幼馴染とはくっつかない、はずよね…?
「ねえ、この小説すごくおかしかったの!聞いて!?」
「聞いてあげるから落ち着きな?で、何がおかしいって?」
「ヒロインが貴公子といい感じだったのに、結局、身分違いに悩んで、幼馴染の男と駆け落ちしたの!意味わからなくない!?」
「なんでさ。読んでないからわからないけど、身分差はどうしようもないんじゃない?
「フィクションなんだから、結ばれてよっ!というか、幼馴染と恋仲に発展する方が現実味ないでしょ!」
「……フィクションだからって、言葉はどこ行ったの。あとそれ、君の幼馴染である僕に対する侮辱ってことでいい?」
幼馴染の男が、目の前で顔を顰めている。
だって、幼馴染と恋仲ってありえないでしょ?
ずーーーーーーっと、バカみたいに一緒にいるのよっ?
おしめをつけている頃から、知っているのよ?
おねしょして怒られて慰めてあげたこともあれば、おやつを隠れて食べて一緒に怒られたこともあるのよ?
貴族学校で「顔も成績もいいのに、身分が低くなければ素敵なのに」って女性陣から言われているのも、耳タコなのによっ?
あ、今のは、事実を言い過ぎた。
とにかく、ないでしょ!?
「だって、もはや家族みたいなものなのに、今更恋愛感情が湧くっていうの?」
「あったんだろ、小説の中では」
「貴公子とあんなにいい感じだったのに…!身分差くらい何よ。『君のことを諦めたくない』ってあの言葉はなんだったわけ?それなら、追いかけなさいよ!」
「随分ご立腹だね、そんなに気に入らない?」
「ヒロインが身を引くだけだったら感動した。でも、幼馴染に逃げたのはガッカリ」
「ふーん」
「言い寄られたら気持ちまで変わっちゃうわけっ?何が愛だか、わかりゃしないじゃないの!」
「幼馴染とは長年の強い絆があって、その家族みたいな愛の方が安心したんじゃない?」
「納得いかない〜〜〜〜〜!幼馴染と恋愛なんて起きない〜〜〜っ!」
わああっと机に突っ伏すと、コラコラと叱られた。
「君も一応貴族令嬢なんだから、学校内ではそういうことしないの」
「…吹けば飛ぶような男爵家の人間が何ししても、気にされないわよ」
「カフェテラス内でも、教師に見つかれば礼儀作法は注意されるよ?」
「…はーい」
仕方なく体を起こして、授業で習った通りの姿勢に戻る。
下位貴族は上位貴族と違って、基本的な礼儀作法の授業すらある。
カリキュラムが違い過ぎて、立派な上位貴族の方々には「微笑ましいわねえ」と和まれるだけだ。
上に行けば行くほど、心に余裕があると知ったことが、学校に来て一番よかったことかもしれない。
その上位貴族のお姉様方に、「顔も成績もいいのに、身分が低くなければ…」と言われる、この幼馴染の方がおかしいのだ。
もっと高望みをすればいいのに、本人はまるでその気がない。
頑張れば、伯爵令嬢くらいならお嫁に来てくれそうなのに。
相変わらず婚約者もいないから、私も気軽に話せるけどさぁ…。
「……幼馴染と恋なんて、つまらないわ」
「そこまで言うには、何か理由でもあるの?」
「だって、私の幼馴染はあなた以外、みんな変なんだもの」
「それは、まあ、…何とも言い難いというか」
苦笑いしている彼を見て、ほら見たことかと言う気持ちになる。
もう少し良さげな幼馴染に囲まれて育ってたら、私もこんなに頑なに否定しなかったかもしれない。
でもさあ〜、あなただって心当たりあるわけでしょ?
