表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者:
【一食目】「はくりゅうデリバリー、本日のメニューはラットハウンドのから揚げ弁当です」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/24

エピソード4 獲物を狩るシェフ

手稲の街並みが寝静まる頃。

三月の札幌の夜風は、まだコートの襟を立てたくなるほど肌寒かった。


「……よし、行こうか」


僕は勝手口の鍵を締め、肩に保冷バッグを掛けた。

目立ちすぎる白いキッチンカー『ハクリュウ』はガレージに置いたままだ。今夜はただの「仕入れ」だから、僕と、足元を音もなく歩くナッツの二人だけで十分だった。


手稲山の旧道から、一般人が近づかない裏ルートを抜けてダンジョンの領域へと足を踏み入れる。

境界線を越えた瞬間、肌を刺すような独特の空気が僕を包み込んだ。

濃密な魔素と、微かな鉄錆の匂い。普通の人間なら息が詰まるようなピリついた空気だが、僕にとっては皮膚に馴染むような、ひどく懐かしくて、どこか居心地の良いものだった。


――しゅぱん。

――ぱしぱし。


暗闇の中、僕の手にある解体用の業物ナイフが、闇の中で閃き光を反射して幾度か瞬いた。


「ギ、ヂ……ッ?」


声すら上げる暇もなく、巨大な魔物たちが次々と崩れ落ちていく。

戦いではない。ただの手慣れた「解体作業」だ。

極限まで気配を消し、自然の一部と同化している僕の動きに、魔物たちは自分が死んだことにすら気づかない。恐怖を感じる前に魔脈を断ち切るため、肉に毒素(魔素)が回らず、極上の食材へと変わっていく。


最後に倒れた魔物の濁った瞳に、僕の姿が微かに映っていた。

無駄な動きを一切削ぎ落とし、ただ淡々と命を肉に変えていく僕の姿は、彼らから見れば、ひどく冷酷で美しい殺戮者にでも映っていたかもしれない。


「ブラッティオーガスが一体とラットハウンドが二体、それに人食いピラニアが数匹……と」


僕は切り出した極上の部位を手際よく保冷バッグに収めながら、小さく息を吐いた。


(今日はこの辺りで引き上げるとするか)


そう思い立ち上がった時、脳内にナッツの念話が直接響いた。


『湊、聞こえるか』

「……なるべくなら聞きたくないけどね」


僕は視線を暗闇の奥、さらに深い階層へと続く縦穴の方へ向けた。

そこから微かに、しかし確かな異質の気配――群れで動く狂暴な魔素の匂いが上がってきている。おそらく、昼間に半田さんが言っていたスパイダーウルフの群れだ。


『討伐していくか?』

「いや、最深部からは上がってこないでしょ」

『……奴らの生息地からはずいぶん離れてるな』

「そうだね。今は下手に手を出さずに様子を見よう。仲間を呼ばれても迷惑だし」


僕が肩をすくめると、ナッツは足元で器用に立ち止まり、僕を見上げた。


『いいのか?』

「朱里さんのことだね」


ナッツが何を心配しているのか、僕にはすぐにわかった。


『今日、試験なんだろ』

「魔物の数が多いのが心配だけど……半田さんもいるし、何よりこれくらいで怖がっていたら探索者にはなれないからね」


『意外と厳しいとこあるんだな』

「生きることに関してはね」


僕は静かにそう答えた。

脳裏に浮かんだのは、かつて始原のダンジョンで、泥水をすすりながらただ生き延びることだけを考えていた、昔の自分の姿だった。

どんなに他人が手を差し伸べても、最後に自分の命を繋ぎ止めるのは、自分自身の「生きたい」という意志だけだ。それを知っているからこそ、僕はこれ以上、この夜の闇の中で彼女の試練を奪う気にはなれなかった。


「さあ、帰って朝ごはんの仕込みをしよう」


僕は保冷バッグを担ぎ直し、夜風の吹く西宮の沢へと歩き出した。

 いつも読んでくださりありがとうございます!

 ブックマークや、下部にある【★】での評価が執筆の原動力になっています。

 もしよろしければ、ポチッと応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