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沈黙の村

 ノアと『A』は、静まり返った村の入り口に立っていた。


 風が吹き抜ける音だけが、かすかに耳に届く。遠くで鳥の鳴き声がするが、それ以外に生き物の気配はない。


 「……妙に静かだな。」


 ノアは周囲を見渡した。村の造り自体は、彼が今まで見てきた集落とさほど変わらない。木造の家々が並び、中央には広場らしき空間がある。だが、人の姿がない。人気のない村は、まるで時間が止まってしまったかのようだった。


 「みんな……まだ眠っているんだ。」


 『A』が小さく呟く。


 ノアは足元の土を軽く蹴った。確かに人の暮らした形跡はある。放置された荷車、風に揺れる洗濯物――つい昨日まで誰かがここにいたかのような生活の痕跡が、そこかしこに残っている。


 しかし、肝心の住人たちがいない。


 「本当に、全員が眠ってるのか?」


 ノアは半信半疑だったが、『A』は真剣な表情で頷いた。


 「はい。私がここを出たときから、ずっとこのままなんです。」


 彼女の声には、どこか罪悪感のようなものが滲んでいた。


 ノアは村の奥へと歩き出す。すると、少し先の家の中から、何かの気配を感じた。


 「誰かいるな。」


 彼はゆっくりと扉を押し開けた。


 そこには―― 一人の少女が眠っていた。



 少女はベッドに横たわっていた。

 年の頃はノアとさほど変わらないだろうか。落ち着いた呼吸を繰り返しながら、穏やかな顔で眠っている。


 しかし、ただの睡眠ではないことはすぐに分かった。


 「……普通の眠りじゃないな。」


 ノアは慎重に観察する。肌の色艶は悪くないし、呼吸も規則的だ。病気というわけではなさそうだが、何か違和感がある。


 『A』が彼女の傍に膝をつき、そっと手を握る。


 「エルナ……やっぱり、まだ目覚めてないんだね。」


 ノアは目を細めた。


 ――エルナ。


 それが、この村で眠る少女の名前か。


 『A』の声には、深い悲しみと焦りが入り混じっていた。


 「この子は……?」


 「私の幼なじみです。村の中でも特に気が強くて、昔から男の子みたいな子だったけど……それでも、大事な友達。」


 ノアは『A』の横顔を見つめた。彼女の表情は痛々しいほどに切実だった。


 しばらくの沈黙の後、ノアはゆっくりと立ち上がった。


 「ひとまず、村を調べよう。エルナだけじゃなく、他の村人たちがどうなってるのか確かめないとな。」


 『A』は少し迷った後、力強く頷いた。


 「……はい。」


 こうして、ノアは眠り続ける村の謎を解き明かすために動き出した。

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