少女は吸血鬼
6月中旬、とある校舎裏。そこは気になるあの子に愛の告白する場所だったり、はたまた、気になるアイツに集団リンチをしかけたりする場所だったり、まあいわゆる「学生だけの空間」だった
校舎裏で1組の男女がいた。色黒の男子と対照的に色白の女子がいた。女子のほうは、そわそわとした様子だったが、意を決したように、大きく息を吸って、言った。
「あなたの血を下さい!」
男子。形部(かたべ)は校舎裏でそんな告白をされた
「は?...今なんて?」
言われた方の形部が強張った表情で聞く。
「だからっ!君の血を下さい!」
告白した少女は何を焦っているのか、早口でそう答え、形部はさらに狼狽える。
「え、っと、君が言ってる"チ"って言うのは、血液の"血"?」
「そう、だから...ああ!もう我慢できない!いただきます!」
少女が襲いかかってきた!
「うわあ!」
形部は咄嗟に体をそらし避けた!
ガンッ!
「うがゅっ!」
彼女はそのまま勢いよく壁にぶつかり、よくわからない短い悲鳴をあげて、倒れた。
「だ、大丈夫?」
形部が心配そうに覗き込むと、少女は頭を抱えて痛みに悶絶していた。
「だ、だいじょばない...」
「へ?」
少女がなんと言ったか形部には聞きとれなかったが、とりあえず大丈夫ではない事は、その痛々しい姿から理解できた。
「と、とりあえず、先生を...」
そう言いかけて、形部は口をつぐむ。
(仮に先生を読んだとして、この状況をどう説明する?)
仮に、いくら教師が彼に友好的であったとしても、ありのまま、
「女の子が飛びかかって僕の血を吸おうとしました!」
と言って、信じてくれる教師はいないだろう。いたら、その教師のほうが問題だ。かと言って、嘘をつくにも、特殊すぎて嘘のネタがない。
いっその事、彼女がタックルの練習をしていた事にしようかと思っていた時、
「ふいー。今のは痛かった...」
形部が悩んでいると、少女が涼しい顔で、スッと立ち上がった。
「え?大丈夫なのか?」
「うん。もう治った。心配かけてご、め...。ああ!そうだった血!」
少女は思い出したように叫び、ガシッと形部の肩を掴む。
「え、ちょ」
「大丈夫。ちょっとチクッてするだけだから。...多分」
「それは大丈夫じゃないだろ!?」
手を振りほどこうとするが、彼女の細腕からは考えられないような力で押さえつけられる。
「先っぽだけ!先っぽだけだから!」
「く、クソッ!や、やめろ!っこの!」
(どうにかして離れなければ!)
そう思い、少女に思いっきり頭突きをくらわす。
ゴツンッ!
形部の頭突きはちょうど彼女の鼻の真ん中、いわゆる人中にクリーンヒットした。
「あぐゅ!」
少女は鼻を抑えながら、仰向けに倒れこみ、
ゴンッ
「うごっ!」
後頭部を強打して、気絶した。
*****
しばらくして、少女は目を覚まし、ケロっとした顔で立ち上がった。形部はとりあえず、彼女から事情を聞くことにした。
「なんで縛るの...」
「それならすぐには襲ってこれないだろう?」
今現在、少女は手を縛られて正座をし、形部がそれを腕を組んで見下ろすといった、さながら人質と犯人のような構図になっている。
「じゃあまず、君が誰なのか教えてくれ」
「はいはい、分かりましたよ...。私は大山 信子。あなたと同じ1年生。」
渋々ながら、大山が答える。
「わかった。僕は形部 月春、同じー」
「知ってる。調べたもの」
サラッと衝撃的なことを言われ、黙る形部をよそに、彼女は話し続ける。
「この際だから、もう全部話すわ。私、吸血鬼なの。ほら」
そう言って、指で自分の口を広げる。キレイに並んだ歯の中に2つの八重歯、と言うには不自然に長く、鋭い犬歯があった。
「...は?」
(キュウケツキ?吸血鬼ってよくファンタジーに出てくるあの吸血鬼?)
「あ、でも、勘違いしないで欲しいんだけど、私は'純粋な'吸血鬼じゃないわよ。クォーターなの。それで...って、聞いてる?」
「聞いてるよ...」
吸血鬼、それなら先ほどまで「血が欲しい」と言っていたことや、異常なまでの回復力にも納得がいく。
(あれ、納得していいのか?なんか違うんじゃないか?)
