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神と竜と俺 〜魔神の代行者・天裂の異世界無双〜  作者: WOODHOOD


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第15章 絶望の都、漆黒の使者

 ソイ帝国の王都、ゲーク。

 かつて北方随一の貿易都市として栄えたこの街は今、死のような静寂に包まれていた。

 上空には、一頭の漆黒の巨竜が盤踞ばんきょしている。

 その巨大な影は都市の大部分を覆い隠し、太陽の光さえも遮断していた。

 通りに人影はない。家々は窓を閉ざし、まるで巨大な墓場のような重苦しい空気が漂っている。

「よくもぬけぬけと戻ってこれたな! どの面下げて帰ってきやがった!」

 王城の一室で、ソイ国王ニバーンは、命からがら逃げ帰ってきたハメ領の領主を怒鳴りつけていた。

「陛下、私にはどうすることも……」

 元領主は涙目で弁明した。

「あの悪魔は何か邪悪な魔術を使ったのです! 領民を洗脳し、私を殺そうと……逃げなければ、今頃首が飛んでおりました!」

「世襲の領主が、どこの馬の骨とも知れぬ悪魔風人間に領地を奪われただと!? 先祖に顔向けができんのか!」

 ニバーンは唾を飛ばして叱責した。

「あの土地は、お前の先祖が血と剣で切り拓いたものだぞ! それを無様に明け渡しおって! 私が先祖なら、地獄の『魂の井戸』から這い出て往復ビンタを食らわせてやるところだ!」

「へ、陛下……私の不手際は認めますが……」

 元領主は話題を逸らそうと、上空の影を指差した。

「領地は陛下の御威光で奪還できましょうが、あの空の巨竜はどうなさるおつもりで?」

「どうするだと……?」

 ニバーンの顔から怒りが消え、絶望的な色が浮かんだ。

「どうしろと言うんだ? 四頭だぞ? お前の領地で四頭もの竜が殺されたんだ! あの黒竜は『至高の竜帝』の使者だ。何度嘆願しても降りてこようともせん。このままでは……」

「竜族の使者、謁見!」

 伝令兵の声が、ニバーンの愚痴を遮った。

 来たか。

 ニバーンは喉まで出かかった罵倒を飲み込み、居住まいを正した。交渉のテーブルに着いてくれるなら、まだ王座を守れる可能性がある。

 大扉が開き、一人の男が入ってきた。

 夜の闇を溶かしたような黒髪、深淵を湛えた黒い瞳。

 左目には金のチェーンが下がった片眼鏡モノクルをかけ、星屑を散りばめたような豪奢な礼服を纏っている。

 その歩調は流れる雲のように優雅で、口元には気品ある微笑を浮かべていた。

 竜とは思えぬ、洗練された貴族のような佇まい。

「お名前を、伺っても?」

 ニバーンは最上級の慎重さで問いかけた。

「セオドア・レイヴンクロフト」

 男は優雅に一礼し、片眼鏡の位置を直した。

「呼びにくければ『セオドア』で構いませんよ。私は気にしませんので、尊き国王陛下」

「め、滅相もございません、レイヴンクロフト様」

 ニバーンは顔中に卑屈な笑い皺を刻み、揉み手をした。

「このようなむさ苦しい場所へ、よくぞお越しくださいました」

「……人間風情が、気取りやがって」

 部屋の隅に控えていたハメ領の元領主が、小声で毒づいた。

 鬱憤が溜まっていた彼は、目の前の優男が、あの恐ろしい巨竜の同族だとは信じられなかったのだ。

「――何か?」

 シュンッ!

