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白鷺の乙女たち  作者: 21。
あなたを探して
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鈴子・露子・菊乃 2

「ごきげんよう」


見知らぬ上級生らしき生徒が鈴子に微笑みかけていた。自分より背が高い彼女に、鈴子は本を胸に抱えたまま軽く頭を下げる。

“ごきげんよう”の声は静かに控えめに、余所行きの渾身の笑顔を彼女に向けた。


「よく鈴子とおわかりになりましたね。両親でも間違えますのよ?」


言いながら、相手が誰だったか記憶を探った。そしてようやく、朝礼で表彰されていた陸上部の3年生だと気づいたと同時に、その手が鈴子の前髪に触れた。


「前髪が右にあるのがあなただと伺ったから。綺麗な髪ね」


掬いあげるように髪を持ち上げ、パラパラと落とす。

そんな彼女の後ろ、本棚の影からコソコソと見ている生徒が何人かいるのを鈴子は見逃さなかった。

なんとも言いがたい、不思議な色香漂う彼女。きっと本人もわかっているのだろう。

こういった行為に赤面する乙女もいるのだろうが、鈴子はくすくすと笑うだけだった。


「まぁ、皆さんそんな見分け方をしていらっしゃるんですね。たまには逆にしなくちゃ」


上級生が合わせるように“ふふっ”と笑う仕草も艶やかだ。


「私のことはご存知?」

「陸上部のお姉様ですよね。でも申し訳ありません、お名前は・・・」

「いいのよ。お話しするのも初めてだしね」


“初めてで、こんなことを言うのはおかしいかもしれないけど”と前置きした上で、鈴子の右肩にそっと手が置かれた。


「あなた、私の妹にならない?」


----------


「私の妹にならない?」


露子にそう言ったのは美化整備委員長だった。合唱部の部長でもあり、ソプラノ担当。つい先日、個人出場したコンクールで優勝した成績を持っている。


「私、ですか?」


委員会が終わり、誰もいなくなった会議室で露子はキョトンとしている。

委員長はにっこりと笑って頷いた。


「あなた方、上級生から人気者なのご存知?」

「いえ、そんな・・・」

「2人揃って可愛くて、頭が良くて、家柄も申し分ないし」


“競争率高いのよ”とクスクスと笑う。


「恐れ多いです」


愛想よく答えれば、彼女が一歩露子に近寄る。香水でも振っているのだろうか、花の香りがした。

“それは校則違反なのではないのかしら”、と笑顔とは裏腹に思う。


「けれど、あなた方の“お姉様の条件”がとても厳しいのも有名よ?だからみんな手が出せないの」

「お恥ずかしいです。夢見がちな下級生の戯言と笑ってください」

「いいえ、目標は高くあるべきだわ」


そう言いながら露子の右手を、自身の両手で包み込むように持ち上げた。


「だから、私もあなたが欲しいの」


囁くような声に、少しだけ笑みが含まれている。手馴れた様子に、これで何人の乙女を我が物にしてきたのか、と内心軽蔑に近い警戒をしながら露子が笑う。


「申し訳ございません。せっかくのお申し出なのですが・・・」


そう言いながら右手をスルリと抜いた。


----------


「せっかくのお申し出なのですが、お応えできません」


深く頭を下げる鈴子を、困ったような顔で見る。


「どうして?私では釣り合わない?」

「いいえ、私にはもったいない素敵なお姉様です」


“だったら”と言いかけた相手に被せるように“ですが、”と置いて顔を上げた。


「私達、2人一緒じゃないと嫌なんです」

「え?」

「最初から2人揃って声をかけてくださる方じゃないと嫌なんです」


なおも困惑の表情が消えない上級生に、畳み掛けるように満面の笑みを浮かべた。





「「私達、我侭なんです。申し訳ありません」」





夕日が差す中庭。誰もいなくなったその場所のベンチで鈴子は一人、本を読んでいる。


「鈴子!」


その声に顔を上げると、双子の片割れが早足でこちらに向かってくるところだった。

“お待たせ”“大丈夫よ”等と言葉を交わすと2人並んで正門に向かって歩き出した。


「委員会、どうだった?」

「別に?普通よ。いつもと同じ。鈴子は?」

「私?私も変わらないわ。新しい本は借りたけれど」


顔を見合わせて少し笑う。


「本ってまた童話?」

「あら、けっこう面白いのよ?」

「ふぅん。読み終わったら貸してね」


他愛無い言葉を交わしながら2人の姿は学園から消えていった。



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