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鬼神  作者: せんとくん
4/4

MORNING

 急に差し込んできた朝日がまぶたをさす。

 半ば反射的に体を丸め、布団をかぶろうとしたが、何者かが布団を引っ張っている。読まれていたか。

 互いに布団を引っ張り合うこと数秒、相手の力が急に強くなった。一気に勝負を決めるつもりか、ならばこうだ。

 あえてボクは引っ張る力を緩めた。


 「ふへぇっ!?」


 間の抜けた声をだして相手はしりもちをついた。作戦成功だ。素早く布団をひったくりくるまる。

 勝った! 第4部完ッ! レッツ二度寝!



 寝れない。完全に目が覚めてしまった。試合に勝って勝負に負けたか。彼女が追い打ちをかけるかの如く耳元で声を張り上げている。


 「おっきろーコン!」

 「もう起きてるよ。おはようルリ」


 時計を見ると7時だった。起きるには少し早すぎるような気もする。抗議の意味を込めて彼女を軽く睨みつける。

 「そんな目で見られたところで痛くも、かゆくも、気持ちよくもないわ! まだまだ修業が足りなくてよコン! 一緒に走りましょう! ともに青春の汗を流すのよ!」

 「やだ」

 「お姉さまと呼んでいいのよ!」

 「やだ」

 どちらかと言えば彼女のほうが妹だ。寝起きでこのテンションを相手にするのはなかなかにきつい。自然と返事も適当になる。

 「ノリ悪う~」

 目の前の少女_ルリはぷくりと頬を膨らませて見せた。小柄な体格やくりくりとした目とあいまって可愛らしい。まるでリスのようだ。

 「はいはい。ところでどうしてこんな早くに? 寺子屋に行くにしてもまだ早いよ」


 「なんとなく!」


 手をあげてはきはきと答える。元気があって大変よろしい。しかし理由もなく安眠を妨害されてはたまらない。おのれゆるさん。


 「ウソウソ! ちゃんと理由はあってよ!」


 手刀を構えたボクを見てあたふたと前言を撤回する。


 「それでその理由って?」

 とりあえず聞いておこう。


 「あたしね、空中を自由に駆け回れる脚力をつけたくて鉄ゲタをはいてトレーニングしようと思ったの」

 「すでに何もかもおかしいよね。動機から手段からすべてにおいて間違ってるよね」

 「でも家を出る前に鉄ゲタを持ってないことに気付いたのよ」

 なんと残念な子であろうか。無計画にもほどがあるぞ。


 「それでなんでボクの家に?」

 「コンの家、鍛冶屋じゃない。鉄ゲタあるかと思って」

 さすがにあるわけないじゃん。

 「それでコンのおじいさんに聞いてみたら、あるけど貸出中なんだって」

 あるのか。そして貸出中なのか。

 「ヒマだからコンを起こして遊ぼうと思ったわけよ」

 なるほど。事情はわかった。抒情酌量の余地なし、被告をやや強めチョップの刑に処す。そいやっ。


 「いたっ! わりかし本気でいたい! 暴力反対!」

 「ああちょうどいい時間だね。そろそろ行こうか」


 おおげさに騒ぐルリを無視して出かける支度をする。支度といっても特にすることはない。忘れ物がないかカバンの中を確認。階段を下りて鍛冶場のある一階におりる。


 「おはよーじーちゃん」

 「ああ、おはよう」

 サビゾウ。ボクの祖父で育ての親。両親がいないボクにとって唯一の肉親だ。髪は真っ白で年齢不相応な筋肉質な体に、しわのよったいかつい顔。いかにもといった風貌だ。


 「いってきますおじいさま!」

 「おおルリちゃん気を付けてな」

 実際はごらんのとおりあまい性格である。子供と女の子限定ではあるが。とはいえ見た目頑固親父そのものの彼に進んで関わろうとする者は少なく、彼の人となりを正しく知る者はわずかだ。物怖じせずに接するのはルリくらいである。まあ彼女はマムシを素手でつかんで振り回すような子だからどんな人間でも恐ろしくはないのだろう。

 

 「コン、飯は食っていけ」

 「いいよ別に。ルリを待たせるのは悪いし」

 「ならん。昨日の晩も部屋にこもりっきりで食っとらんじゃないか」

 そういえばそうだった。今日寺子屋が休みなのをいいことに遅くまで設計に夢中だったんだ。今日は昼まで寝てられるから


 ん?


 「ルリ……今日は寺子屋休み……ああっ!」

 「オーホッホッホッホーーーーーーーーーーーーゥ!!」

 彼女は脱兎のごとく駆け出しており、その姿はすでにはるか遠くにあった。ホントにいたずらのためだけにボクを起こしたのか。休みの日に寺子屋に行こうとしていたボクを見て、今まで笑いをこらえるのに必死だったのだろう。彼女は視界の端にいるにもかかわらず無駄に上品ぶった笑い声が聞こえてくる。

 怒りを通り越してなんだかやるせない。ボクの安眠をかえせ。ちくしょう。


 「ごちそうさま」

 「うむ」

 麦ごはんに、野沢菜の漬物、味噌汁。質素だが理想的な朝食を終える。朝の味噌汁はいいね、人間の生み出した食文化の極みだよ。年甲斐もなくふとそんなことを思う。このためだけにも早起きした価値はあったかもしれない。だからと言ってルリへの感謝の気持ちなどみじんもわいてこないが。


 よし、寝よう。二度寝だ二度寝。もはやわが眠りを妨げるものはおらぬ。


 「クソジジィーー!! いるかーー!!」

 「朝っぱらから何の用じゃクソガキがァーー!!」


 寝せてよ。ちくしょう。


 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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