STORM
少年は死が迫ってくるのを感じた。
12、3歳ぐらいだろう。まだ幼さを残した顔は恐怖でひきつり、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。少年は木の影にうずくまり、遊び半分でこの森に踏み込んだことを、ただただ後悔していた。後悔以外にできることがなかった。
背後からは小枝が折れる乾いた音が、片時も途切れることなく聞こえてくる。そしてそれは確実に彼の方に近づきつつあった。徐々に大きくなる死神の足音に、彼は体を小さく丸め、汚れほつれた着物の端を握りしめた。
突然、少年の全身に衝撃が走った。全身が硬直し、一瞬思考が停止する。振り向いて、彼は危うく意識を手放しそうになった。彼が身を隠していた大木に、クワガタのような大顎が突き立てられている。それは万力のように徐々に、しかし力を緩めることなく木を締め上げてゆく。数秒後、断末魔の悲鳴とともに少年を守る唯一の砦はへし折れた。
それはまさしく怪物であった。ぬらぬらと黒光りする甲殻、せわしなく動き続ける無数の足、毒々しい朱色の頭。ムカデ。姿こそ地べたを這いずり、人に踏みつぶされる虫けらと変わりない。違いはその5メートルはあろうかという巨躯のみだ。ただそれだけの要因で人と虫との立場は入れ替わる。人は殺され、食らわれる。
少年は自分の下半身が生暖かい液体で濡れるのを感じた。腰が抜け、逃げることもままならない。彼は断頭台に立つ罪人となんら変わりなかった。ギロチンが振り下ろされるまで、泣いて祈ることしか許されない。
突如、爆音とともに大ムカデは吹っ飛び、地面に転がった。べたべたとした体液が辺りに飛び散る。ムカデの胴体は中ほどから千切れ飛んでいた。頑強な甲殻は無残に焼け焦げ、中身がむき出しになっている。事態を全く呑み込めていない少年が次に見た者は、茂みから飛び出した巨人だった。