回想2
「はい、これ」
相変わらず無表情の幼馴染みに、綺麗にラッピングしたちいさな袋を差し出した。
彼女は表情を崩さずに黙って受け取ると丁寧に袋を開けて中を覗き込んだ。
「…クッキー?」
「うん。お母さんに教えてもらったから作ってみたんだけど」
「初めて作ったの?」
「そうだよ」
「…食べたら死なないかしら」
「ひどい!」
「冗談よ」
彼女は袋の中から形の悪いクッキーをひとつ取り出して口の中に放り、ぼりぼりと食べている。
一つ食べたかと思ったら二つ三つとどんどん口の中に入れていく。
美味しいとも不味いとも言わないし表情も読み取りにくいので、気に入ってくれたのかわからない。
「ええと、おいしい?」
「…………甘すぎ」
「ご、ごめん」
どうやら砂糖を入れすぎてしまったようだ。
ちゃんと量って入れたつもりだったんだけど、多かったみたい。
ほんの少しのさじ加減で味が変わってしまうとお母さんが言っていたのを思い出す。
「次回に期待してるわ」
「えーと、それはまた作ってこい、ってこと?」
「ご自由にどうぞ?」
「が、頑張ります」
彼女の口からはっきり「美味しい」と言わせたいので、また挑戦することにした。
――今度はきっと美味しいクッキーを作ってみせる。
私はこっそり自分の心に誓った。
ふと気付けば、彼女は甘いと言った私の手作りクッキーをまだ食べ続けていた。
「別に無理して食べなくてもいいよ?」
「無理なんてしてない。ただ、お腹すいてるだけだから」
「あ、そうなんだ」
私の作った甘すぎるクッキーじゃなくて、自分の家にあるお菓子を食べればいいのに。
そう言おうとしたが、それよりも早く彼女はクッキーを食べ終えた。
「ごちそうさま」
「う、うん」
「クッキーのお礼に、これをあげる」
そう言って彼女は庭の隅に咲いていた花を摘み取って、私に渡した。
「勝手にお花とって怒られない?」
「私の家のものだし。それに一個ぐらいわかりっこないわよ」
「……ありがとう。これ、なんていう花なの?」
綺麗な赤い花。花の名前はチューリップとかひまわりとか有名なものしか知らない。
「秘密。それぐらい自分で調べてみたら?」
「教えてくれてもい………いえ、何でもないです」
ジロリと恐い目で睨まれたので、私は思わず目を逸らした。
「名前なんていうんだろう……」
気になるけれど、今は彼女と遊ぶほうが先だ。
家に帰ってから図鑑で調べてみよう。
名前のわからない綺麗な赤い花を大事に手提げにしまって、私は彼女と遊ぶことにした。