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クラスでぼっちの俺が、隣の席のバスケ部エースに『惚れ薬』を飲ませたら、翌日からめちゃくちゃ惚れられたが?

作者: 柏原夏鉈
掲載日:2025/10/23

俺は、自分がこのクラスで浮いていることを知っている。

別に、仲間外れにされているわけじゃない。俺が、合わせる気がないだけだ。


朝、教室に入るとき「おはよう」と声をかける。誰も返事をしない。

もう慣れた。俺は窓際の席に座り、カバンをフックにかける。今日も空は青い。

授業が始まってしばらく経った頃、隣の席から小さな音が聞こえた。


ゴホン、ゴホン。


隣の女子生徒。珠洲乃すずのめい

女子バスケ部のエースと言われてる。明るい性格で、誰からも好かれてる人気者だ。


彼女が苦しそうに咳き込んでいる。

俺は、ふと思い出して、自分のカバンのサイドポケットを探っていた。

昨日、無理やり手に突っ込まれたものがあったはずだ。


あった。個包装のアメだ。何味かもわからない、ショッキングピンク色の包装だ。


俺はそれを掴み、珠洲乃すずのの机にコトリと置いた。


「……どうぞ?」


珠洲乃すずのが、咳を止め、驚いたようにこちらを見た。

猫のように大きな目だ。その目が、机のアメと俺の顔を、何度か往復している。

無理もない。俺が誰かに話しかけること自体、珍しいことなのだから。

彼女は少し警戒しているようだった。まあ、そうだろう。


「……ありがと。いいの?」


小さな声だったが、確かにそう聞こえた。彼女はアメを受け取った。


「ああ。貰い物なんだ、気にしないでくれ」


そのアメ。自分で購入したものではない、彼女に言ったように、貰ったもの。

俺は昨日の出来事を思い出していた。



~~~~~

いつもの散髪屋。

俺はもう何年も、近所のこの店に通っている。

「床屋」と呼ぶのがふさわしい、年季の入った建物だ。

ガラガラと引き戸を開けると、店主のじいさんが、すまなそうに頭を下げた。

「ああ、ジョーくん。すまんが今日は休業だ。腰痛がひどくてな」

「そうですか。じゃあ、また」

俺はあっさり引き返そうとした。髪が伸びるのは早いが、一日二日遅れたところで大した問題じゃない。

「まあ待て。せっかく来てもらったのにおい返すのも悪い。……ちょっと待ってろ、別のを呼んでくるよ」

じいさんが店を出てしばらくすると、派手な豹柄シャツを着た妙齢の女性を連れて店に戻って来た。

「毎度! よっしゃ、任しとき! かっこよくしたるわ!」

威勢のいい関西弁。俺は断る間もなく椅子に座らされ、ケープを巻かれた。

「お兄ちゃん、ええ顔しとるのに、もったいないわぁ。こんなキノコみたいな頭して!」

彼女はハサミを動かしながら、マシンガンのように喋り続ける。

「もうちょっとこう、シュッとさせたって! その方が絶対モテるで!」

仕上がりは……なんというか、いつもと全く違っていた。

短くはなったが、ワックスまでつけられて、前髪が変な方向に流れている。

「うん、男前になったわ!」

彼女は満足げに頷く。

店主のじいさんに会計してる俺の手に、彼女は小さな包みを押し付けた。

「ほい、これはおまけや」

それは、何の変哲もないアメ玉だった。

「このアメちゃんはな、惚れ薬なんや」

「はあ」

「誰かにあげてみ? あんたに惚れてまうから。知らんけど」

「知らんのかい」

俺のツッコミに、満足げにうなずき、彼女は「ほな!」と店の外に消えていった。

~~~~~



――そんな怪しげなアメを、俺は隣の席の女子にあげてしまった。


大丈夫だろうか。ただのノド飴ならいいが。俺はじっと珠洲乃すずのを見た。

彼女は、俺の視線に気づいたようだった。アメの包みを開けようとしていた手が止まる。


「……なに?」

「いや、別に」


俺が見つめ続けると、珠洲乃すずのの顔が、みるみるうちに赤くなっていくのが分かった。耳まで真っ赤だ。

咳をしていたわけだし、風邪だろうか。熱でもあるのでは?


