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神と竜と俺 〜魔神の代行者・天裂の異世界無双〜  作者: WOODHOOD


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第14章 領主の務め

 翌朝。

 天裂テンレツは旧領主が残したガラクタの中から、サイズが合いそうな上質な絹の服を見つけ出し、背中の翼を隠すように着込んだ。

「昨日の夜……凄かったわね」

 ベッドの上で、眠たげなエリーが上半身を起こした。シーツから覗く白い肌が艶めかしい。

「これで、私は身も心もあなたのものよ」

「なんだ? あれほど求めていた自由意志を、そんな簡単に捨てちまうのか?」

 着替えを終えた天裂は、エリーに近づき、おはようのキスを落とした。

「私の純潔を奪ったのよ。それは新たな『契約』を結んだのと同じこと」

 エリーは恥ずかしそうに頬を染め、再び布団に潜り込んだ。

「祝福あれ、フィディウンブラ……」

「また魔神か?」

「婚姻の女神よ。愛と貞節、そして……死を司る神」

「縁起でもねぇな。ま、しっかり休め。体が資本だ」

 天裂はロックを解除し、シェルターの重い扉を開けた。

「領地でやることが山積みだ。先に行くぞ」

 結婚は愛の墓場と言うが、死の女神が司るとは言い得て妙だ。

 そんなことを考えながら外に出ると、妹を探して血眼になっているレドと鉢合わせした。

「領主様! 俺の妹を見かけませんでしたか!?」

 天裂は無言で体をずらし、閉まりかけた扉の隙間を見せた。

 そこには、散乱したエリーの衣服と、布団にくるまって芋虫のように悶え、幸福な余韻に浸っている妹の姿があった。

「……俺を斬るか?」

 扉が完全に閉まり、沈黙が落ちたところで、天裂が尋ねた。

「領主様と一緒に探す約束でしたから!」

 妹が「無事」であることを確認したレドは、なぜか満面の笑みを浮かべた。

「あいつは昔から損をするのが嫌いな性分でしてね。何でも一番乗りじゃないと気が済まないんですよ!」

「……俺はホモじゃないぞ」

 レドの笑顔があまりに眩しすぎて、天裂は釘を刺した。

「断っておくが、俺はお前とは寝ない。灰になっても御免だ」

「領主様、何を勘違いしてるんです?」

 レドは懐から小瓶を取り出した。中には赤い液体――彼の血が入っている。

「俺は、あなたと再契約を結びに来たんです」

「脅かすなよ」

 天裂は小瓶を受け取り、一気に飲み干した。

「つまり、蘇生した死鬼コープス自身の血を飲めば、支配権を取り戻せるってわけか」

「その通りです」

 再び天裂の支配下に入ったレドは、その場に片膝をつき、恭しく頭を垂れた。

「これより、レドは領主様のために剣を捧げ、火の中水の中、命尽きるまでお供します!」

「立て立て、そういうのは苦手だ」

 天裂は手を振った。

 前世から形式ばった儀礼は大嫌いだ。それに、元の世界の常識で言えば、今のレドの行動はプロポーズそのものだ。

「さあ領主様、皆があなたの指示を待っています」

 レドは立ち上がり、服の埃を払うと、晴れやかな顔で案内を始めた。

「……妹より嬉しそうじゃねぇか」

 天裂は小声で呟き、背筋に悪寒が走るのを感じた。いつの間にか掘られないように気をつけねば。

 地上に出ると、瓦礫の広場に住民たちが集まっていた。

 死んだ家族と再会できた喜びで、場の空気は明るい。もちろん喪失感に暮れる者もいるが、全体としては前向きな活気が戻りつつある。

「皆、領主様の言葉を待っています」

 レドが天裂の背後に控え、護衛の態勢をとった。

 もっとも、この領主に護衛など不要なのだが。

「演説は昨日やったからな。実務の話をしよう」

 天裂は咳払いをして、住民たちを見渡した。

「食料の管理をしている者はいるか? 在庫状況を教えてくれ」

「旧領主とその取り巻きが逃げ出した後、備蓄庫を確認しました」

 倉庫番をしていた男が進み出た。

「約三ヶ月分です。奴らは慌てて逃げたので、帝国への納税用だった穀物をほとんど残していきました」

「三ヶ月か……」

 天裂は顎に手を当てて考えた。

「現在の人口は?」

「三十五名です」

 書記官の女性が答える。

「生きた人間が二十一名、死鬼コープスが十四名。老人と子供を除いて、動けるのは十六名です」

「森の獲物は?」

「悪くありません」猟師が答えた。「大型の肉食獣もいますが、手分けして狩れば当面は凌げるでしょう」

 天裂は情報を整理し、即座に指示を出した。

「よし。動ける十六名のうち、戦闘か狩猟経験のある八名を選抜しろ。四名ずつの二班に分け、交代で森へ狩りに出るんだ」

「残りの八名のうち、力のある四名は瓦礫の撤去と資材の回収。残りの四名は大工仕事だ。冬を越せる家を最優先で修復しろ。動けない者たちも遊ばせるな。物資の運搬、連絡係、見張り番。できることをやらせろ」

「あの……家を失った私たちはどこへ住めば?」

 家を焼かれた住民の一人が手を挙げた。

「俺が使ってたシェルターを使え」

 天裂は即答した。

「頑丈だし、暖房もある。とりあえずはそこで雨風を凌げ」

 どよめきが起きた。

 領主の住居を平民に開放するなど、この世界の常識ではあり得ないことだ。

 レドが慌てて耳打ちしてきた。

「領主様、それはマズイです。身分の区別が……それに、あなたはどこに住むんですか?」

「お前の妹の家だ」

 天裂は小声で返した。

「エリーの家は無事だったろ? それに、もう一緒に寝た仲だ。何の問題もない」

「し、しかし……あんな狭い家に領主様を……」

「美人がいれば、あばら家も宮殿だ。俺は贅沢には興味がない」

「……あなたがそう仰るなら」

 レドは渋々引き下がった。

「それから!」

 天裂は再び声を張り上げた。

「今後、何か問題があれば、まずはレドに報告しろ。レドで解決できることは彼に任せる。できないことは俺に上げる。つまり、レドは俺の代理人だ」

「えっ!?」

 レドが仰天して天裂を見た。辞退しようと口を開きかけたが、天裂の鋭い眼光に射抜かれて言葉を飲み込んだ。

「以前の法律がどうだったかは知らんが、俺が来たからには俺のルールに従ってもらう」

「新法は二つだけだ。『殺人は死刑』、『傷害・窃盗は相応の罰』。以上だ! 詳細はレドに聞け!」

 天裂は呆然とするレドの背中をバンと叩き、背筋を伸ばさせてやった。

 突然の昇進に戸惑うレドだったが、その目には決意の光が宿っていた。

 この絶対的な強者が、自分を信頼して任せてくれたのだ。期待を裏切るわけにはいかない。

 指示が行き渡り、住民たちはそれぞれの持ち場へと散っていった。

 領地再建の槌音が響き始める。

 昼下がり。

 復興作業が進む領地に、一人の不審な影が現れた。

 フードを目深に被り、マントを羽織ったその姿は、明らかに異質だった。

 住民たちが警戒して手を止める中、その人物はフードを脱いだ。

 長く尖った耳。

 紫色の瞳。

 そして、夜の闇を固めたような褐色の肌。

「よ、夜燼族ナイト・エンバー……!?」

 誰かの震える声が響いた。


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