暴走の原因
エルナは宙に浮かび、まるで見えない糸に引かれるように揺れていた。
ノアの目には、彼女のツナガリが異常に歪んで見えていた。通常なら一本の滑らかな線であるはずのそれが、まるで壊れかけの橋のように途切れ、揺らぎ、不安定な状態にある。
だが、ノアはすぐには動かない。
“繋がり”を扱うツナギ屋として、まずは原因を知ることが重要だと理解していた。
「『A』、お前は何か感じるか?」
ノアは鋭い視線を向ける。『A』は焦りながらも、エルナの様子を観察した。
「……いいえ。私にはただ、エルナが浮いているようにしか……でも、風が……さっきよりも重いです。」
“風が重い”。
ノアの脳裏に、集会所で見つけた記録の言葉がよぎる。
『〇月×日 “風”が重い』
『〇月×日 “囁き”が聞こえる』
この村の異変が始まったときと、まったく同じ現象だ。
「……エルナが今、何とツナガッているのかを見極めないといけない。」
ノアは一歩前へ進み、目を細める。
“ツナガリ”を視る。
すると、エルナの体に絡みつくような異質な線が見えた。
それは、この村の精霊たちのものではなかった。
もっと外部から――村全体を覆うように漂う、“何か”と繋がっていた。
「……精霊だけじゃないな。」
ノアは確信する。
エルナの暴走は、単なる精霊との繋がりの暴発ではない。
彼女は、村全体を覆う”眠りの力”と結びついてしまっている。
この力こそが、村人たちを眠らせ続けている原因。
そして、それがエルナの意識をも蝕み、乗っ取ろうとしている。
(つまり、こいつを”断つ”ことができれば……)
ノアは冷静に思考を巡らせる。
強引にツナガリを切ることもできるかもしれない。
だが、それはリスクが高い。下手をすれば、エルナの精神にダメージを与えかねない。
(もっといい方法があるはずだ。)
ノアは視界に映るツナガリをじっくりと分析しながら、最善の策を模索する。