表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者:
【一食目】「はくりゅうデリバリー、本日のメニューはラットハウンドのから揚げ弁当です」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/22

エピソード2 新人さんを応援するシェフ

 手稲山から西宮の沢の店舗へ戻ると、僕の慌ただしい一日の中盤戦が始まる。

 僕の日課はだいたい決まっている。早朝は厨房にこもっての仕込み。朝のピークタイムは、ダンジョン前まで『ハクリュウ』を走らせてキッチンカーでの営業。そして昼は、こうして自宅兼店舗のカウンター越しにお弁当を販売し、夕方からはお得意さんへの配達と……明日のための「食材の仕入れ」だ。


 店舗での昼営業は、近所の主婦や現場仕事の人たちでほどよく賑わう。客足が少し落ち着き、初夏の陽気が心地よく店内に差し込み始めた頃、入り口の引き戸がカラカラと鳴った。


「はい、いらっしゃい。弁当屋ハクリュウへようこそ」

「こんにちは。湊さん」


 聞き覚えのある声。僕がカウンター越しに顔を上げるより早く、足元で丸まっていた白い毛玉が反応した。


「ん、誰だ?」


 ナッツが、あろうことか念話ではなく『声に出して』尋ねてきた。僕は慌ててカウンターの下に手を伸ばし、その口を物理的に塞ぐ。


「シッ、ナッツさん、声出さないで……」

「何でだよ」

「猫がしゃべったらおかしいでしょ」


 モゴモゴと抗議するナッツを足元に隠していると、カウンターの向こうで様子のおかしい僕を見て、客が控えめに声をかけてきた。


「あの、お弁当いいかしら」

「あ、お待たせ。朱里さん、久しぶりですね」


 そこに立っていたのは、近所のアパートに住む瀬野朱里さんだった。少しだけ疲れたような、けれどどこか張り詰めた表情をしている。


「そっか、そうよね。二週間ぶりか」

「探索者試験はどうだったの?」

「うーん……わからない。まだ実感がないというか……明日、実地試験があって、半田さんとダンジョンに行くことになってるけど」


(そっか、それで半田さんは明日のお弁当は昼過ぎか……)


 今朝のダンジョン前でのやり取りが、ここで腑に落ちた。半田さんは彼女の実地試験の試験官か、引率を任されているのだろう。


「ん? 半田さんが一緒なら心配ないよ。昼すぎには帰ってくるんでしょ?」

「え? 半田さんが言ったの?」

「あ、いや……お弁当の配達の時にちょっと話をしただけ」


 僕は少し誤魔化しながら、私服姿の彼女を観察する。今日は身につけていないが、彼女がいつも懸命に手入れしている武器を知っていた。


(そっか、朱里さんの能力は『鬼火』か……魔術系の能力だけど……訓練しているのは双剣、相性が悪いな)


 近接戦闘になれば、魔術特化の彼女の命は危うい。誰か適性を指導してくれる人間はいなかったのだろうか。


「今日はどのお弁当にしようかな」

「本日のおすすめは、ブラックフォーンのハンバーグだよ」

「ブラックフォーンって……それ、深層部にいる魔物じゃない」


 朱里さんがくすりと笑う。ブラックフォーンといえば、漆黒の毛並みを持つ巨大で凶暴な魔獣だ。


「以外と美味しいんだよ」

「いいって、そういうの。お弁当屋さんにダンジョンは必要ないでしょ」


(冗談に思われているのか……)


 まあ、ただの弁当屋が深層の魔物をミンチにしてハンバーグを作っているなんて、普通は信じない。その方が都合がいいのだけれど。


「まぁ、食べてみてよ」

「わかったわ。ンじゃ、それにする」

「毎度あり」


 ずっしりと重い、温かい弁当を袋に詰めながら、僕はふと思いついて声をかけた。


「ところでさ、朱里さん。明日の朝もダンジョンに行くんだよね?」

「試験だからね……」

「ダンジョンに行く前にお店に顔出せる? どうせ、朝ごはんもゆっくり食べないで行くつもりだよね。簡単に食べられるもの作っておくからさ」

「え? いいの?」

「もちろん」

「じゃあ、また明日ね」

 もし「面白かった」「続きが読みたい」「お弁当が美味しそう」と少しでも思っていただけましたら、

 下の評価欄から【★】を入れていただいたり、【ブックマーク】に追加していただけると、毎日の執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