 瞬きする間もなかった。

 セオドアは瞬時に元領主の目の前に移動し、片手でその首を掴み上げていた。

「誤解しないでいただきたい。私はあなた方のような卑しい下等種族とは違う」

 セオドアは宙に浮いた元領主に対し、穏やかな口調で言った。

「私がわざわざ人の形をとったのは、円滑な対話のためです。聞く耳を持たないのであれば……陰界にいる私の兄弟たちによろしく伝えてください」

 プチュッ。

 濡れた雑巾を絞るような音が響いた。

 セオドアの指が元領主の首を容易くへし折り、粉砕したのだ。鮮血の薔薇が、セオドアの手の中で咲き誇る。

「ヒッ……!」

 ニバーンと家臣たちが息を呑む。

 飛び散った血が服を汚したが、セオドアは眉一つ動かさず、龍の息吹ブレスで瞬時に汚れを蒸発させた。

「彼は長く高い地位に居座りすぎたようですね」

 セオドアは何事もなかったかのように、ニバーンの前に戻ってきた。

「自分の立場もわきまえず、民の痛みも知らない。竜族の尊厳に対する侮辱は許されません。……ですが、親愛なる国王陛下。あなたは民を想う、賢明な君主であると信じていますよ?」

「は、はい……左様でございます……」

 ニバーンの額から冷や汗が滝のように流れ落ちる。拭うことさえ忘れて、彼はただ震えていた。

「では、楽しい商談を始めましょう」

 セオドアは懐からシルクのハンカチを取り出し、ニバーンに差し出した(汗を拭けという皮肉だ)。

「まずは賠償について。竜族を納得させるだけの誠意を見せていただけますか?」

「レ、レイヴンクロフト様! 今年から税収の七割を献上いたします! 加えて、選りすぐりの処女を三十名……いえ、五十名差し出します! これで何卒……!」

「たったの七割ですか?」

 セオドアは冷ややかに言った。

「それに人間の女など、歯の間の掃除にもなりません。……陛下、誠意が感じられませんね」

「な、なら、何なりと! 可能な限り対応させていただきます!」

 王位を守るためなら、国を売ることさえ厭わない。それが今のニバーンだ。

「税収は倍。処女は百名」

 セオドアは無理難題をふっかけた。

「陛下ほどの資産家なら、造作もないことでしょう?」

「そ、それは無理です! 南のステア共和国やハム王国との緊張状態もあり、税を倍にすれば国軍の給料すら払えません! それに民衆の暴動が……」

「国境の警備なら、我々竜族が『無償』で代行しましょう」

 セオドアは片眼鏡を外し、布で拭きながら言った。

「もちろん、この条件が厳しいことは理解しています。実行すれば、あなたの首が民衆によって物理的に飛ぶでしょうね」

「で、ではどうすれば……」

「これらの条件は、すべて破棄しても構いません」

 セオドアは唐突に条件を翻した。罠だ。

「もし王位を守りたいのなら……帝国の全軍事指揮権を、私に委譲していただきたい」

「なっ……何をされるおつもりで?」

 ニバーンの顔色が土気色に変わる。

「何も」

 セオドアは王冠を被った蟻に対して、詳しく説明する必要を感じなかった。

「竜族が国境を鉄壁の守りで固めます。王都からの許可証なき者、物資の出入りは一切禁止。隣接するクク帝国、ステア共和国、ハム王国にも通達し、協力を取り付けましょう」

 それは完全な「鎖国」であり、国そのものを巨大な檻に閉じ込めることを意味していた。

「そ、それで……私はどうなるのです?」

 ニバーンは恐る恐る尋ねた。

「あなたですか? 王座の上で死なないように気をつけていればいい」

 セオドアは嘲笑した。

「この国には、まだ『傀儡マリオネット』が必要ですから」

「……承知いたしました、レイヴンクロフト様」

 ニバーンは屈辱に唇を噛み締めながらも、頭を垂れた。

 砕かれた誇りを飲み込み、ただ生き延びる道を選んだのだ。

 ――その一部始終を、玉座の後ろで息を殺して聞いていた人物がいた。

 ソイ国の王女だ。

 彼女は聡明だった。

 これが単なる賠償交渉ではなく、竜族による国家の乗っ取りであると瞬時に理解した。そして、あの四頭の竜が殺されたという報告に、一縷いちるの希望を見出していた。

(竜を殺せる存在がいる……)

 その夜。

 皓々(こうこう)と月が照らす中、王女は一つの大胆な決断を下した。

 この檻の中から脱出し、その希望に賭ける決断を。



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