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破壊神転生ー我が道を往く異世界ライフー  作者: 九蓮 開花
序章 月面国家、破壊神殿より。
2/8

第一話   第十二万回、大邪神殿会議。

 俺が破壊神としてこの世界に生を受け、早一万年。

 俺は月面にある破壊神殿の中に設けられた、暗黒が蟠った様な闇に満ちた一室、その中にある円卓の一席に着くと、


「さて」


 と、一言呟いた。

 その途端、俺の席には一条のスポットライトが浴びせかけられ、今まで人影の濃淡でさえも判別のつかなかった部屋の中に、俺だけが浮かび上がった。

 其処には、円卓に肘をつき、顔の前で手を組んだ、所謂、司令官ポーズを取った俺の姿があり、この場に居る俺以外の存在全ての視線が俺に向かって注がれる。

 その様子に俺は、ふっ。と、一瞬だけ満足した微笑を洩らすと、その場に居る全員に向けて、重々しく口を開いた。


「諸君。それではこれより、記念すべき第十二万回大邪神殿会議を執行う」


 俺のその言葉と共に、今まで暗闇しかなかった部屋の中に次々とスポットライトが浴びせかけられ、やがて部屋全体に照明の光が溢れ返る。


「早速で悪いが、本題に入ろうと思う。先ずは、」


「申し訳ありません。会議の前に邪神様、私から質問があります」


 俺が話を切り出そうとしたその瞬間、薄紫色の混じった銀髪を上げ、少しきつめの吊り眼に細いフレームの眼鏡をかけた褐色の肌の秘書然とした二十代後半に見える艶然とした美女が片手を挙げて、席を立った。

 彼女の名はミュー・カセティ。元はダークエルフにして、この大邪神殿の序列第百八位の邪神である。

彼女は、見た目通りに高々1,000年ほど前に加わったばかりの有能にして優秀なる、この大邪神殿の最新人にして、最下位者である。


「何だ?ミュー」


「この月に一度の会議ですが、開催する際にわざわざ先ほどの手順を踏む理由は何でしょうか?

正直に言って、非効率的で非合理的にすぎます。あと、先ほどの芝居がかった邪神様の口調も

余り意味を見出せません。何か理由が有るのでしたら、ぜひとも説明をお願いしたいのですが、

よろしいでしょうか?」


 ミューは、その恰好に似合った生真面目で形式ばった口調になって俺に質問を重ねると、その場で直立して俺の質問の答えを聞こうと、その場で立ち尽くしているが、俺はそんなミューの態度に、答えを端的に返す。


「俺の趣味だけど?他に質問は?」


 俺のその返答に、ミューは一瞬、ずっこけかけた様な挙動を見せたが、すぐに気を取り直すと、眼鏡の位置を直して、もう一度発言する。


「できれば、改善するべきだとお―――」


「却下だ」


 どんな美人の頼みでも、流石にそれは認められない。

 俺は皆まで言わせずにミューの頼みをバッサリと斬る。


 そんな俺の強硬な姿勢に対して、ミューは、お預けを喰らったチワワのような、初めて飛蝗を目の当たりにした家猫のような、とても美人秘書が浮かべるとは思えない表情を浮かべて黙り込むと、そのまま静かに席に着いた。

 まあ、別に秘書じゃないんだけど。

 ともあれ、ミューが席に着き、それ以上の質問も無いことを確認した俺は、居住まいを正すと、円卓に座る邪神たちを一瞥して、改めて発言する。


「それでは、そろそろ本題に移ろう」


 そう言って俺は、深く深呼吸をすると、


「何で一万年経っても、誰も来ないんじゃああああああああ!」


 そんな絶叫と共に、今まで溜まっていた鬱憤を思うままに吐き出していく。


「一万年!一万年だぞ!地球上でだって、一万年有ったら、人類は宇宙ステーション作ってんのに、

この世界だったら、もう余裕で月面どころか、火星に街を作っててもおかしくねえだろ!勇者だの

魔王だのがいて、魔法が有って、錬金術が有って、魔科学が有って、それで何で月に来れねえんだよ!

