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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者:
【二食目】「はくりゅうデリバリー、本日のメニューはオーク肉のエスカロップ弁当です」

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エピソード18 傘もささずに待っていた不器用な剣士から、「美味しかった」の一言を受け取る【雨音に微笑むシェフ】

 僕の毎日はいつも同じ……。

 昨日と変わることのない日常がきて、今日も変わらない朝を迎える。お店で仕込みをし、キッチンカーに大量の食材を積み込んで忘れ物がないかをチェックする。


 金山ダンジョンで探索者たちを相手にお弁当を売り、みんなの笑顔に癒されながら、毎日のルーティンが始まる。




 お昼過ぎまではお店でお弁当を作り、地域の人や会社員、近くに住む学生さんたちを相手に、他愛もない世間話をして時間が過ぎていく。


 ごくありふれた、僕の平和な日常……。




 夕方の配達を終えてからは、ナッツと小一時間ほどカフェに寄り、メロンソーダを飲んで帰宅する。僕の日常はいつも変わらない。

 帰る場所があるから、僕とナッツはいつも幸せでいられるのだろう……きっと。


(……あ、降ってきた。雨の予報じゃなかったのに)


 午後の配達を終えた、夕方過ぎ。お店へと向かうハクリュウのフロントガラスに、ポツリ、ポツリと雨が落ちてきた。降り始めたばかりの雨は次第に強くなり、お店に着く頃にはすっかり本降りになっていた。


『………?』

 最初に気がついたナッツが、耳をピクリと動かす。


 誰かいる……。

 お店の前にある見知った気配に、僕とナッツは顔を見合わせる。


 傘もささず、降りしきる雨の中に立つ背の高いソレは、僕たちが乗るキッチンカーに気がついたのか、ちらりとこちらを見てから、またスッと足元に視線を戻した。


「朔……?」

「………………」

 雨音に紛れて小さく動いた朔の唇からは、言葉を読み取ることができない。だが、彼のまとう気配が、朝のピリピリと張り詰めたものではなく、優しく和らいでいることだけはわかった。


 リップサービスのつもりか、ナッツが猫らしく彼の足元にすり寄っていく。

「…………猫さん」

『…………』

「ごめんね、待ってたんだ」

「…………」

 朔は何も言わない代わりに、小さく頷いた。

 分かりづらいが、少しは意思疎通が図れるようになってきているようで安心する。


「今、お店の鍵を開けるね。濡れるから中に入ってよ」

 僕が慌ててお店のドアを開けようとすると、彼は小さく首を横に振った。


「……………弁当、美味しかった」

「……?」


 それだけ言い残すと、朔は僕とナッツに背を向けたまま歩き出そうとする。

「あ、待って」

「………」

 一瞬だけ立ち止まった朔は、少しだけ僕とナッツの方を振り返り、

「それだけ。言いたかっただけだから……」

 と呟き、再び歩き出した。春の雨音の中に、彼の背中は静かに消えていった。


(弁当が美味しかった……か)

 僕の心の中に落とされた朔のその一言が、ポツリと、まるで雨粒のように温かい波紋を広げた。


『案外、いいヤツなんじゃないのか?』

 ……それは、ナッツも彼を認めたということだろうか。僕は何も言わずに、そっと頷いた。

「そうだね」


 春の雨は冷たく、やがて来る夏を迎える準備を告げているようだった。

 もし本作を読んで「ちょっとお腹が空いたな」「湊の料理を食べてみたいな」と思っていただけましたら、

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