沈黙の村.02
ノアと『A』は、村の中心へと歩を進めていた。
どの家を覗いても、同じだった。
村人たちは皆、静かに眠っている。誰一人として目を覚ましている者はいない。
「……全員、本当に眠ってるんだな。」
ノアは軽く息をつきながら、広場に視線を向けた。村の中心には井戸があり、その周りにはいくつかの露店のようなものが並んでいる。まるで昨日まで普通に生活が営まれていたかのような光景だ。
しかし、違和感がある。
「なんか、おかしくないか?」
ノアは立ち止まり、井戸の縁に手を置いた。
村全体が眠りについている。ならば、それに伴う”変化”があるはずだ。例えば、食料が腐ったり、草が伸び放題になったり、家屋が風化したりと、時間の経過を感じさせる痕跡がもっとあってもいい。
だが、この村は違った。
「妙に……綺麗なままだな。」
井戸の中を覗き込むと、水面は驚くほど透き通っていた。食材が放置されたままの屋台も、腐敗した様子はない。確かに埃は積もっているが、それ以外は異常なほど時間が止まっているように見える。
『A』は少し考え込むように井戸の水を覗いた。
「……言われてみれば、そうですね。私がここを離れてから結構経ってるはずなのに、全然変わってない。」
ノアは黙って地面を見つめた。
――“ツナガリ”が見える。
いや、正確には”見えそう”になっている。
普段なら、人や物の間には薄く繋がる線が見えているはずだ。それがこの村では、どこか不安定に揺らいでいる。繋がっているのか、切れかかっているのか、それすら曖昧な、奇妙な感覚だった。
(……これは、何だ?)
ノアは言葉にできない違和感を覚えた。だが、確信には至らない。ただ、何かが”おかしい”とだけ感じていた。
「……もう少し調べよう。」
そう言ってノアは歩き出した。何かが引っかかる。その正体が分かるまで、この村をもっと見て回る必要がありそうだった。