本当はこの貴族学校に一緒に入学するはずだった幼馴染たちがいた。
一人はまあまあやらかして遠方に飛ばされて、一人は旅人になりたいからとさっさと家を出た。
もう一人も、貴族学校に行っても嫁ぎ先を探すの大変そうだからと、さっさとお金持ちの商会の後妻におさまった。
13歳にして強か過ぎて、フツウに引いたのをよく覚えている。
「ネジ外れている男たちと、逞しすぎる女しか見てないのよ?私たちの仲に、恋に発展しそうな瞬間、あった?」
「…彼らは、元気だからさ」
理由になっていないにも、程がある。
だから、『ない』って言っているじゃないの。
「だから、ありえないの。幼馴染は、『今日も生きてるといいね〜』ってたまに思うくらいの関係なの」
「言いたいことはわかったけど、全くなしと言われるのは納得いかないなあ」
珍しく食い下がってくるので、首を傾げる。
いつもなら、小説の話をしても、「はいはい」と受け流すのに。
「何がそんなに気に食わないのよ」
「全部」
「はあ?」
「だって、君は幼馴染が一瞬たりとも恋心を抱かないって言うんでしょう?」
「そうよ」
「もし仮に、君の幼馴染に好意を抱かれたことがあったらどうするの?」
「何それ、気持ち悪いっ。ほら、見て、鳥肌たった…!」
腕を見せつけながら、ブルリと震えた。
遠方に送られた男の幼馴染は、喧嘩しかしたことないしっ!
旅に出たもう一人も男の幼馴染は、興味の向かう先が突拍子もなくて、ついていけなかったしっ!
女の幼馴染でさえ、友達ぐらいがちょうどいい距離感なのにっ!
無理無理無理っ、ないないない、ありえない、しんどいって…!
「へええ〜、そんなに嫌がるなんて、結構酷いと思わない?」
何だか怖い顔になってきたけど、ここは譲れない。
「え?だって、本当のことじゃない。あの人たちと恋仲って、無理がありすぎでしょう。あなたも今そう言ったじゃないの」
「……それ、僕も含まれているわけ?」
「ええ?何それ。考えたことないけど、そんなこと天変地異が起きてもないんじゃない?だって、あなたにはもっと大切なものがあるだろうし」
「何、他に大切なものって」
「お家とか、領地とか、お嫁さんとか?」
「……なるほど、僕は遠慮の仕方を間違えていたみたいだ」
「へ?」
何か嫌な予感がしたけれど、彼はニコリと笑った。
「ねえ、知っている?学校内で言われている通り、確かに僕の身分は低いけど、君よりは上だって」
そんな当たり前のこと、知っているに決まっている。
彼は子爵家で、うちはそのさらに分家の男爵家だ。
というか、お姉様方にそう言われているのを知っていたのか。
「つまり、我が家から申し入れがあったら、君の家は断れないわけだ。いくら気安い仲とはいえね」
「…な、何の話をしようとしているの?」
「ん?君の家に結婚を申し込もうかなって」
「は」
「それで、幼馴染にも愛があるって証明してあげるよ。僕が生涯をかけて」
彼は、悪い顔でニヤッとした。
まずい、この顔をしている時は、何が何でも自分の意思を押し通す時だ。
暴力でどうにかしようとした私の乳母を辞めさせた時も、そう。
剣術の道を薦められながらも、座学に力を入れるためにこの学校に入学することに決めた時も、そう。
もう一人の幼馴染でやんちゃだった彼の従兄弟を、家門の恥だからといつの間にか遠方に送っていた時も、そう。
残念ながら、幼馴染だから知っている。
そして、この人を怒らせたら、一番怖いってことも…。
「あの、ちょっと待って」
「いや〜、今から楽しみだなあ。君との結婚生活」
「待って…!?えっ…!?」
「はははっ、これまでは遠慮していたけど、もういいや。これから覚悟してね」
「何を!?」
「僕に愛されること?」
そう不敵に笑う幼馴染を見て、ほらやっぱり幼馴染はまずいって、と思うなどした。
了
お読みくださりありがとうございました!!
242日目。




