


「成程。でも結局のところ、破壊神様の持つ力って強すぎますから、

今程度の文明でしたら、破壊神様が降臨した瞬間に地上が滅びますよね?」


「そうなんだよな。結局、そこに帰って来るんだよな」


そう。つまりは、俺が強すぎることが最大の問題なのである。


 そんなに倒されたければ、俺が弱くなる研究でもすればいいじゃない。という、声も聞こえてきそうだが、実はこの問題はそう単純ではないのだ。


 この問題の最大の壁は、俺自身は決して弱くなってはいけない。という縛りがある事だ。


 縛り。という言い方からも分かると思うが、別にこれは、ルールで決まっている訳ではない。そう。別に決まっている訳ではないのだが、是は、俺が勇者に殺される、という使命にも関わって来ることなので、必然的に縛りとして発生してくるのだ。


 つーか、この縛り。実は、割と三大禁忌より厄介だ。


 というのも、三大禁忌を初めとする、女神様から下された様々な制約は、それを破ると速攻でペナルティが発生する為、問題点の洗い出しを始め、対策の立て方が容易なのだ。


 けれども、この縛りの様に、ルールで決まってはいないが、縛りとして発生している物事。というのは、ペナルティが発生しない為に、制限を探るのでさえも、一苦労なのだ。


 今回の議題の本質である、『勇者に倒されなければならないけれど、強くなりすぎて勇者では倒せない』は、その最たるものだろう。


 はあああああああああああ…………。

 

 今日、否、この議題が取り上げられて以降、何万回目になるか分からない溜息が、会議場のどこからか漏れ聞こえて来た。


 完全に手詰まりだ。どうしようもない。


 俺は会議場の天井を見上げながら、誰に言うともなしに、ただただ、力なく呟いた。


「はは。いっそのこと、俺がスライムみたいに切り分けられちまえばいいのになァ」


 全く、羨ましいよ。スライム。破壊の力の権化の癖に、力なく呟くことしかできん 俺に較べれば、確実に勇者の経験値に成れるお前の方が、勇者の力になれるんだからな。


 その瞬間、会議場の片隅から、呻く様な、茫然とするような、そんな呟き声が漏れ出し始めた。


「そうだよ……。それだよ、その手があったよ……」


 そう、会議場の片隅でぶつぶつと呟くのは、ウノ・カセッティ。

 アインと並ぶ、この破壊神殿屈指の天才で、アインとは違い、かつては魔術師として地上で名を馳せた男だ。


 そいつは、ひとしきり独り言を呻くように、呟き続けると、おもむろに顔を上げて俺に向かい合い、


「破壊神様を切り分けてしまいましょう!そうすれば、この件は解決します」


そんなことをのたまいやがった。


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