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入学

 ソフィアは今日起床してからずっとソワソワしていた。それは今日が試験の結果が出る日であるからだ。ソフィアはあの日以来ずっとドキドキしていた。きっと大丈夫。そう思うたびに、「でも」と気弱になってしまう自分がいて、どうすればいいのかが分からない。


 試験の結果は合格ならば今日、家にその結果を示した手紙が届くらしいのだ。

 ソフィアがソワソワとリビングを歩き回っているとコンコンと窓が叩かれた。ソフィアが恐る恐るカーテンを開けるとそこには鷹が止まっていた。


「うおぉ」


 思わず声を出してしまう。その鷹の嘴には手紙が咥えられているのだ。こんな大きな鳥を使役できるのはきっとあの学園だけだろう。それほどまでに優秀な人が使役しているのだ。そう思うと少しだけ安心して来た。

 窓を開けると鷹が縁に止まり、その口に咥えていた手紙をソフィアは受け取った。ソフィアは緊張しながらもその拾い上げた手紙を読み始めて行く。結果は合格だった。


 ソフィアが手紙を読んでいるところを見計らって母が声を掛ける。


「ソフィアちゃん。結果はどうだった?」


「合格よ!」


 ソフィアはその手紙を母親に堂々とした態度で見せ付けながら答えた。


「ソフィアちゃん良かったわね」


「うん」

 母はそんなソフィアの様子を見て、優しく微笑んだ。

 その日の夜は合格を祝ってパーティーをした。


 ***


 ソフィアは通学路を歩いていた。その足取りは何時もより軽やかだ。今日が初めての学園だからである。これからの未来を、夢の学園生活を考えていると自然と足がステップを刻む。


「ソフィア。おはよぉ」


 門の手前辺りで後ろから声をかけられる。振り向かなくても誰か分かった。エレナである。エレナはソフィアと違い身体がかなり成長している。その体には二つの大きな実りが付いているからだ。後ろから抱き着かれれば誰だって分かる。


「あんたって凄いもの持ってるわよね」


 ソフィアは自分の胸との成長の差を感じながら呟いた。その呟きは「どこでこんな違いが生まれたのかしら」と言いたげである。エレナもエレナでその呟きの意味を理解していた。


「凄いものって私にはわからないなぁ。というか、そんなこと言うならソフィアも十分育ってるじゃない」


 そう言ってエレナは胸を後ろからそっと手に収めた。


「な、何するのよ。やめなさいよ。こんなところで」


 そんな光景に門を通り過ぎた他の人たちが視線が刺さっている事に気付くまでソフィアは指摘されてからしばらくその場に立ち尽くすことになるのだった。


 ***


 奇しくもソフィアとエレナは同教室に所属となった。一クラスは三十程でこの教室にも三十人程の生徒がいる。周りは今まで親しい間柄であった人ばかりだ。クラスの半分が中等部からの持ち上がりだからである。それはここまで残っているだけで大抵は剣か魔法の練度が高く纏まっている事を意味する。


「ねぇソフィア」


「何よ?」


 エレナに話し掛けられ、ソフィアはその方を向く。


「このクラスってなんか怖くない?みんな強そうなんだけど」


 エレナは不安げな顔でそう言った。


「そうかしら?でもみんな強いなら凄くワクワクしない?」


「ソフィアはそれでいいかもしれないけどさ」


 不安な顔をするエレナ。そんな時、教室のドアが急に開かれた。


「はい。みんなおはよー」

 教室に入ってきたのはすらりとした体型の女性だ。彼女はキラキラとした銀髪をしており、それは彼女の腰程まで伸びている。目はぱっちりとした紫色でそれはまるで宇宙のようだ。そんな雄大さが含まれている。


「それじゃ、順番に自己紹介していこっか。えー私の名前はアイリスです。一応教員してます。よろしくね」

 アイリスと名乗った女性は教壇に立ち言葉を発した。そんな自己紹介に周りの生徒はは溜息を漏らした。教師の雰囲気では無い。そう感じていたのだ。


「はい、じゃあ次ね。よろしく」

 アイリスは教室の一番端の前の席の生徒に向けて順番を譲った。その生徒はすっと手を挙げる。そして何も無く自己紹介を終えるとすっと着席した。そして少しずつ順番に自己紹介が続けられた。その中でもソフィアは一人の少女に注目していた。ついにその彼女の順番だ。


 彼女が立つと透き通るような赤い髪がサラサラと風もないのに靡く。ソフィアはその生徒に興味を持った。彼女は恐らくクラス一番の実力の持ち主だろう、そう思ったのだ。彼女は尋常じゃない程の魔力を常に発し続けている。