「そんなに見んといてや」


彼女はそう言うと、諦めたように、アメを口に放り込んだ。

――惚れ薬。まさか。そんなものが、この世に存在するわけがない。



   ◇   ◇   ◇



次の日の朝。

俺はいつも通り、教室のドアを開けながら「おはよう」と言った。

返事はない。いつもの静寂。


……いや、違った。


「おはよう、衛宮えみやくん!」


弾んだ声がした。隣の席だ。

珠洲乃すずのが、満面の笑みでこちらに手を振っている。

俺は驚いて固まった。


「……ああ、おはよう」


ようやくそれだけ返すと、教室中の視線が俺に集まった気がした。気のせいか?


――いや、気のせいじゃない。明らかに何かが変わった。


まず、珠洲乃すずのが、やたらと俺に話しかけてくるようになった。

授業が始まる前、彼女は椅子を俺の方に向け、身を乗り出すようにして言った。


衛宮えみやくんって、なんか運動してる?」

「いえ、帰宅部だから」

「そうなんや。確かに自分、腕がほっそいもんな。ちゃんと食べてる?」

「ああ」


俺の素っ気ない返事にも、彼女は全くひるまない。


「お昼、いつもおらんよな? どこで食べてるん?」

「……屋上」

「へえ! きょうは一緒に食べよ?」

「え」

「ええやん、どうせ購買でパン買うんやろ? うちもパンにするわ。一緒に買いに行こか!」


強引さに押され、俺は頷くしかなかった。

昼休み、珠洲乃すずのと二人で購買部に向かう。


「うち、焼きそばパンにしよかな。衛宮えみやくんは?」

「……メロンパン」

「甘っ!女子か!そんなん、ゴハンになる?」


彼女が笑う。

その時、周りの女子たちが、俺たちを見てヒソヒソ話しているのが聞こえた。


「え、メイと話してるの、誰?」

「……名前なんだっけ?」

「あんなイケメン、うちにいたっけ?」


なんだ。俺の事じゃないな。断言できる。

こっちを見て言ってるから、俺の事を噂しているのかと、つい耳をそばだてて聞いてしまった。

しかし、メイ? たしか珠洲乃すずのの下の名前は「めい」だったと思うが……。

まあ、他にもメイという名の生徒はいるんだろう。


彼女と廊下を歩いていると、今まで目も合わなかったような派手なグループの女子が「あ」と声を上げ、俺を見つめてる。

つい、目が合ってしまったら、なぜか笑顔で手を振られた。どう返してよいものかわからず、つい会釈する。

その反応を見て、彼女たちはクスクス笑いながら通り過ぎていった。


「知り合い?」

「いや、手を振られたから」

「ふうん……」


何故だか、猫のように大きな瞳で、珠洲乃すずのは彼女たちの背を目で追っている。


屋上のドアは、いつも通り開いていた。

古い鉄製のドアが、キィ、と錆びた音を立てる。


屋上は立ち入り禁止のはずだが、この学校は全体的に緩い。誰かにとがめられたことは無い。俺はもう一年以上、この場所を昼休みの定位置にしている。


「うわー、ひろっ! 風、気持ちええ!」


珠洲乃すずのは、俺の後ろからひょっこり顔を出すと、歓声を上げた。

俺はいつも陣取っている、給水塔の影になる隅へと歩く。コンクリートが少し高くなっていて、ベンチ代わりになる場所だ。


衛宮えみやくん、いっつもここなん?」

「ああ。静かだからな」


俺が腰を下ろすと、珠洲乃すずのはためらうことなく、俺の隣にぴょんと座った。

距離が近い。肩が触れそうだ。

俺は無意識に少し体をずらした。

彼女は買いたての焼きそばパンの袋を、勢いよく破った。


