目覚めの兆し
調査を続けるうちに、ノアの違和感は確信へと変わりつつあった。
ツナガリが揺らいでいる。
この村全体に、何かが覆いかぶさっているような感覚――まるで見えない網が、村のすべてを”繋ぎ止めている”かのようだった。
「……おい。」
ノアが足を止める。
突如として、村の空気が変わった。
まるで、何かが”動いた”かのように――
「ノアさん……?」
『A』が不安げに声をかける。しかし、ノアはそれに答えず、じっと周囲を見渡していた。
風が、重い。
記録に書かれていた言葉が脳裏をよぎる。
そうだ、“風”だ。確かに、今までと違う。
それは、まるで村全体が息を吹き返そうとしているかのような感覚だった。
そして――
「……ッ!」
ノアの視界が揺れた。
ツナガリが、暴れ出す。
通常なら滑らかに伸びる線が、まるで荒れ狂う波のように脈打ち、激しく揺れ動いていた。
「何が……」
その瞬間、どこからともなく**“囁き”**が聞こえた。
『――目覚メロ、目覚メロ、目覚メロ』
頭の奥に直接響くような、奇妙な声。
「……誰だ?」
ノアは反射的に振り返る。しかし、そこには誰もいない。『A』すらも、その声には気づいていない様子だった。
(俺にだけ……聞こえている?)
疑問を抱く間もなく、突如として村の奥から轟音が響いた。
「な……!?」
『A』が息を呑む。
村の中心――エルナが眠る家の方向から、強い風が巻き起こっていた。
「行くぞ!」
ノアは迷わず駆け出した。
◆
エルナの家に飛び込んだ瞬間、ノアは異様な光景を目の当たりにした。
エルナの体が、宙に浮いている。
彼女の周囲には、目に見えない何かが渦巻いていた。
ツナガリが……暴走している。
「エルナ!」
『A』が叫ぶ。しかし、エルナの意識はまだ戻っていない。彼女の身体は何かに操られるようにゆっくりと動き、まるで別の存在が宿っているかのようだった。
「……まずいな。」
ノアは歯を食いしばる。
ツナガリを視る力を持つ彼には、はっきりと分かっていた。
エルナのツナガリが、異常なものと結ばれかけている。
このままでは――エルナが完全に”乗っ取られる”。
「止めるぞ。」
ノアは、一歩前に踏み出した。