善良に敗退した真の聖女軍の話
「殺せ!殺せ!殺しなさい!」
「「「御意」」」
「騎馬隊進め!」
ザクソン国、王都を真の聖女軍が占領した。
今、処刑の真っ最中である。
毛布にくるまれたザクソン国国王、王妃は馬に踏みつけられる。
悲鳴はない。何故なら拷問で瀕死の状態だったからだ。
毛布にくるんだのは血を地に吸い込ませないため。輪廻の外に置くためだ。
真の聖女は元ザクソン王国公爵家のジェニーアである。
婚約破棄をされ一族郎党誅殺された。
恨みはすさましい。ジェニーアは隣国の小国ダキア王国に逃走、持ち前の能力で国を豊かにし、復讐のために攻めてきたのだ。
ジェニーアの復讐心は元王太子、元男爵令嬢の恥辱刑に治まらない。
「次は、国王の墓を暴きなさい!」
「「「御意!」」」
「死霊師よ。よみがえらせなさい!」
「御意・・・」
王の死体をゾンビ化させて、ジェニーアは聖魔法を少量浴びせた。
「グギャアアアーーーーー!」
婚約破棄には前の王の承認があった。苦しめて滅するのだ。
「ジェニーア様、そろそろ国へ帰り陛下に報告しましょう」
「いえ、まだよ。復讐する相手が残っているわ」
「誰でしょうか?大方殺しましたが・・」
「王子と王女よ。憎き憎き彼奴らは子供を逃がしたわ。進軍よ!」
「しかし・・・兵糧はございません」
「現地調達も限度がございます」
「なら、私が聖魔法で作物を育てるわ!」
さあ、あいつらの子供をどうしてくれようかしら。
私の姪、甥も連座して死刑にされたわ。
生きながら炎の中に入れて差し上げましょうか?それとも生きたまま魔物に食されるとか・・
【ア~ハハハハハハ!この国に人物はいないわ・・・簡単だわ】
その時、私の心の中にルビアの顔が浮かんだわ。ザクソンの公女、学園では私のシスターだったわ。私が疑似姉となって下級生の面倒を見る制度・・・
彼女はただの泣き虫だったわ。
私を逃がしてくれたのも・・・
☆回想
「グスン、グスン、ジェニーアお姉様、お可哀想」
「ルビア・・・私に関わると貴女だって死刑よ」
「お姉様、グスン、グスン、平民の服と路銀ですわ。商人に話をつけました。どうか、お逃げ下さいませ・・・」
「ルビア・・・貴女って子は、この王宮に留まるのは貴女も危険よ。政略を覚えなさい・・」
・・・・・・・・・・・
まあ、ルビアだけは生かしてあげてもいいわ。それ以外のザクソン王家は皆殺しよ。
王子と王女は東の都ダンケにいるそうね。
「進軍よ!」
「「「御意!」」」
☆都市ダンケ
ザクソン王家の残党はダンケに集まり籠城線の構えを取っていた。
真の聖女を追放した国として蔑まれ援軍は期待できない状態だった。
「だめだ。真の聖女軍に派遣した使者が次々と殺されている・・・」
「王子、王女殿下の亡命を各国拒絶、標的にされるからだと」
「どこも援軍を出してくれない」
公女ルビアは手をあげた。
「北のノース王国に援軍を頼めば宜しいと思います。大変近いですわ」
「殿下・・・すでに7回断られています」
「大丈夫ですわ。心の底からお願いすれば聞いて下さいますわ」
「ルビア様なら、亡命できたのに何故今まで残っているのですか・・」
「それは、ジェニーアお姉様を鬼畜に落とさないためですわ。止めなければなりませわ」
何とお人好しと思いながらも廷臣達は送り出した。
☆ノース王国
ルビアはすぐに謁見を許可された。この国の王太子である。
「援軍とな?見返りは?」
「ございません・・・」
「何故、援軍を求める。貴女1人くらいこの国で暮らせば良かろう」
「はい、お姉様を地獄に堕とさないためですわ。今、子供をとらえようと軍を進めておりますわ。・・・子供には大人の責を背負わせてはいけませんわ」
「甘い。帰れ!」
「そ、そんな」
・・・全く甘い。甘すぎる。政略の「せ」の字もないか。とんだ愚女だ。
真の聖女軍は様子見と列国会議で決まったわ!