瞬間移動は使える癖に、宇宙ロケットは造れないって、どうなっとんのじゃあああああああ!」


 俺は、円卓を強かに叩きながら、感情の赴くままにとにかく思いつく限りの罵詈雑言で喚き散らした。

 俺の言葉に、会議に参加していた全邪神族が、はぁ。と、深く溜息を吐いた。

 そりゃぁ、そうだ。ここ五千年、この会議の議題は、要約するとこの一言に尽きるのだから。


 そう、俺が女神エイシア様との契約によって、破壊神として転生し、月面に居を構えて、勇者に倒されることになってから、早一万年。

 一万年である。

 この間、俺の居城たる破壊神殿には、過去一度として勇者が来た試しが無い。

 否、勇者はおろか、魔王であっても、俺の存在に気づい者は居なかった。

 全く持って、ふざけんなよ!


 そりゃぁさ、最初の百年はちょっと怖かったよ。勇者に倒されるって簡単に言うけど、それ確実に一回死ぬわけだからね。

 せめて優しくころしてくれよー。とか、出来れば美人の勇者に殺られたらいいなぁ。とか、無駄で卑屈な事を考えながら勇者を待ってたよ。

 でもさぁ、あいつら、勇者と魔王だけで決着つけると、それで満足しやがるんだよ。


 そうして、とりあえず地上に平和が戻ると、今度は同族同士で殺し合いやがる。

 人間の世界では、勇者が魔王を倒すと、国王だの聖人だのに担ぎ上げては、やれ、勇者の元に非ずば人に非ず。だの、やれ、勇者は新世界の神になる。だの、どっかで聞いた様なフレーズを延々と並べては、飽きもせずにまあ、殺し合う。


 魔族も魔族で、魔王が死ぬと、では次の魔王はオレだあ!とか、くくく漸く俺の時代か、とか、わざわざ天気の悪い日に無意味に格好をつけては、バカなこんな雑魚が!が、とか、私の計算は完璧だった筈!とか言いながら殺したり、殺され合ったりを繰り返す始末。


 そうして、あるい程度の年月が経つと、魔族は魔王を立てて人間世界に侵攻し、その時に成って人間は勇者を選定して、魔王と戦う。

 おおよその場合は、勇者は魔王に勝利し、魔族は魔界に、人間達は元の世界で殺し合い。と、まあ、この一万年、魔族も人間も、こんなことを飽きもせずに繰り返している。


 たまあに、魔王が勇者に勝つときもあって、そういう時は、今回の魔王は一味違う。

 流石にこれは気付くかな?と、大邪神殿の皆が、多くの場合は俺が騒ぐ。

 しかし、その喜びも大抵はぬか喜びに終わってしまう。


 何故なら、勇者を倒して、世界のほぼすべてを支配するほどの力を得た魔王の場合、そこで満足。っつーか、国の運営とか何とかで忙しくなってしまって、それより上を目指すだけの余裕を失ってしまうのだ。

 そうして、偶に現れるその強力な魔王は、地上を支配している内に老化して弱くなってしまい、いつの間にか現れた勇者によって倒されてしまう。

 後はもう、元の木阿弥だ。

 余りにもムカつきすぎて、腹いせ混じりに魔族も人間も込みで、三回ほど地上を滅ぼしたこともある。


 魔族同士の戦争、人間同士の戦争の時代に突入してしまい、色々あって出てきた勇者と魔王が殺し合う。

 破壊神として転生してこの方、それ以上、話が進んだことが無い。

 ちなみに現在、魔王の勝率は一割で、計三回勇者に勝っている。


 全く、一体なにしてんだよ!勇者!何してんだよ!魔王!

 そんなせせこましい星の上で、チマチマ戦ってんじゃねぇよ!

 仮にも世界の頂点なんだから、一遍位はマジモンの神を相手にする位の気概を見せろよ!


 文字通りに、上から目線で地上を眺めていた俺は、何度そう叫んだことか。

 もうやることないから、日々の殆どが、地上の観察か、魔術の研究か、武術の鍛錬だけで終ってしまい、そのお陰で今ではレベルは上限突破のカンストクラス。


 更には、暇潰しも兼ねて、錬金術でオートマタだのホムンクルスだのゴーレムだのを作ったり、新たに神殿を築造したり、地上で見つけたイイ感じの人材を大邪神殿に拉致って邪神の一員にしたり、そいつらを使って軍隊やら行政組織を創設したりして時間を潰していった結果、いつの間にか月面には破壊神殿を中心とした強力な国家が出来上がっていた。