「いっただっきまーす! んー、やっぱ購買の焼きそばパンは最高やわ」


大きな口を開けて、パンにかじりつく。猫のような瞳が、幸せそうに細められている。

行儀が良いとは言えないかもしれないが、見ているとなんだか気分がいい。

俺もメロンパンの袋を開ける。


「え、衛宮えみやくん、ホンマにそれでお腹ふくれるん?」

「……足りる」

「信じられへん。部活とかやってへんの?」

「帰宅部だ」

「あ、それさっき聞いたわ。じゃあ、休みの日は何してんの?」


質問攻めだ。

こんなに矢継ぎ早に他人から質問されたのは、いつ以来だろうか。


「……別に。本を読んだり、散歩したり」

「へえ、地味やな!」


地味。返す言葉もない。


「うちは部活ばっかり。バスケ部やねん」

「知ってる。エースなんだろ」

「バスケ、興味ない?」

「まったくないわけじゃないが、ルールがわからん」

「え。じゃあ、なんで――」


急に会話が途切れた。彼女を見ると、何か深く考え込んでいるようだ。


「ん?」

「――霞町の、銀星ビルの裏、知ってる?」


言われてドキリとした。

その符号が示す場所を良く知っている。なんなら、毎日のように行く。

だが、あの場所は、みんなの秘密の園。特に取り交わした約定があるわけでもないが、言触らさないことにしてる。

あの場所を共用している住人たちには、誰にも穢されなくない、という共通の認識があった。


珠洲乃すずのがあの場所の住人とは思えない。その雰囲気が無い。

だから、思わず否定する。


「いや、知らないな。何のビルだ?」

「知らんのなら、いい」


彼女は焼きそばパンを頬張りながら、ぷう、と頬を膨らませた。

怒りを買ってしまったようだ。


しばし、二人してモグモグとパンを貪る時間が続く。

ふいに、彼女が聞いた。


「なあ、衛宮えみやくんって、なんでいつも一人なん?」


急に、核心を突くようなことを聞いてくる。


「……その方が、気が楽だからだ」

「ふうん。友達、おらんの?」


なんという直球。


「……別に、いらない」

「強情やなぁ」


珠洲乃はカラカラと笑う。

俺がクラスで浮いていることなど、彼女だって知っているはずだ。

昨日まで、俺に咳の音以外を聞かせたことすらなかったじゃないか。

それなのに、今日のこの変わりようだ。まるで、十年らいの友人のように振る舞ってくる。


「ん」


彼女が、持っていた牛乳パックを俺に突き出してきた。


「……なんだ?」

「あげる。メロンパン、口の中パサパサになるやろ」

「いや、いい」

「ええから!」


彼女は俺の手に牛乳パックを押し付ける。


「……どうも」


礼を言うと、彼女は「どーいたしまして!」と、クリクリとした大きな猫のような目を輝かせる。

その笑顔が眩しくて、やけに目に染みる。目を逸らして、意味もなく空を見上げる。

頬を撫でる風が、いつもより少しだけ優しい気がした。


俺は彼女の顔を盗み見る。本当に楽しそうだ。


彼女がこんなに屈託なく笑う顔を、俺は今まで知らなかった。

いや、そもそも彼女のことを、昨日までほとんど何も知らなかった。

いったい何をきっかけに? 昨日、と言えば、飴を――。


心臓が、ドクン、と妙な音を立てる。


……まさか。


あの散髪屋の豹柄女の言葉が、頭の中でぐるぐると回る。


『このアメちゃんはな、惚れ薬なんや』

『あんたに惚れてまうから』


……まさか、本当に?