「私の名前はアメリア。よろしく」

 端的な自己紹介だった。しかしそれは冷たい印象はない。いや、芯があるような口調だが話していて暖かい感じがするそんな話し方だった。


 教室の生徒を一通り確認し終えたのか、アイリスは続けるように話し始めた。


「入学おめでとう。じゃあそれぞれで交流しててくれる?」


 そんな適当な、でも教師らしい言葉を吐き出してアイリスは教室を出て行った。それからは自己紹介という題目にみんなでお喋りを楽しむ教室のようになった。

 そんな中でソフィアは特に注目している生徒へと足を運んだ。


「はじめまして」


 ソフィアが声を掛けるとその少女はこちらを向き少し驚いたような顔をした。


「私の名前はアメリアよ」


「私はソフィア。よろしくねアメリア」

 ソフィアは手を差し出したが、彼女はその手を握り返す事はなかった。そして少し間を置いてから口を開いた。


「私は別にあなたと友達になりにこの学校に来た訳では無いんです。馴れ馴れしくするつもりなんてありませんから」


 彼女はそう言って立ち去る。ソフィアは不服そうな顔をし、彼女を目で追った。彼女が何を言いたいのか検討もつかない。そうしてしばらくは一人ですごしていたソフィアだったが、他の人と話しているエレナの所へ行くのだった。


 エレナは人と話すことが苦手そうな、そんな細身の女の子と会話をしていた。このグループは同じ教室同士だし、話し掛けておくのも良いだろう。そう思い、ソフィアはエレナへと話掛けた。


「あ!ソフィア」


 エレナは急に声を掛けられ驚いたような反応を見せたが、すぐにその女の子を紹介してくれた。


「この子の名前はナタリーだよ」


「ナ、ナタリーです。よろしくお願いします」


 そんなナタリーは少し間を開けてからそう名乗った。その声は何かとても緊張しているような感じだ。


「私はソフィアよ。ナタリーよろしくね」


「はい!よろしくお願いします」


 彼女は女の子しては少し高めの声を発しながら深々と頭を下げた。そのしぐさは初々しく、可愛らしい。そんな声だった。


「ナタリーはね。もぉ、すっごくシャイなんだよ」


「よ、余計なことは言わなくていいから~!」


 ナタリーの友達らしき人物がそう言う。彼女も、また別の人との交流を終わらせて来たのだろう。そんな紹介をするとナタリーは顔を真っ赤にしながら友達の言葉の続きを遮った。しかし顔は喜んでおりその一連のやり取りの中に暗黙の友情があるのだろうと、ソフィアは思った。


「私はレーナ。見ての通りナタリーの大親友よ。よろしくね」


 そんな自己紹介とその言葉にナタリーは大げさに反応を示した。


「何言ってるのよ?もぉ」


 その顔はニヤケていて嬉しそうだ。


「そう。私はソフィアよ。そしてこっちはエレナ。私とエレナも大親友よ」


 ソフィアはレーナとナタリーの仲に負けじとそれに対抗する様に、何時もよりもエレナとの仲を強調した。そんなこんなで交流していると、ガラガラと教室の扉が開かれた。入って来たのは一人の教師だ。アイリスである。


「みんな好きに自己紹介出来た?じゃあこれからする事を言うね。まず初めにみんなには班に別れて貰うわ。この班がこの先の評価や活動に影響するからよく話し合って決めるのよ」


 その言葉にソフィアとエレナは目を合わせて考えた。「同じ班になろう」という事である。それは良いのだが、そもそも話し合ってなんて言われてもまともに話したことの無い生徒ばかりな為、誰を班に入れれば良いのかなど、検討も付かない。



「ねぇ良かったらわたしたちと同じ班にならない?」

 レーナからそう言葉が放たれる。ソフィアはその言葉を待っていたかのように直ぐに頷いた。エレナも乗り気のようで二人は声を揃え同じ言葉だった。

「ええ是非!」


 ナタリーはその元気さに少し笑っていたが、嫌そうではない。この短い時間でかなり仲良くなれたみたいだ。

 アイリスの指示通りクラスは班に分けてい行く。貴族である生徒は貴族同士である程度属性が似ている人達が班になったようだ。


「みんな均等に班が作れたようね。じゃあこれから班ごとにメンバーがどれくらいの技術を持っているのかを見るレクリエーションをしましょうか」


 そう言ってアイリスが胸の前で手を叩くと生徒全員の下に魔法陣が生み出され、その全員が訓練所へと転移して行った。このような大人数に対して一気に魔法を行使出来るとは流石この学園の教師と言ったところだろうか。


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