零―序章―
第一話(零―序章―)では、グロテスクな表現は在りませんが、第二話から出てくる可能性があります。ある場合は、前書きに書きますので参考にしてください。
「さ、早く行け。警察にばれちまうぜ!」
「って!もう二時じゃねえか!何でもっと早く言わねぇんだよ!」
黒いニット帽を被った男は、暗闇の中でスーツケースをもう一人のガラの悪そうな男に渡す。周りは、昼だと賑わっていたはずの遊具やブランコが置いてある。けれど、明るい時と打って変わって夜九時ごろからは、この場所は麻薬取引の格好の場所となるのだ。
さておき、今は午前二時。丑三つ時である。この二人は親友で、久しぶりに会ったらしく、一時に約束をしてから1時間もここで話していたのだ。全く馬鹿な奴等である。
「おい、俺が捕まったらお前も追うように言うからな!」
「馬鹿!そんな事言ってる暇があったら逃げろ!奴が出るぞ!」
スーツケースを持った男が、渡した男に冗談半分、本気半分の言葉を投げかける。渡された男が最後に言った…『奴』とは…もう直ぐ現れるのであえて説明しなくてもいいだろう。
―ひゅ
「な、なあ。今物音しなかったか…?」
「してねぇって!早く逃げろ!俺はもう行くからな!」
スーツケースを渡した男は、一目散に逃げていく。ニット帽の男も後を追おうとするが、石に躓いた。
「いってぇ…。」
―ガサ
確かに聞こえた、『ガサ』と言う物音にニット帽の男は身震いする。ガサと言う物音の後には何も音がしなかったので、それが余計に怖かったようだ。
「お、オイ…テツタ…何処だよ…!俺を置いて行くなよ!」
全く声も、音も聞こえてこない。ニット帽の男は恐る恐る立ち上がって砂を払う。
「ひゃ…ぎゃあああああああああっ!」
ニット帽の男の悲鳴と共に、小さくガサガサと言う物音がする。それに気付いた男は思わず全速力で走り出す。その後を追うようにガサガサと音がする。
―次の瞬間。
「お命、頂戴。」
小さな言葉と共に、男が独り倒れていた。
「我が名は、朱斬。お命頂戴致した。」