だとしたら、俺は今、とんでもない状況にいることになる。


俺は慌ててメロンパンの最後の一口を口に押し込んだ。

そうして、貰った牛乳で口いっぱいのメロンパンを流し込む。


彼女は、何故か顔を赤くして、その様子を凝視してる。


けれど、見られていると感じていながら、視線を合わすことが出来なかった。



   ◇   ◇   ◇



放課後。

俺がカバンを持って立ち上がると、珠洲乃すずのが待ってましたとばかりに声をかけてきた。


「ジョー、一緒に帰ろ!」


いつの間にか、下の名前で呼ばれるようになっていた。

しかし、後ろめたさも周囲の目もあって、俺は未だに"珠洲乃すずの"と呼んでいる。


「……方向が違うだろう。それに部活だろ?」

「ええやん!終わるまで待ってて!なんなら見学しにきて!」

「いや、見学はいかない。まあ、待ってもいい。図書館で時間を潰すよ」


「(ぜひ、アドバイスが欲しいんだけど……)」

急に小さく呟くように言った珠洲乃すずのの声が聞こえず、聞き返す。

「ん?」

「いや!何でもない!LINE登録して!終わったら連絡するわ」


彼女が自分のスマートフォンの画面にQRコードを表示させて、こちらに向ける。

承諾の確認もそこそこに、彼女は「ほな、あとで!」と言い残して、教室を走り去っていった。


罪悪感がすごい。

珠洲乃すずのの屈託のない笑顔を見るたびに、胸がキリキリと痛む。


彼女から好意を向けられているのは間違いない。

休み時間ごとに、積極的に話しかけてくる珠洲乃すずの

他の女子から「急に仲良しやん!どうしたん?」と揶揄されても、誰の目を憚ることもなく、「そうや!」と肯定する。

それどころか、彼女は笑顔で「ええやろ? はやいもん勝ちや!」と言い返していた。


その好意が疑いようがないとしても、こんなのは卑怯だ。

惚れ薬の力で彼女の感情を操っているようなものじゃないか。


俺は彼女に「惚れられて」いるわけじゃない。彼女は惚れ薬で「惚れさせられて」いるだけだ。


このままではいけない。


――珠洲乃すずのが部活を終えるのを待って、二人して帰路に就く。


彼女は俺の腕を軽く引く。

駅までの短い距離。だが、今しかない。

今を逃せば、今夜は罪悪感で眠れなくなりそうだ。

俺は決意した。


彼女は今日の部活の愚痴を楽しそうに話している。顧問がどうとか、先輩がどうとか。

俺は上の空で相槌を打ちながら、切り出すタイミングを窺っていた。


「あのな、珠洲乃すずの


俺は意を決して口を開いた。


「ん?」


珠洲乃すずのは大きな瞳で、俺を見つめている。


「……珠洲乃すずの。落ち着いて聞いてほしい」


俺は立ち止まった。

珠洲乃すずのも不思議そうに立ち止まる。


「どうしたん、急に真面目な顔して」

「実は……今の君の感情は、正常じゃない。一種の疾患のようなものだ」

「……は?」


珠洲乃すずのが、猫のような目をさらに丸くする。


「治し方は今はわからない。だが、原因はわかってるから、俺が調べる。だから待ってほしい」

「……えっと、なに?」

「昨日、君に手渡した飴だ。あれは……惚れ薬らしいんだ」


俺がそう言うと、珠洲乃すずのは一瞬、ポカンとした顔をしたが、やがてこらえきれないというように吹き出した。


「ぶはっ! ほ、惚れ薬!? なにそれ、マンガ?」

「笑いごとじゃない。俺は真剣だ」

「へー! そんなのあるんやね。もしかして雑誌の裏に書いてる妖しい通販で買ったん?」

「いや、散髪屋で貰った」

「マジで!ほんで散髪してかっこよく――。……え、あれ、ちょっとまってや。……ってことは」


珠洲乃すずのはニヤニヤしながら俺を見る。


「うち、ジョーに惚れてるの?」

「ああ……。そのはずだ。――違うのか?」

「えー? どうしてそうおもたん?うち、まだ告白してないよ?」

「だ、だって、急に積極的にはなしかけてきて、一緒にお昼食べて、こうして一緒に帰って……」


「そんで?」

「それで!?」


俺は思わず声を荒げた。


「そんなん、友達ならみんなするやろ。それで好き!ってことになったら、うち、好きな人だらけやん」


珠洲乃すずのはケロリと言った。


「……そ、そうか」


俺は頭が真っ白になった。これは、珠洲乃すずのにとっては、当たり前の事なのか?

俺が、俺だけが、珠洲乃すずのにとって特別なことだと思って、ひとり、盛り上がってた?


全部……珠洲乃すずのとっては、ただの「友達」として?


