エピソード15 傷だらけの剣士と気まずいシェフ 新章開始!【二食目】「はくりゅうデリバリー、本日のメニューはオーク肉のエスカロップ弁当です」
【二食目】「はくりゅうデリバリー、本日のメニューはオーク肉のエスカロップ弁当です」
ジュッ、ワッ……ジュジュジュ……!
衣をまとった肉厚な白身魚のフライが、黄金色をした油の中で激しく踊る。カラリと揚がった今日の主役たちも、網に引き上げられて喜んでいるようにも思える。
強火で一気に熱された鍋から立ちのぼる白い煙にまかれ、香ばしい油とふっくらとした魚の匂いが、広場を行き交う客たちの胃袋を容赦なく刺激していく。
(よしよし、今日も大盛況だな!)
慌ただしくも活気あふれる、いつもの朝の光景。
キッチンカーのオープン準備を待ちわびてか……
手稲金山ダンジョン前の広場は、毎朝のように重装備の探索者たちであふれ返っていた。
彼らに決まった昼休みはない。朝ダンジョンに入れば、状況次第で夕方まで出られないこともざらだ。だからこそ、手軽にカロリーと活力を補給できる昼用の弁当が飛ぶように売れる。
「はい、お待たせ! 人食いピラニアののり弁ね」
白い車体に大きなオーニングテントを広げた『はくりゅうデリバリー』の車の前には、今日も大勢の人だかりができていた。周囲にいくつか並べた簡易テーブルも、すでに腹ごしらえをする探索者たちで満席状態だ。
『おい、ミナト……』
念話越しに、ナッツの不機嫌そうな声が響く。言いたいことは分かっているが、僕はさして気にする素振りも見せず、目の前のお客さんに最高の笑顔を向ける。
「えっと、のり弁二つに、ブラッディオーガスのビーフシチュー弁当一つね! ちょっと待って、今すぐ包むから!」
『おい、ミナト。さっきから……』
「ミナトさん! こっち、第三詰所までビーフシチュー弁当五つ配達お願いできる!?」
「ごめん、俺のり弁追加で!」
『なぁ、聞いてるか……』
怒涛のように被さる来店客の注文と、ひっきりなしに飛び込んでくる配達依頼。広場の喧騒が波のようにキッチンカーへ押し寄せ、ナッツの不機嫌な念話は完全に掻き消されていた。
「はいはい、順番に作るからちょっと待ってて! 配達も今すぐ行くねー!」
ダンジョンの入り口はちょっとした広場になっており、周囲には探索者用の支援施設がいくつか建ち並んでいる。そちらへの配達も僕の重要な仕事だ。
『………………』
ついにナッツからの反論が消えた。完全に呆れられているのだろう。
「今日は期間限定で、スパイダーウルフのカニ飯弁当も発売中だよー!」
先日のダンジョンの大量発生で手に入れた極上のカニ……もとい、スパイダーウルフを使った特製弁当だ。
「私、それがいい!」「こっちにも三つくれ!」「じゃあオレもカニ飯弁当とのり弁!」「こっちはビーフシチュー弁当で!」
殺到する客たちを横目に、ナッツが半ば諦めたような念話を飛ばしてくる。
『……聞いてるのか、ミナト』
「聞いてる聞いてる。あ、それよりも僕、ちょっとあっちの施設に弁当を届けてくるから、ナッツ、店番お願いね!」
『はぁ……まったく……』
ポンとカウンターに置かれた小さな白猫が、やれやれと深いため息を吐いた。
ふと、僕は弁当箱の入った袋を提げながら、山肌に開いた坑道の跡を見上げた。
かつて、この手稲の町は金山として栄えていた過去がある。一攫千金の夢を見た数百の鉱夫たちが働き、金を運ぶための鉄道まで敷かれたという。
採掘するものは「黄金」から「魔結晶」や「素材」へと変わったが、荒くれ者たちが列をなすこの賑わいは、当時の手稲の姿を映し出しているようにも思える。
……昔もこんな風だったかもね。
そんな風に歴史に思いを馳せていると、ふいに広場の空気がピリッと張り詰めた。
(ん……?)
今日は一段と慌ただしい。早朝から、ダンジョン内で大量発生した魔物を制圧に向かっていた討伐隊が、今しがた帰還してきたのだ。
人波が割れた先に、見覚えのある顔があった。人を寄せ付けないような鋭い眼光を持った真面目な部隊長――神城だ。
(今日の制圧は、神城さんの部隊だったのか……)
歪む空間から、神城と隊員たちが次々と姿を現す。
そのうちの一人が、仲間の隊員に肩を預けられながら足を引きずっていた。
「おい、しっかりしろ。歩けるか」
隊員に抱えられているのは、若い男だった。討伐隊にしては身軽な装備で、腰の長剣から剣士であることが伺える。その全身は泥と血にまみれ、無数の傷跡があった。
「…………」
無言のまま、若い男は近くのベンチに座らされる。体力的な限界なのか、それとも別の理由か、彼は虚空を見つめたまま何も言わない。
(珍しいな……あの精鋭揃いの神城部隊で、あんなにボロボロのけが人が出るなんて……)
神城はこちらに気づくと、ちらりと僕の方を見てから、なぜかひどく面倒くさそうにため息を吐いた。
「……弁当屋か」
「はい。弁当屋です。毎度どうも」
小さく会釈をして返すと、
「ふっ……まぁいい。お前たち、けが人は救護舎に運べ。それ以外は午後まで休憩だ」
神城はそれだけ指示を出すと、ボロボロの隊員を一人残し、一瞥もせずに討伐隊の詰所へと歩き去ってしまった。
「…………」
「あの、ケガしてるみたいだけど……大丈夫?」
ポツンと残されたお兄さんに、僕は思わず声をかける。しかし、「………………」返答はない。
反応がいまいち読めない。これは困った。
不機嫌そうというわけでもなく……ただ「そこに意識がない」というか、虚無感? 力の入らない視線でどこか遠くを見ているようだった。
(ははは……僕、苦手なタイプかも)
どう声をかけていいのか迷っていると、後ろから聞き慣れた声がした。
「よぉ、ミナト。……お、朔も一緒か」
「半田さん。身体の方はもういいの?」
「あぁ、この通りピンピンしてるぜ。それより、今日は珍しい組み合わせだな」
「半田さんの知り合い……?」
僕が尋ねると、半田はガシガシと頭を掻きながら笑った。
「以前、俺んとこの部隊にいた若造よ。今は引き抜かれて、エリート様の討伐隊に配属になったがな」
冗談半分で笑いながら、半田が親しげに朔の肩を叩くが、彼からの反応はやはり全くなく。まるで石像を叩いているかのように無反応だ。さすがの半田も苦笑いを浮かべる。
「……………」
(何か……すごく気まずいな……この人)
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