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白鷺の乙女たち  作者: 21。
あなたを探して
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鈴子・露子・菊乃 3

桜舞う4月。真新しい制服に身を包んだ少女達が期待に胸を膨らませ、正門を潜り抜けていく。

上級生達はそんな様子を微笑ましく思いながらいつもより姿勢を正して歩き、新一年生はその姿に憧れる。

そんな春の陽気の中、露子がため息をついた。


「2年生になっちゃったわ・・・」

「そうね・・・」


2人の“理想のお姉様”は見つからないまま、2人は2年生になった。

旧3年生は卒業してしまい、現在の3年生はとうに調べつくした旧2年生。

國永を除き、その中に心惹かれる上級生はいなかったという事実は、新学期早々から2人を憂鬱にさせた。


「もうダメね」

「まだよ、転校生とかいるかも」

「鈴子は本当に前向きね」


その時、ふと2人は正面を見て足を止めた。

2人の前を歩く3人の女子生徒。その更に少し先にこの学園内では初めて見る物があった。

車椅子だ。

そしてそれに乗っているのは間違いなく自分達と同じ制服の少女。懸命に手を伸ばす地面には、どうやって落としたのか白いハンカチが鎮座している。

指先をハンカチにかすらせもがいているその脇を先ほどの3人が楽しそうに笑いながら追い抜いた。

その瞬間である。


「「お待ちなさい!!」」


突然の声に3人だけでなく車椅子の少女までもがビクッと肩を揺らし、振り返る。3人より一瞬早く振り返った彼女は黒いおかっぱ頭で、瞳も同じように深い黒だった。

そしてその瞳に映ったのは、こちらを睨む2つの同じ顔である。


「あなた方、何年生?」

「い、1年です」

「新入生ね。あなた方、3人もいて誰も困っている人に気づかないの?」


眉間に皺を寄せたまま問う鈴子に泣きそうになりながら、1人が答えた。

一方、車椅子の少女は自分の目の前で始まった詰問にどうすることもできず目を丸くして見守っていたが、鈴子の言葉でその場にいた全員の目が自分に向くと、困った様子で顔を伏せてしまった。


「も、申し訳ありません!」


3人が鈴子に向かって頭を下げた。鈴子の眉尻がピクリと跳ねる。それを横目に、露子は車椅子に近寄っていった。


「私に謝ってどうなるの?!」


うららかな春の陽気と学園の雰囲気ににつかわしくない鈴子の怒声に、下級生達は一様に肩を震わせ、車椅子の同級生に向き直った。


「ご、ごめんなさい」

「私達、本当に気づかなくて・・・」


口々に謝る3人をわずかに見上げながら、少女は何度も首を横に振った。


「そんな、私は全然・・・!」

「あなたもあなたよ」


反対側からかけられた声に振り返ると、露子がハンカチについた土を払っているところだった。


「“助けて”くらい言えるでしょう?学園内ではみんな姉妹。助け合うのが当たり前なのよ」

「申し訳ありません・・・。ありがとうございます」


そう言いながら差し出されたハンカチを受け取って、頭を下げる。

納得したように頷くと、鈴子は露子の隣まで歩み寄り、“それじゃあ、”と言いながらサッと4人を見渡した。


「「ごきげんよう」」


2人並んで桜並木の先へ歩いていく。その姿をどこかホッとした様子でしばし見送ると、3人と1人は自然と顔を見合わせていた。


「あの、本当にごめんなさいね」

「そんな!私の方こそ・・・。私のせいで叱られちゃって・・・」

「いいのよ。私達が悪いんだもん」


1人が車椅子の後ろに回った。


「一緒に行きましょ」

「クラス、同じだといいね」


3人に囲まれて車椅子の少女も嬉しそうに笑った。


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