扉の先
ノアは『A』に導かれて、街の外れにある古びた廃屋に足を踏み入れた。
外観は完全に廃れていた。屋根が落ち、窓ガラスは割れ、風化した木材が所々で朽ちている。しかし、足元に感じる冷たさや、微かな異臭が、どこか不自然で不気味な印象を与える。
「ここか?」
ノアが周囲を見渡しながら口にすると、『A』は静かに頷いた。
「……はい、ここです。」
ノアは少し疑問を抱きつつも、歩を進めた。彼女が言う「ある場所」とは、いったい何なのか。普通に考えれば、こんな古びた廃屋がそんな場所であるはずがない。だが、先ほどの『A』の真剣な表情を思い返すと、軽視できる話ではないように感じられる。
「中に入ってみてください。」
『A』がそう言って扉を開けると、内部は意外にも広かった。
埃が積もり、長年誰も踏み入れたことがないような空気が漂っている。だが、家具や棚は乱雑に積まれているわけでもなく、何かが確実に意図的にここに置かれているようだった。
「……ここで何をツナぐんだ?」
ノアが振り返り、問いかけると、『A』は静かに目を閉じた。
「ここにあるもの、すべてが繋がっています。私にはそれが分かるんです。ただ、ツナぐ方法が……」
『A』がそう言うと、目の前の床が不自然に歪み始めた。最初は何も感じなかったが、次第に空気が変わり、ノアの体にじんわりとした重さがかかってきた。
「……なんだ?」
彼は足を止め、床をじっと見つめる。すると、床の隙間から薄い光が漏れ、ゆっくりと広がり始めた。
「これが……?」
ノアは息を呑んだ。目の前で、異世界と繋がる扉が開くのを見ているかのような感覚を覚える。
「ツナギ屋として、あなたなら見えるはずです。」
『A』が言ったその瞬間、ノアは一歩踏み出した。
ツナガリが見える。
それは彼が今までに経験したことのない感覚だった。目の前に広がる空間の中で、今まで見えなかったものが、まるで線となって結びついている。
精霊と人、物と物。すべてが一つに繋がり、そこに扉が開いている。
「これが……扉?」
「はい、でも私には開ける方法が分からないんです。」
ノアは目を細め、もう一度その扉を見つめた。今、自分の目の前に広がっているものが、単なる幻ではないことは確かだった。
だが、まだ何も見えていない。
彼は自分の中の「ツナガリ」を意識し、深呼吸をした。
そして――
扉が開かれた。