「もしかして、俺の早とちりだったか。すまん、忘れてくれ!」


俺は叫ぶと、そのまま全速力で走って逃げだした。


「あ、ちょっと、ジョー!まだ話がおわっ――」


後ろから珠洲乃すずのの声が聞こえたが、振り返る余裕はなかった。



   ◇   ◇   ◇



家に帰る気になれなかった。

あの恥ずかしさを抱えたまま、狭い自室に戻ったら、窒息してしまいそうだ。


俺は無意識に、いつもの場所へ向かって走っていた。


霞町かすみちょう。古い雑居ビルが立ち並ぶエリア。

その中でもひときわ古びた「銀星ぎんせいビル」の裏手。

落書きだらけの細い路地を抜けると、四角く空が切り取られた空間に出る。


俺たちの「ポケット・パーク」。


ひび割れたアスファルトに、手書きのライン。壁に固定された、一つのゴール。

俺はカバンとスマートフォンを隅の古びたベンチに置くと、そこに転がっていた薄汚れたボールを拾い上げた。


半円を描くスリーポイントラインの外側に立つ。

息が上がっている。心臓がうるさい。……それを沈めるためにここに来たんだ。

俺は呼吸を整え、ボールを放った。


シュパッ。


ネットが乾いた音を立てる。

ボールが跳ね返ってくる。それを受け止め、また放つ。


シュパッ。


また入る。

恥ずかしさ。苛立ち。馬鹿な自分への怒り。

すべてを振り払うように、俺は無心でシュートを打ち続けた。


バスケットのルールは知らない。

たまに、戯れにここの住人たちと、3on3(スリーオンスリー)をするが、身体能力が並み以下で戦力にはならない。


でも、この位置からのシュートは絶対に外さない。

ここの住人の誰かに言われた、「固有受容感覚がずば抜けてる」らしい。

自分の手足が今どこにあり、どの方向にどのくらいの速度で動いているかを、機械のような正確さで、感じる感覚らしい。

俺はただ、成功したときの身体の動きを再現しているだけ。ボールの軌道が全く同じになるように。


シュパッ。シュパッ。シュパッ。


どれくらいそうしていただろう。


「ジョー、どしたん、めっちゃあれてんな!」


背後から、聞き慣れた声がした。

振り返ると、スケボーを小脇に抱えた少年――コウタが、ニヤニヤしながら立っていた。ここの住人の一人だ。


「……別に」


俺はボールを受け止め、またシュートを放つ。


シュパッ。


「『別に』って顔じゃねーだろ。なんかあった?」

「……惚れられてると勘違いして、実はなんとも思われてなかった道化師を、笑いたければ笑え」


俺は自嘲気味に呟いた。


「まじ! なにそれ、むっちゃ面白そうな話やん!」

「面白くもなければ、オチもない。モテない男がちょっと話しかけられただけで勘違いしただけのことだ」

「えー。ジョー、モテるやん。ってか、その髪、どうしたん?シュッとなってんやん」

「モテたことない」

「そんなことないで、たまにジョーの噂をきいて見学に来る女子がいて、この間も来てたやん」

「記憶にない」

「ジョーがシュートしてるの見て、猫みたいな大きい目が、ばっちりハートになっててん!ありゃ惚れたなって!」

「なんで、その時に、言わない!」

「いやー、邪魔しない、がここの鉄の掟やしな」

「今は?今は邪魔してないか?」

「今は、ぜんぜん集中してないやんか。集中してるときのジョーは、話しかけても反応ないし――」


その時だった。


ブブッ


ベンチに置いた俺のカバンの上で、スマートフォンが小さく震え、画面が点灯する。

コウタが、それを覗き込んだ。画面には、可愛い羊のイラストが角を生やして激怒しているスタンプが表示されていた。


「うおっ。なんかしらんけど、むっちゃ怒ってるで? お前の彼女」

「……彼女じゃない」


俺はボールを拾いに行きながら、吐き捨てるように言った。


「さっきの『惚れられてるって思った相手』? LINE交換してるんだったら、脈無しってわけでもないんじゃねーの?」


ブブッ


ふたたび、スマートフォンが小さく震え、画面が点灯する。

コウタがもう一度それを覗き込む。そして、にやり、と意地の悪い笑みを浮かべた。


「ジョー、『まだ』らしいぞ」

「……どういうことだ?」


俺は訝しげに彼を見た。コウタは肩をすくめる。


「いいから、見てみ。ほんで、はよ返事せぇよ。女子は既読スルーにはうるさいで!」


そう言われ、俺はベンチに歩み寄る。

交代だ、と言わんばかりに、俺からボールを受け取ってコウタがシュートを放つ。

俺は、それを横目に見ながら、自分のスマートフォンの画面を、恐る恐る覗き込んだ。


『うち、"まだ"告白してない、って言ったよ?』


……どういう、ことだ?


俺は、立ち尽くしたまま、その短いメッセージの意味を、何度も何度も見返すしかなかった。



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