まるで昔のあたしのような
「待って! 待ってってば!!」
砂浜で走にくい上に、足が遅い自分が恨めしい。
ようやくたどり着いたとき、女の子はもう半分ほど水に浸かっていた。
一瞬、掴まれた腕に、希望を見出すかのように見開かれた瞳が、息を切らしているあたしを見て絶望に変わる。
「離してくださいっ! 早くしないと!!」
(うん。気持ちはわかる、わかるんだけど、駄目だって)
「あたしが行くから、だから待って」
「お姉さんじゃ駄目です! あたしこの町で泳ぎが一番上手いから、あたしの方が……」
(そう言いたい気持ちもわかる。でも、駄目)
「あたし、日生高校の水泳部のレギュラー。慌てたからちょっと息が切れてるけど、大丈夫、すぐに戻るから」
言ってる間に、息切れが収まっていく。伊達に、運動部に所属してるわけじゃない。
しかも、意図的に言った「日生高校水泳部レギュラー」という言葉は、彼女の心をかなり動かしたようだ。
「日生高校って、水泳で有名な?」
(うちの水泳部が結構有名なことを知ってくれてて良かった)
そう思いながら頷く。
「そう。だから大丈夫。あたしが行くから、あなたはここでタオル持って待ってて。で、あの子を優しく包んであげて。……岩場の向こうに、他の部員がいるんだけど、そっちにも助け呼んだから。ね?」
あたしは出来る限り自信満々に微笑んで女の子が頷くのを見届けると、すぐに海に飛び込んだ。
(あー、やっぱりプールとは違うのねぇ)
襲ってくる波と感じる潮の香りに眉をひそめながら、昔よりはずっと楽に少年の手を取って浮標付のロープまで泳ぐ。
少年の様子を見ると、疲れてはいるものの、意識ははっきりしているようだ。
(うん。これなら大丈夫)
「もうちょっとだよ。浜辺に着いたらお姫様が待ってるから」
その言葉に怪訝そうに上げた顔に、浜辺にいる女の子を見やる。
視線の先に誰がいるのかわかったのか、少年の顔が緩んだのを、あたしは見逃さなかった。
浜辺までたどり着くと、顔をぐしゃぐしゃにした女の子が、あたしが言ったとおり大きなタオルで少年を包んでわんわんと泣き出した。
あまりの大きな泣き声に、あたしにタオルを渡そうとした真琴も何事かと振り返る。
(ありゃりゃ。ちょっと、そこはニッコリと微笑んで少年の心を鷲づかみにしなきゃ駄目じゃん)
そう思いながら、でも戻るときに見た少年のホッとした顔に、まぁいいかと思う。
集まってきた大人たちに連れて行かれる2人を見ながら、あたしも少し緊張していたのかもしれない、気が緩んだのか、足元がふらりと崩れた。
「優海?!」
トンッと軽く膝を着いた先は、柔らかい砂の上だったので、衝撃は少ない。
慌てた真琴が駆け寄ってくるのに、大丈夫と微笑もうとすると、膝とは比べ物にならない衝撃が頭に走った。