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神と竜と俺 〜魔神の代行者・天裂の異世界無双〜  作者: WOODHOOD


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第7章 俺ってそんなに下衆に見えるか?

 炎の渦が消え、熱波が引いていく。

 雪が溶けてドロドロになった荒地には、五体満足に修復されたレドが、むせ返りながら転がっていた。

「……目覚めたか?」

 天裂テンレツは巻物をしまい、雪を踏みしめてレドに近づいた。

「死んだ祖母ちゃんが見えた気がする……」

 レドは上半身を起こし、信じられないといった顔で自分の首をさすった。

「俺は確か……」

「間違っちゃいない」

 天裂は淡々と言った。

「ただ、お前に死なれると報酬がもらえなくなるんでな。地獄のゲートから引きずり戻してやったんだよ」

「地獄の門……? よくわからんが……まさか、自分が死霊術師ネクロマンサーに蘇生される日が来るとはな」

「誰が死霊術師だ。見よう見まねだっつの」

 天裂は虚弱なレドを強引に立たせ、その後ろに佇む少女――レドが命がけで探していた妹――を指差してニヤリと笑った。

「俺に難癖をつけるのと、妹と再会するのと、どっちが先だ?」

「エリーッ!!」

 兄妹の再会は涙なしには語れない。二人は抱き合い、言葉にならない声を上げて泣き崩れた。

「生きてた! よかった、生きててよかった……!」

 レドは壊れたレコードのように、同じ言葉を繰り返すことしかできなかった。

「兄さん……私、一度死んだのよ」

 エリーは隠さず、真実を告げた。

「彼が死霊術で私を呼び戻してくれたの。兄さんと同じように」

「……なんだと?」

 レドの動きが止まった。

 彼は妹の目を覗き込み、それが悪い冗談であることを願った。だが、エリーの瞳にある静かな光は、それが紛れもない事実であることを物語っていた。

「貴様ッ! 何をしやがった!!」

 レドはエリーを突き飛ばし、拳を握りしめて天裂に殴りかかった。

「俺の妹に何をしたァッ!!」

 バシィッ!

 天裂はその拳を片手で受け止め、万力のように握り潰した。理不尽な怒りに付き合うつもりはない。

「生かしてほしかったんだろ? 叶えてやったのに、何の文句がある?」

 天裂は呆れたように言った。

「俺に勝てると思ってんのか? 金を払うのが嫌なら失せろ。二度殺されたくはないだろ」

「この薄汚い死霊術師が! 猫被りやがって!」

 レドは腕を引き抜こうともがくが、ビクともしない。

「お前の魂胆なんざお見通しだ! 妹を奴隷にして、あんなことやこんなことをさせるつもりだろうがッ!」

「あぁ? 何言ってんだお前?」

 天裂は本気で困惑した。こいつの脳みそは腐ってるのか?

「奴隷にするなら、わざわざお前まで生き返らせるかよ。首を斬られた時に脳みそまで落っことしたか? 足は彼女に付いてんだ。どこへ行こうが彼女の勝手だろ。知ったことか」

 恩を仇で返されるとはこのことだ。いっそこの場で二人まとめて灰にしてやろうかと殺気立ったその時、エリーが割って入った。

「兄さん、やめて! ……死霊術師の召喚物や蘇生者は、術者に『絶対服従』するのよ」

 エリーは真っ直ぐに天裂を見つめた。

「つまり、私も兄さんも、蘇生された瞬間から、あなたの命令には逆らえない奴隷になったということ」

「はあ?」

 天裂は目を丸くし、思わずレドの手を離した。

 バランスを崩したレドが、無様に地面に突っ伏す。

 天裂は懐から例の『死霊術入門』を取り出し、パラパラとめくった。

「そんなこと一言も書いてねぇぞ!? 俺はただ助けようと思っただけで、そんな面倒な設定知るかよ! クソが!」

「わざとに決まってるだろうが!」

 泥だらけで起き上がったレドが吠えた。

「死霊術師にまともな奴なんざいねぇんだよ! 俺だけならまだしも、妹まで巻き込みやがって! 畜生、俺は……」

「テメェは少し落ち着けッ!」

 パーンッ!!