しかし、他に納得がいく理由があるわけでもない。形部は吸血鬼などと言うファンタジーの塊みたいなモノをすんなり受け入れた自分に驚きつつも、口を開く。
「つまり、君が吸血鬼だから、血が欲しかったと」
しかし、それでも疑問は残る。
「でも、なら僕じゃなくてもいいじゃないか」
「う...」
最もな質問に大山は困った顔をする。
「えぇーと、さっきも言ったけど、私はクォーターなの。だから、生涯、1度も血を飲まなくても生きていけるの」
「へ?じゃあなんで?」
思わぬ事実上により、彼の疑問はさらに深まる。
「そ、その...」
恥ずかしそうに彼女は告げる。まるで、好きになった理由を聞かれたウブなガールフレンドのようだ。
「あなたの血が凄く美味しそうに見えたから...」
「は?」
|(ドウユウコト?)
「いや!その吸血鬼の能力みたいなモノで、誰の血が美味しそうか不味いかなんとなく分かるんだけど、君はその中でもズバ抜けて美味しそうだったから、一口もらおうかなー、なんて」
形部の表情を見て、どう受け取ったのか、慌てて言うと何故か、へへへへ、と照れ笑いをする。はたから見ると、まるで、髪型を褒められら子供のようだ。が、
「なんだそりゃ」
形部は思わず、思ったことをそのまま口に出してしまった
「あ、信じてないの?本当なんだから、今だって我慢して...やっぱり我慢できない!」
大山は、がばっと立ち上がろうとした。
「おろ?」
しかし からだが しびれて うごけない!
彼女は中途半端な体勢で顔面から倒れこみ、今日何度目かの、短い悲鳴を上げる。
*****
「鼻がー!鼻がぁー!」
鼻を抑えながら、悶え苦しみひーひー言っている大山を見て、形部は深い溜息をつく。
「おい」
「ひゃい」
しゃがんで、鼻を抑える大山をじっと見る。
「な、なんでふか?」
「少しぐらいなら良いぞ」
きょとんとする大山。
「ああもう!少しぐらいなら、血を飲んでも良いって言ってるんだ!」
「本当!」
いままでの痛みを忘れたかの様に大山が目を輝かせる。
「まあ、肉を食えば血なんていくらでも出せるしな」
(まあ、悪いやつじゃなさそうだし、ただ単にバカなだけなんだな)
その目はまるで、壁に埋まって動けなくなったNPCを見るかのような目だった。
「ありがとう!じゃあ早速...」
と、そんなことはお構いなしに大山は首筋に噛みつこうとする。
「そこはダメだ」
「えー」
形部に手で顔を抑えられ、渋々離れる。
「じゃあ、指にします。出して」
「こうか?」
言われるまま、人差し指を出すと、それを大山はカプリと咥える。
(...あれ?痛くない?)
確かに噛まれた感触はあるのだが、痛みが全くないのだ。なんとも言えない奇妙な感覚だった。
(これも吸血鬼の能力?)
大山は歯を指から離し流れ出た血を吸い始めた。
(って!これは!今思ったけど、相当刺激の強い光景だぞ!)
確かにはたから見ても、思春期の男子には少し過激な光景見えた。
そう思った瞬間、形部は慌てて手を引っ込める。
「あれ?」
不思議なことに指は無傷のままである。しかし、ドクドクと血の流れる感覚は嘘ではない。
「う...」
声をしたほうを見ると、大山が肩をプルプルと震わせていた。
「お、大山さん?」
「うまい!」
カッと目を見開きそう叫ぶ。まるで、練って美味しいお菓子の魔女のようだ。
「はい?」
「これが血の味か!すげえ!今ならなんでも出来る気がする!」
そのまま、クルリと背を向けると、
「うおおおおおおおお!」
雄々しく叫びながら、走り去っていった。
「な、なんだったんだ...」
数時間後、教師に廊下を走っているところを怒られ、しょんぼりしながら帰ってきた。
しかし、形部の災難はまだ、続くのであった...
どうも、Takukiと言う者です。友人に影響されて自分も、ない知恵絞って書いてみました。
しかし、書いて、読んでみると、これがひどいひどいw
これからもっと精進していく予定です。
それでは最後まで読んで頂きありがとうございました。