目覚め
「……ん……?」
エルナのまぶたが、ゆっくりと震えた。
ノアは彼女を支えながら、その表情を見つめる。長い眠りから覚めるように、彼女の指先が微かに動いた。
「エルナ!」
『A』が思わず声を上げる。
エルナの瞳が、わずかに開かれた。焦点の定まらない琥珀色の瞳が、ぼんやりと揺れる。
「……ここ……どこだ……?」
かすれた声が、ようやく紡がれる。
ノアはゆっくりと彼女の肩を支え、静かに答えた。
「村の中だ。お前は、ずっと眠っていた。」
「……眠って……?」
エルナは困惑した表情を浮かべる。ゆっくりと視線を動かし、周囲を確かめるように瞬きを繰り返した。
「……なんで……?私……何して……」
ふと、彼女の顔色が変わる。
「……あれ……なんか……変な……」
エルナは頭を押さえ、目をぎゅっと閉じた。
「頭が……うるさい……誰か……喋ってる……?」
ノアはその言葉に、瞬時に警戒した。
(まだ、精霊の声が聞こえてるのか?)
“ツナガリ”を断ち切ったとはいえ、完全に影響が消えたわけではないのかもしれない。
「エルナ、落ち着け。」
ノアは彼女の手にそっと触れた。
「今のお前は、まだ夢と現実の狭間にいる。目覚めたばかりだから、混乱するのは当然だ。」
エルナはゆっくりと深呼吸し、震える指先を握りしめる。
「……わかんねぇけど……」
少しずつ、呼吸が落ち着いていく。
やがて、彼女はゆっくりと顔を上げた。
「……でも、私、生きてるんだな。」
ノアは静かに頷いた。
「当たり前だろ。」
エルナの唇が、わずかに笑みを形作る。
「……なら、いいや。」
そう呟いた彼女の目は、もう迷いのない、“覚醒した者の目”だった。