 天裂の平手が、レドの頬に綺麗な音を立てて炸裂した。左右対称、芸術的な配置だ。

 物理的な説得を受けたレドは、ようやく黙った。真っ赤に腫れ上がった頬を押さえ、懐からスキットルを取り出して酒を煽る。

「……どう言い訳するか見ものだな」

 ブツブツと文句を言いながらも、その目はまだ疑いに満ちている。

「お嬢さん、こっちへ来い。話が通じるのはお前だけのようだ」

 天裂は怯えて後ずさるエリーを手招きした。

「その『死霊術師ネクロマンサー』について、知ってることを全部吐け」

「……東大陸のオリ教区で資格を得た者だけが、正規の魔術師になれるの。死霊術師は、そこから外れた異端者よ」

 エリーは天裂に敵意がないことを悟り、彼が死体から剥ぎ取ってくれたローブを握りしめて近づいてきた。

「あなたが善意で術を使ったのはわかったわ。でも、身分を隠していたことは事実。ここでは誰も死霊術師を歓迎しない。彼らの内部でさえ、派閥争いと差別が酷いんだもの」

「身内同士で差別? 暇人どもが」

「派閥は二つ。冥界の『魂の井戸』から霊を召喚して使役する召喚派と、あなたのように死体に魂を呼び戻して蘇生させる蘇生派よ」

 エリーは淡々と説明を続けた。

「つまり、霊体ゴーストを使うか、私たちのような不死者アンデッドを作るか。その違いね」

「めんどくせぇ」

 天裂は吐き捨てた。

「で、要するに仲が悪いと。……理由は聞きたくもねぇな。どうせロクなもんじゃない」

「死霊術師のくせに、そんなことも知らないのか?」

 レドが横から皮肉を飛ばす。

「最近はどこの馬の骨でも魔術師になれるらしいな」

「今更だが、俺はさっきまで魔法の『マ』の字も知らなかったんだよ。信じないだろうがな」

 天裂は開き直った。自分が幽霊のようなものだというのに、世間のルールなど知ったことか。

「勝手にしろ。……で、最後に聞くが、その『絶対服従』とやらを解除する方法はあるのか?」

「一言、『お前たちは自由だ』と命じればいいわ」

 エリーは即答した。

「それだけ?」

 天裂は拍子抜けした。

「それだけよ。……ただ、支配を解くと術者に強烈な反動バックラッシュが来るから、普通は誰も手放さないけど」

「俺に後遺症があるように見えるか?」

「えっと……見えないわね」

「自由になりたいか?」

「なりたい」

「よし」

 天裂は迷わず言った。

「お前たちは自由だ」

 世界が劇的に変わることも、派手なエフェクトが出ることもない。

 ただ、エリーとレドの肩から見えない重荷が消えたような、そんな微かな変化があっただけだ。

「あー……その、俺は……」

 レドは気まずそうに頭を掻いた。完全に自分の勘違いだったことを悟り、謝罪の言葉を探しているようだ。

「男がウジウジすんな」

 天裂は鼻で笑った。前の世界でもっと酷い誹謗中傷を受けてきた彼にとって、これくらいは挨拶みたいなものだ。

「残金を払えばチャラにしてやる」

「ああ、そうだった」

 レドは慌てて懐からルビーの指輪を取り出し、天裂に差し出した。

「これからはどうするつもりだ?」

 指輪を受け取ろうとした天裂は、エリーがその指輪を名残惜しそうに見つめているのに気づいた。

「……主を失ったアンデッドは、魔力供給が断たれるの」

 エリーは寂しげに言った。

「だから、定期的に新鮮な血肉を摂取しないと体を維持できない。豚や牛の……生肉をね」

「じゃあ……」

 言いかけて、天裂は気づいた。エリーがレドを恨めしそうに睨んでいる。

 金がない。この指輪は全財産だと言っていた。つまり、これを渡せば彼らは路頭に迷い、食うに困ることになる。

 天裂は大きく溜息をついた。

 受け取った指輪を、エリーの掌に押し返す。

「大事にしろよ。失くすな」

 エリーの顔がパッと輝いた。

 その表情を見れば、この指輪が彼らにとってどれほど重要かは一目瞭然だ。

「ありがとう……本当に、何て礼を言えばいいか」

 レドがモジモジしながら言った。

「まだ夜も明けてない。よかったら、ウチで休んでいかないか?」

「よせ。また変な言いがかりをつけられるのは御免だ」

 天裂は断った。

 異世界での初仕事は大赤字だ。罵倒され、殴られかけ、最後は良心に負けて報酬を返却するハメになった。

(俺は悪鬼だぞ? こんなお人好しの悪鬼がいてたまるかよ!)

「宿代はいくらだ?」

 イライラを隠しつつ、天裂は聞いた。今はただ、泥のように眠りたい。

「十数金貨ってところだが……だから言ってるだろ、ウチに……」

「恩人さん、お願いだから……」

「ストップ! 行かないと言ったら行かない!」

 天裂は二人を遮った。

 ふと、あの白竜に焼かれた村のことを思い出した。

「『聖カ村』はどこだ? そこで一晩明かす」

「あそこはもう廃墟だぞ」

 レドは申し訳なさそうに言った。

「誰もいないし、墓場みたいに陰気だ。あんなところで眠れるわけがない」

「お前が言ったんだろ、俺は死霊術師だってな」

 天裂は皮肉っぽく笑った。

「死体の中で寝るのはお手の物さ」

 天裂の頑固さに折れたレドは、白竜追跡に使っていた地図を取り出し、天裂に渡した。

「ここだ。北のハメ領……お前が連行されたあの街の近くだ」

 レドは地図の一点を指差した。

「妹は錬金術師なんだ。もし何か入用なら、ハメ領の『ガジュマルの洞穴』という店を訪ねてくれ」

「どうも」

 天裂は地図を受け取り、思い出したように懐から血染めのメモを取り出した。

「もう一つ聞きたいことがある」

 レドの額に釘付けにされていた、あの書き置きだ。

「スローンの司祭だ」

 レドの顔が曇った。

「俺はあいつに負けた。……探すのは勧めない。しばらく身を隠した方がいい」

「これは挑発だぞ? 俺が尻尾を巻いて逃げるような人間に見えるか?」

「……どうしても行くって言うなら」

 レドは地図を受け取り、新たな印を書き込んだ。

「ここだ。スローン信徒が建てた祭壇がある。……死ぬなよ」

「邪神の祭壇が、こんな堂々とあるのか?」

 天裂は素朴な疑問を口にした。

「ソイ帝国の第一の収入源は貿易、第二は教会の税収よ」

 エリーが口を挟んだ。

「教会が増えれば増えるほど、国の税収も増える。だから邪神だろうと黙認されてるの」

「よく国が滅びないな、奇跡的だ」

 天裂は呆れた。金のためなら邪神もウェルカムとは、いい度胸だ。

「……潰すつもり?」

 エリーが小声で聞いた。

「ちょっとな」

 天裂はニヤリとした。

「なら、明日の朝、私のお店に来て」

 エリーは真剣な眼差しで言った。

「あなたのために、とっておきの装備を用意しておくわ」

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