第六話 灯台守の告白
嵐の翌日から、セイラは灯台に通い始めた。
港の端、小高い岩の上に建つ白い塔。灯台守はカールという五十代の男で、無口で日焼けしていて、最初はセイラを見ても何も言わなかった。
「灯台の仕組みを見せていただけますか」
「なぜ」
「記録を取っています。気象と難破事故の関係を調べていて」
「令嬢がそんなことを」
「気になるので」
カールはしばらくセイラを見てから、「好きにしろ」と言った。オットーと同じ返事だった。この町の人間は、最終的に「好きにしろ」と言う。
灯台の内部は螺旋階段が続いていて、上に行くと大きなランプがある。油を燃やし、反射板で光を増幅させる仕組みだ。点滅は歯車と遮光板の組み合わせで作られている。
「点滅の間隔は変えられますか」
「変えられる。でも変える理由がない」
「過去に変わったことは」
カールが少し固まった。
「嵐で壊れたことがある。設備の故障だ」
「何年前ですか」
「……三年前と、五年前と、七年前」
セイラはノートに書き込んだ。事故の年と完全に一致する。
「毎回、嵐のせいですか」
「そうだ」
「修理の記録はありますか」
「ある」
「見せてもらえますか」
カールは少し躊躇してから、棚から古い帳簿を出してきた。セイラはそれを受け取り、修理記録を読んだ。
業者の名前。修理内容。費用。
三年前の修理。業者名「ハルト工務」。費用、二百金貨。
五年前の修理。業者名「ハルト工務」。費用、二百金貨。
七年前の修理。業者名「ハルト工務」。費用、二百金貨。
セイラは顔を上げた。
「毎回同じ業者で、毎回同じ金額ですか」
「そうだ」
「嵐の規模が違っても?」
カールは黙った。
セイラは修理記録をもう一度見た。「ハルト工務」。この業者の名前は、ギルドの難破事故記録には出てこなかった。でも気象台のオットーが記録を欠かした年と一致している。
「カールさん」とセイラは静かに言った。「修理が必要なほど壊れたのか、それとも壊れたように見せたのか、どちらですか」
長い沈黙があった。
カールは窓の外の海を見た。
「……あんたは、何者だ」
「ただ記録を読んでいるだけです」
カールは深く息を吸った。それから椅子に座り、両手をテーブルの上に置いた。
「十年前に借金があった。返せなかった。ある男が肩代わりしてくれた。その代わりに、言われた通りにしろと」
「言われた通り、というのは」
「年に一度か二度、指定された夜に灯台を消す。それだけだ」
「誰に言われましたか」
カールはまた黙った。
「カールさん。三年前の事故で三人が死んでいます」
「知っている」カールの声が少し低くなった。「毎晩、夢で見る」
「教えてください」
カールは窓の外を見たまま、名前を言った。
「ヴィンダール子爵だ」
セイラは宿に戻り、テーブルに座ったまましばらく動けなかった。
ヴィンダール子爵。グスタフの父親。一週間前に自分の婚約を解消した男。
自分に直接関係する人物だということは、どうでもいい。
問題は、この人物が十年以上にわたって灯台を操作し、難破事故を引き起こしていたということだ。
なぜか。
答えはおそらく保険だ。難破した船の積み荷には海難保険がかかっている。船が沈めば保険金が出る。ヴィンダール商会は海運業だ。自分の船を沈めれば保険金が得られる。
だが待て、とセイラは思った。三年前の事故で死者が出ている。ヴィンダールの船も座礁している。自分の船を沈めるメリットがあるか。
もしヴィンダールが沈めていたのが自分の船ではなく、競合する他の商会の船だとしたら。
セイラは記録を開いた。三年前の事故の船。ヴィンダール商会の船ではない。別の商会だ。
五年前も、七年前も。
すべて、ヴィンダールの競合他社だ。
セイラはノートに書いた。
「灯台操作によって競合商会の船を意図的に座礁させ、海運市場のシェアを独占しようとした可能性がある」
これが証拠になるか。
カールの証言がある。修理記録がある。難破事故の記録がある。気象データがある。
一つ一つは小さい。でも全部を並べれば、数字は一つの答えを指している。
セイラは提督に報告しなければならない。
でもその前に、もう一つ確認したいことがあった。
「ハルト工務」という業者だ。
修理記録に名前がある。でも実際に修理をしたのか、それとも名前だけが使われたのか。
数字はまだ、最後の一つを要求していた。