 最早この月は、この異世界歴史上、最強最古にして最大の国家であると言っても過言ではない。


 今では逆に、地上の技術レベルでどうやったら俺を倒せるだろうか。という研究に明け暮れて、日々を終えることも多い位だ。


「はあ。全くどうしてこんなことで悩まなくちゃならないんだ?自分のやられ方を考える会議とか、

史上最も生産性が無くて、史上最も意味の無い会議の一つだぞ?」


「現実として、勇者はおろか、魔王ですらも邪神様の足元にも及ばない。と言う事でしょうな。

実際、勇者に打ち勝った魔王などは、我々の存在に感づいていたようですからな。

しかし、そんな存在であっても尚、この神殿に到達した者がいないのは、一重に、

我々とうち当たることだけは絶対に避けるべく、動いていたからです。

我々の使命から考えるに、決して良い兆候であると思いませんが、これも強者の、

ひいては邪神の宿命だと言わざるを得ないでしょう」


 こめかみを押さえながら、嘆息する俺に、隣に立っていた執事のアリスモスが、そう言う。

 ちなみに、アリスモスは俺の直属の部下であり、大邪神殿における序列は堂々の第一位。

 実力、実績、戦歴、共に、並ぶものなきまごう事なき、忠臣だ。


 その見た目は、身長は優に二メートルは越え、筋骨隆々とした体格に右眼に縦に走る一条の傷をこさえた、執事というには些か豪快すぎるなりだが、それでも、まあ執事と言えるのは、辛うじて着こなすことのできた燕尾服と、白く染まりながらも丁寧に整えられた髪型と髭。そして何より、常に主である俺を

立てるために決して進み出ようとしないその慎み深さと、見た目にそぐわないその紳士的な低姿勢からだろう。


 だが、今の俺にはそんな忠義厚い老臣の態度でさえも、言うだけ言って、クールぶってるだけの様に見えてしまい、癇に障る。

 俺は、イラッとしながら、こめかみを押さえつつ、アリスモスに向かって、八つ当たり気味に議題の矛先を突きつけた。


「俺を誉め殺すよりも先に、建設的な意見を言ってくれ。アリスモス。

お前ほどの男が、会議を接待か何かと勘違いしてるわけじゃねえよな?

まさかドリフ大爆笑でもあるまいし、仮にも神である分際でボケ始めたとか言うんだったら、

お前、ブチ転がし回すぞ?」


「差し出がましい口を利き、申し訳ありません。

また、まことに申し訳なくありますが、一万年という長き月日に渡って貴方様の傍仕えとして

存続してきた身でありながら、私には妙案と言えるほどの思案には心当たりが有りません。

というより、私如きが思いつく限りの策でありましたなら、我が君はとうの昔にとっていらっしゃる

筈ではありませんか?」


 だから、褒めるよりも先に何か策を言ってくれってばさ。

 もう何だか、責任逃れの為に俺をほめるだけ褒めてお茶を濁すとしているようにしか見えねーよ。釣ってもまあ、俺に対して、一万年仕えて来ていたこいつの言葉だから、全部ほんきでいってるんだろうなー。っていうのは分るんだけど、幾ら何でも俺を買い被りすぎるにもほどがあるだろ。

 俺を何だと思っているんだ?そりゃああれか?全知全能の神か何か?

 まあ、破壊神なんだけどさ。


「はあ、まあいい。とにかく、この場の全員、兎に角なんか意見の一つを出してくれ。

何か良い意見を言った奴には、今日から一週間俺がおごるからさ」


 俺がそう言った瞬間だった。


 一瞬、会議場の空気が静まり返ったかと思うと、次の瞬間には、繁華街でしか聞かない様な雑踏に似たざわめきが円卓の一室に爆発的に広がったかと思うと、そこから先は、喧々諤々、侃々諤々、喧々囂々。会議場は一気に議論が沸騰し、邪神らしさの欠片も無い、俺が言う事じゃないんだけどさ。食い物に釣られる邪神ってのは、どうなのさ。

 本当にもう、こいつ等、嫌になる。


                ―――――――――――――☆―――――――――――


 それから三時間後。


 一瞬で、白熱っつーか、爆発した議論も一通りは終り、やっぱり良い意見の無い会議に、俺はもう、ほんッ当にどうしようもない位に頭を抱えていたが、突如として意を決する覚悟を決めると、円卓を叩いて顔を上げ、一際大きな声で一つの宣言をする。


