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Warm Place  作者: ころ太
本編
8/41

回想3

ただがむしゃらにカチャカチャと音を立てて、四角いおもちゃを動かす。

なかなか思うように色が揃わなくて、ついに私はそれを放り投げた。


「無理!難しくて私にはできない!」


彼女は芝生に転がったルービックキューブを拾い上げて、呆れたような顔をした。


「諦めが早いわね。もっと努力しなさいよ」

「頭を使うのって苦手だもん」

「そうだったわね」


彼女はカチャカチャと何度かキューブを動かしたかと思うと、私に向けて差し出した。


「え、全部の色が揃ってる……」

「適当にやったら揃っちゃったわ」


涼しい顔で、そんな事を言った。


「不公平だー!」

「そんなこといわれても」


私の八つ当たりに彼女は少し困った顔をする。

そんな表情をする彼女は珍しくて、罪悪感を感じつつもちょっぴり嬉しかった。


「練習すれば、きっとすぐに出来るようになるわよ」

「そうかなぁ」

「クッキー作りだって、上達したじゃない」


まだ彼女の口から「美味しい」という言葉を聞いた事はないけれど、

最近になって「まあまあね」と言ってくれるようになった。

それからクッキーだけじゃなく、ケーキやワッフル等いろいろなお菓子を作り始めて、いつの間にか楽しくなっていた。


「うーん、お菓子作りは趣味だから」


興味のないことにはあまりやる気が湧かない。

それでも彼女がやれというのなら、私はやるかもしれないが。

ふとポケットの中の携帯が震えたので開いてみると、メールが一通届いていた。


「……誰から?」

「妹から。あの子、最近親にプリカの携帯を買ってもらったから、よく送ってくるんだよね」


メールの文面を読んでみると、<なんじにかえってくるの?(>△<)>とかいてる。

もう顔文字の使い方までマスターしているみたいで、微笑ましい。

買ったばかりの頃は意味不明の数字を送ってきたので、それに比べると格段の進歩だった。


彼女が私の携帯を覗き込んできて、目を細める。


「帰ってきて欲しいみたいね」

「へへ、甘えん坊さんだからなぁ」

「家に帰ったらどう?」

「え、でも」

「いいから帰りなさい」

「はっ、はい!」


睨みつけるような目と、有無を言わせぬ言い方に思わず萎縮してしまう。

強く言われたら断れない私の性格を知っている彼女は、ずるいと思った。


「じゃ、じゃあ帰るね」


仕方なく家に帰ろうと彼女に背を向けたけれど、服の裾を引っ張られてしまったので帰る事が出来ない。


「なに?」


不思議に思って彼女の方を振り返ってみたが、顔を伏せていたので表情を伺うことは出来なかった。

一体どうしたというのだろう。


もしかして、帰ってほしくないとか?

いやいや、まさか彼女に限ってそんなことはないか。

それに帰れといったのは彼女なんだし。


「……………」

「……………」


彼女は何も言わない。

だから、私も何も言えない。


動く事ができないからしばらくそのままでいて、その間ずっとお互いに黙っていた。

彼女は何を考えているのかよくわからない。

いつだってそうだ。

ただ、私が鈍いだけかもしれないけれど。

でも。


「ごめん」


ようやく彼女が裾を離してくれたので、動けるようになった。


「私もそろそろ戻らないと。……じゃあね」


彼女が屋敷の方に戻っていくのを、ただ黙って見送っていた。

その後ろ姿がなんとなく儚げで、消えてしまいそうで、不安だった。


だから、私は控えめに……彼女の名前を呼んだ。

その呼び掛けが聞こえたようで、彼女はこちらを振り返る。


「頑張るからっ!」


「え?」

「ええと、そうだ、ルービックキューブ!練習して、早くクリアできるように頑張る!」

「…無理じゃないの?」


ちょ、練習すれば出来るようになるって言ったくせに!?


「無理じゃないよ!!」

「……………………」

「…………っ!」

「頑張ってね」


彼女の顔が、ほんの少しだけ笑ったように見えた気がして。

私が呆けているうちに、彼女は屋敷に戻っていって、いつの間にか姿が見えなくなった。


……その日、絶対に彼女よりも早いタイムでキューブの全面を揃えてやるだと心に決めて、私は家に帰った。

それから1週間ほど練習して全面揃える事が出来るようになったけど、どうしても彼女より早くクリアすることは出来なかった。

それでも彼女は努力の成果を認めてくれたが、私はその結果に満足できなかったのだ。



結局、いつまで経っても目標を達成できなくて、ひどく悔しかった。




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