「さあ、それよりも羽を伸すか。おい、宴会だ」
「はい、ダーカス殿下、踊り女を用意しております」
王太子は朝から宴会を開きドンチャン騒ぎをしていた。
彼に訪れる者は甘い汁を吸うためである。
「殿下、我が娘、メラニーでございます。どうか、お側に侍らせて頂ければ望外です」
「メラニーでございます。殿下、私、占いが得意ですの。お部屋で占って差し上げますわ」
「まあ、私が先ですわ。マッサージが得意ですわ。お部屋に行きましょう」
女なんて皆同じだ。俺ではない。王太子という地位に寄っているのだ。
「興が冷めた・・・お前らで飲め」
「「殿下」」
王太子宮を出ようとしたら、あの女がいた。ルビア公女だ。
平伏して・・・泣いている。
「グスン、グスン、・・・殿下!お願いでございます」
「ええい。服を掴むな」
それからも王太子宮の前にいる。
ただ、泣いて懇願しているだけだ。甘い。
「ヒック、グスン、ヒック・・・」
涙は枯れ嗚咽になっている。まさか、三日三晩泣いていたのか?
「殿下、私、あの泣き女の真似をしますわ。見て下さいね」
「・・・メラニー嬢、物好きだな」
廷臣の中にからかう奴が出てきた。
「あ~、悲しいわ。グスン、グスン」
「ヒック、グスン、ヒック・・・・」
メラニーがルビアの横で泣き真似を始めた。
しかし、数刻も経たないうちに根をあげた。
「殿下、あの女おかしいですわ」
おかしいのはお前だろうとは口に出さない。
何故、あの女は泣くのか?
部下に調べさせた。
「ルビア公女は泣き虫と評判でしたが、・・・ここまでとは」
「どんなときになくのか?」
「はい、猫がネズミを捕まえた。世の摂理とは言え可哀想だと・・」
「フン、くだらぬ。ただの・・・」
ただの。何だ。
「善人ではないか?!」
この毒蛇の巣で・・
やがて、ルビア公女は泣き声から嗚咽に変わり。目が腫れ。ノドが潰れ。ただうなっているように見えた。
「ゥ、ゥ・・・」
「殿下、どうぞ極上のワインです」
「うむ・・・・」
「お味は如何ですか?」
「・・・不味い・・・」
「えっ!」
俺の周りには媚びる奴しかない。
なのに、あの女は・・・子供のために泣くのか?
「ワインに涙が入って仕方ない。・・・原因を止めに行かなければね」
「「「殿下!」」」
ダーカスはルビアの前に立った。
「ぁ、ぁ・・・・」
「援軍を出そう・・」
ルビアはドタンとその言葉を聞き気絶をした。
汚れているルビアを抱き上げ王太子は救護所に向かう。
「殿下、援軍って愚かです」
「そうです。真の聖女軍ですよ」
「・・・だから何だ。これほどまでに国を想う姫がいる国を滅ぼそうとしているのだ。対して我国はどうだ?この烈女を笑いからかう者ばかりだ。攻めやすいと次は向かって来るぞ!」
かくして、ノース王国は五万の軍を進めた。
王太子の檄に呼応し、ダキア本国も攻める国が出てきた。
☆都市ダンケ。
ザクソン王国最後の拠点を取り囲む真の聖女に急報がもたらされた。
「聖女様!四方から軍が来ます」
「援軍です」
「本国からも帰還命令です!」
真の聖女ジェニーアは親指をかみ怒りをこらえた。
しかし、詳細が届くと。
「そう、ルビアにしてやられたのね・・・そう」
何故か納得して顔になり。
「全軍撤退よ。いいわね」
「「「御意」」」
軍を引きダキア本国に撤退をした。
「フフフフフ、ルビア、やるわね」
年代記にはルビアはノース王妃に、ジェニーアはダキア王妃になったが、生涯会うことはなかったとされる。
ただ、時にはどのような策略も善意には勝てないときがあると云う者もいる。
最後までお読み頂き有難うございました。