「しょうがない。こうなったら、最終手段だ。勇者を育てて、この神殿まで辿り着かせるぞ」


 俺の言葉に、今まであーでもない。こーでもない。と喧々諤々の議論を繰り広げていた会議場は、まるで水を打ったように静まり返った。


「……すんません、破壊神様。言ってることの意味が解んねーんすけど、つまり、どういう事っすか?」


 すると、何だか滑ったお笑い芸人みたいな空気が会議場を包む中、俺の近くの席に座っていた邪神のディガンマ・アリスモスが、手も上げずに呑気な声を上げて質問する。


 ディガンマは、見た目は売れないバンドマンみたいな風貌をした、やせ形で安く染め上げた様なくすんだ金髪をした男で、パッと見はヤル気の無い無気力な若者と言った風情だが、その実、六千年前から我が大邪神殿に加わり、序列も第四十位と、中途半端ながらも上位に位置する、気苦労の絶えない中間管理職である。


「どうもこうもあるか。言葉通りの意味だ。

勇者が弱くて俺らのところに来る事ができねぇっつーんだったら、

勇者を鍛えて、俺らのところまで来れる様にする。そうだとすると、

勇者だけ鍛えるのは、あれだな。治まりが悪いから、ついでに魔王も育てちまおう」


 そうだな。やると思い立ってみれば、良い案だ。

 正直、ヤラセ臭が半端無い上、割とかなり面倒臭い事を除けば、最高の上策とも言えるだろう。


 ただ、問題が無くは無い。


 すると、俺が思い描く問題点に気が付いたのだろう。


「あのー破壊神様?」


 いかにも恐る恐る、と言った風情で手を上げたのは、スティグマ・アリスモス。

 序列は第四十九位。

 見た目には、平均より頭一つ分低い身長に、大きな瞳と白い肌が特徴的である。

 その臆病そうな態度と、可愛らしく華奢で脆い感じのする外見から、いかにも箱入り育ちの女の子に見えるが、その実、山一つ破壊するほどの怪力と、武芸百般と言われるほどの数多くの武道、武術、格闘技を習得せしめた、格闘の天才である。

 こうしてみると、やっぱりこいつ、何だか色々と生まれ間違ったような気がする。

 まあ、それはともかく。


「ん?スティグマか?お前が手を挙げるとは珍しいな。何だ?何でもいいから、言ってみな?」


 俺のその言葉に、おどおどした様子で手を挙げていたスティグマは、ほっとした様に手を下げると、席を立ち、仰々しくかしこまると、不安げながらも、こいつとしては本当に珍しいことながらも、はっきりとした意見を出す。


「確か、邪神様が自らお手を動かして勇者や魔王を手助けする事は、

神様との契約によって禁止されている筈ではありませんでしたか?」


 俺はその疑問に対して、口を閉ざさざるを得なかった。


 そう。契約違反。それがこの作戦の最大にして唯一の問題である。


 俺は、女神様との契約時に、幾つかの禁則事項を与えられている。

 その中でも特に、三大禁忌とも言うべき契約違反が、俺には科せられている。

 その内の一つがこれ。


『邪神レクサスは、勇者と魔王に対して、直接支援を行ってはならない』


 そしてこの契約違反。ペナルティが結構重いんだよねー。

 具体例を挙げると、体中に激痛と息苦しさが走り、ほぼ一年間は寝たきりなんてのは序の口で、軽い物でも体の動きと五感の全てが封印された上で意識だけが、存在して、無限の様な体感時間を味わうだとか。時間感覚が究極にまで延長されて、一秒が千年位に感じる中で、十秒間電撃を喰らうだとか、ぶっちゃけ、え?これ何て地獄?っつー物が、標準装備だ。

 中には、千年かけて覚えた能力だの魔術だのが一瞬のうちに喪失してしまい、元のレベルに戻すのに二千年かかっちまった。っていう、ただただ泣きたくなるようなペナルティもあったなあ。


 まあ、しょうがない。女神様が本当にやろうとしている事ってのは、それだけの事をして秘匿しなければならないほどの物だからなあ。それを破ろうとした。っつーか、部分的にとは言え、マジで破っちまった俺をそこまで罰するのは仕方ないことではある。


