回想
「遅い」
生い茂った草を掻き分けてようやく辿り着いた庭に立っていたのは、
私より2つ年下の可愛い女の子。
けれど可愛らしいその顔が不機嫌そうに歪んでいたので、思わず後退りしてしまう。
「遅いって、たったの5分遅れただけだよ?それくらいいいじゃない」
「駄目よ。そんな言い訳が社会で通用すると思っているの?」
「……そんなの大人になってから気をつければいいよ。まだ子供なんだから見逃してよ」
「今からちゃんとしていないと大人になってから後悔するわよ?」
「はいはい」
「はい、は一回でいいの」
「………はい」
これ以上反発しても無駄だと思ったので、おとなしく彼女のいう事を聞いておく。
まるで母親のように厳しく注意する彼女は年下のはずなのに、私より大人でしっかり者だった。
背は私の方が高いから見た目は私の方が年上に見えると思うけれど。
私は服についた葉っぱを落としてから、目の前にある大きな屋敷を見上げる。
よく知らないけど彼女の家は由緒正しき旧家らしく、いわゆるお金持ちというやつだ。
「…勉強、もう終わったの?」
「休憩中」
「あ、終わってないんだ。…遊んでて大丈夫?」
「後でちゃんとやるから問題ないわよ」
「ならいいけど」
お嬢様である彼女は習い事や勉強ばかりしていて遊ぶ時間が殆どない。
だから私は家の人に見つからないように玄関からではなく、草の茂った抜け道を通ってこっそり彼女の元へ遊びに行っていた。
「私、勉強の邪魔してないかな?」
「別にそんな事気にしなくていいから。勉強ばっかりだと息が詰まるからいい気分転換になるわ」
「そっか」
少しでも自分が彼女の役に立てるのなら、よかった。
それに私も彼女と遊ぶのは楽しいから一石二鳥というやつだ。うん。
「ねえ」
「うん?」
「何して遊ぶ?」
「そうだな~、今日はいい天気だしお昼寝しよっか。勉強の疲れもとれるし」
「貴女はいつもそればっかりじゃない」
「えへへ、うん。ポカポカ暖かくて気持ちいいよ?」
暖かい太陽の日差し、そして心地よい風が眠気を誘う。
話しているうちに段々と眠くなってきた。
「……もう眠たそうね。遊びに来てすぐに寝れる図太い神経が羨ましい」
「あはは…は…ごめ、ん」
申し訳ないと思っていても睡魔は容赦なく襲ってくる。
「ま、別にいいけど。起こしたらちゃんと起きてよね」
「…うい~」
一緒に寝ようと言うつもりだったのに、あまりの眠たさに口が動かなくてそのまま目を閉じてしまう。
私はよく彼女の隣で眠ってしまうけれど、彼女はいつだって私が起きるのをただ静かに待っていてくれる。
だから今日こそは、彼女と一緒に寝ようと思っていたんだけど。
「おやすみ…」
最後に彼女の小さな声を聞いて、私の意識は深く深く沈んでいった。