交わされる言葉
エルナはまだノアを睨みつけていた。
だが、その表情にはわずかに混乱が滲んでいる。
「……本当に、私を助けたのか?」
疑いは消えていない。むしろ当然だろう。
彼女にしてみれば、目覚めた瞬間、見知らぬ男に介抱されていたのだ。
「信じなくてもいい。ただ、お前が目を覚ましたのは事実だ。」
ノアは淡々と言葉を返した。
「……クソ、訳がわかんねぇ……」
エルナは頭を抱えながら、ゆっくりと体を起こそうとする。しかし、思うように力が入らず、ふらついた。
「おい、無理するな。」
ノアが支えようと手を伸ばす。
しかし――
「触るな!」
エルナは勢いよく手を振り払い、わずかに乱れた息を整える。
『A』が慌てて間に入った。
「エルナ、ノアさんは本当に助けてくれたんだって!そんな言い方しなくても……」
「うるせぇ……私は……」
エルナは自分の手を握りしめる。
「私は……何が起こったのかも分かってねぇんだ。」
彼女の声には、怒りだけではなく、焦りと不安が入り混じっていた。
長い眠りの後、突然目覚め、知らない男に助けられたと言われる。
しかし、自分には何も分からない。
それがどれほど恐ろしいことか、ノアにも理解できた。
「……お前が混乱しているのは分かる。」
ノアは静かに言った。
「だが、落ち着け。お前が眠っている間に、村にはいろいろなことが起こった。その話をしよう。」
エルナはじっとノアを見つめた。
「……話?」
「ああ、お前が知るべきことだ。」
エルナはまだ警戒を解いていない。
だが、今すぐに噛みつくほどの余力もないことを自覚しているようだった。
「……いいぜ。話してみろよ、ツナギ屋。」
そうして、エルナとノアの間に、初めて”言葉の橋”がかかった。