 仕方ないことではあるが。


「あの、その、……そもそも、三大禁忌を破ってしまった場合、

邪神様だけじゃなくて、この月にも影響が出るんじゃ……」


 急に押し黙ってしまった俺に、少し不安を覚えたのだろう。

 先程のはきはきとした声を出した時とは、打って変わって、スティグマは、妙におどおどとした、少しづつ小さくなっていくような声になって、質問を続ける。


 だが。そう、それが問題だ。


 この三大禁忌。意味も無く制定されている訳じゃない。

 禁忌を破った罰は確かに重いが、それ以上に、この禁忌を破ると、この月に異常が起こる。


 具体的には、月面に地殻変動が起こり、太陽が異常を来して爆発しかける。とか、そんな星系レベルでの大異変が起こる。


 しかもこれは、女神様から下された罰。というわけでは無く、この異常状態が起こるから、女神様は俺に三大禁忌と言う罰則を与えたのだ。 


 何で、邪神が勇者に力を貸しただけでそんな大事になるんだよ。という、ツッコミが聞こえるようだが、その話をすると、ただでさえ長い話がますます長くなるので、此処では割愛する。


 それはさておき。会議に戻ろう。


「―-----―-三万年」


 俺は、しばしの沈黙の後、俺の顔色を窺うスティグマを無視して、深い息を吐きながらゆっくりと、そう呟いた。


 余りに唐突に吐かれた言葉に、スティグマは怪訝な表情を浮かべて、質問を重ねようとするが、俺はそれを手で制しながら、言葉を続ける。


「俺が女神様との契約時に提示された、勇者に倒される為の期間の目安だ」


 それじゃあ。と、スティグマは俺を諫めようとし始めたが、俺はそんなスティグマの言葉をわざとぶった切って、独白を続ける。


「と、同時に、女神様との契約の期限でもある」


 そして、俺のその言葉に、会議場に緊張が走った。


 俺は、そんな会議場にいる連中に向かって言い聞かせるように、或いは、俺自身に言い聞かせるように、話しを続ける。


「女神様との契約期限までは、『まだ』二万年残っている。

けれども、『もう』一万年は過ぎているんだ。つまり、契約期限の三分の一は、

何もできずに終わった。というわけだ。色々と言い訳はあるが、結果的には

職務怠慢を成して、何もせずに過ごしてしまった事には違いはない」


 その言葉を俺は、この一万年間、胸に抱き続けて来た苦い思いとともに噛みしめる。


「危険を恐れて手を出しあぐねているのは仕方ないことだとしても、

危険を理由に行動を起こさないのは仕方ないことでは無い。

危険ならば危険なりに対処しなければならない。ましてや、俺達は邪神だ。

……この意味が分からぬ者は、この場には居るまい」


 俺の最後の科白に、この場に居た全員が、緊張とも、緊迫ともつかぬ思いで硬直した。

 そう。俺達は、邪神である。仮にも、神と呼ばれる存在である。


 そしてそれは、この世界を作った存在と肩を並べる事が許された存在。


 と言う事である。

 だがそれは別に、ただ同然に与えられた特権階級的な要素では無い。


 そんなことは、断じて無い。


 造物主より選ばれ、造物主により直々に下された使命を果たすべき、重責が付く。


 この使命は時に、地上の全ての人類の命よりも重い。


 実際俺は、この使命の為に、三度も世界を滅ぼしたのだ。

 まあ、確かに多少は、ムカつきが混じっていたかもしれないが、それでも、俺がムカついた程度で世界を滅ぼすことを黙って見ているほど、俺を選んだ神様は酷い性格をしていない。


 そうせねばならぬほどの危険が地上に置いて、発生していたのだ。


「とにかく俺は、勇者と魔王を育てて、この大邪神殿にまで辿り着くレベルの強者にする。

是は決定事項だ。異論は認めない」


 そして、会議の終了と同時に、俺は深いため息とともにこの人生で、否、神生で何度目になるかもわからない一言を呟いた。


「はあ、全く。何でこんなことで悩まなくちゃならないんだ?」


「さあ?これも邪神の宿命なんじゃないですか?」


 俺のお決まりのボヤキに、俺の声を聞いていたディガンマが、お決まりの科白で返すのだった。



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