脅威の子
「やった……」
ソフィアは安堵した。これで終わった、と。
そして現実に直面した。恐怖したのだ。自分の圧倒的なまでの力に。人を殺してしまったことに、そして平然としている自分に。
「うっぷ……」
吐き気がこみ上げる。頭が痛い。心が、精神が悲鳴を上げている。
ソフィアはその場に座り込んだ。
「かはっ……はぁはぁ」
獣人が息を吹き返した。彼女は立ち上がるともう一度ソフィアの方へ歩いてくる。
「今のはなかなか効いたわよ。でも残念だったわね」
ソフィアは絶望した。もう終わりなんだと……
もう前世の力を少し解放するしかない。そう思った。だが、前に魔王にその力は誰にも見せるなと釘を刺されたいたことも思い出す。
「もう終わりよ。大人しくしなさい」
ソフィアは獣人を睨みつける。だが、彼女は怯むことなく近付いてくる。
アメリアは眠っている。この場を見ているのはエレナ達だけだ。彼女達ならこれからも付き合いがあるだろうし、見せても大丈夫だろう。
魔力を解放する。瞳が赤く染まる。
「へぇ~まだそんな力を隠してたなんてね」
獣人は驚いた様子も無くそう呟くと、こちらに向かって歩いてくる。
「でもそれだけよ」
彼女はそう言うとソフィアを思い切り蹴り飛ばした。そして魔法壁を何重にも張り、防御する。
獣人の攻撃によって魔法壁が壊された瞬間、何よりも速いソフィアが獣人の脚を掴み投げ飛ばす。
そこに魔王の炎を連打する。
「随分と呆気ないわね。それじゃ、あんたの目的を話してもらうわよ」
獣人は魔法壁で防ぐのがやっとな様子だった。
「それは……できないわ」
「なら力ずくでも話してもらうわよ」
ソフィアは更に魔王の炎を撃つ速度を上げた。
空に魔法陣を更に描くとそれぞれから滅炎が水のように湧き出てくる。それぞれが街一つを壊滅においやる程の魔力を秘めており、ソフィアは同時に外に被害を出さないための結界も張った。
そして遂にその攻撃が当たる。
だが、彼女はそれでも倒れなかった。それどころか、その攻撃を耐えたのだった。しかし無傷ではない。彼女の体には無数の傷がついていた。
「しつこいわね。早くやられなさいよ。あんたもどうせあの組織の一員なんでしょ」
ソフィアは獣人に向かい飛行する。土手っ腹に風穴を当てる如く拳を捩じ込み、そのまま打ち上げた。
獣人が空中で勢いを殺すように留まると、すぐに上を見上げた。そこに魔法陣を生み出していたソフィアが居たからだ。
獣人は構えるように、魔法陣を描く。
「魔王の炎」
生み出された業火により空気さえもドロリと溶けだした。そしてそれをソフィアは容赦無く撃ち込む
「獣氷下点」
獣人の魔法陣からはそれに対抗するべく何もかもを凍らせ停止させるような氷が飛び出す。それは一見すると時間さえも止まっているかのように底冷えしている。
世界を灰燼に帰する炎と世界を停止させる氷が轟音と共にぶつかり合った。
その二つの衝突点では滅びぬ者は居ないそう思わせるほどの攻防である。
空で二つともが弾けたかと思うと、街を飲み込みそうな勢いで爆発した。ソフィアの結界でそれは回避されたが、結界の内側への被害は甚大である。
「はぁはぁ。あんたもなかなかやるじゃない」
ソフィアも獣人も服は先程の魔法で破れておりボロボロだ。
「なかなかやるわね」
ソフィアはまだまだ余裕の表情を浮かべている。右腕に魔法陣を描く。それはガイだ。その魔法を右腕だけに集中させていく。圧縮されたそれは効果が更に跳ね上がる。
そしてその腕から発せられる魔法も効果が絶大なものとなる。
「魔王の炎」
獣人も対抗するように魔法陣を描く。
「凍氷結獣掌撃」
獣人の右手が氷を纏いはじめる。そしてソフィアの魔王の炎と衝突した。
冷気が周りを包み、地面は一瞬で凍り付く。それがソフィアの魔法で溶かされ水蒸気が発生する。
その圧倒的なまでの威力に獣人は驚いた。だがすぐに切り替え、次なる攻撃へと転ずる。
「獣氷結獣掌撃」
今度は彼女の左手も凍りつき、巨大な氷の拳が形成された。
獣人はその両手をもってソフィアの魔王の炎を押し返していく。少しづつ一歩一歩足を踏み出す。
「あの方に本気は見せるなって言われてたけど、仕方ないわね」
そう言うと、獣人は両手に更なる力を込める。すると彼女の周りに冷気が漂い始めた。髪の毛も凍り付き、氷が身体に纏わりつく。服も凍りつき、砕けた。その露わになった身体を隠すように氷が纏わりつく。
魔力にも氷が宿り、ただ存在するだけで、触れたものを凍てつかせる。
「あんたも本気って訳ね」
ソフィアは更に魔王の炎の威力を上げると、獣人を押し返し始めた。だがしかし獣人の方も押し返す速度を上げていく。
獣人が両手を振りほどくと、ソフィアの魔法が跡形もなく霧散した。
ソフィアは目を丸くした。たったひと振りで自分の魔法を消されたからだ。
一振で魔法を消滅させるなど、ソフィアには到底出来はしない。相手との技量に天と地ほどの差があればできるのであろうが。
つまりこれはソフィアと相手には天と地ほどの差があるということを意味しているのだった。
ソフィアが次に気付いた時には既に懐に入り込まれており、その拳が腹にめり込んでいた。一瞬の内に空に打ち上げられる。獣人は更に飛行の魔法を使い追い掛けた。
空中で、そして痛みで動けぬソフィアに獣人は更に追い討ちをかける。上空に飛んだ飛行の魔法の勢いで獣人はクルリと回転し、ソフィアに蹴りを喰らわせた。
ソフィアは吹っ飛んでいく。木々を岩々を貫通しながら。
地面をに着いたソフィアは、四肢を使い減速を試みる。減速はした。止まりもした。だが、痛みで、その傷でソフィアはもう動けない。
「なーんだ。脅威の子と言われたからどれほどのものかと思ったらこんな程度か」
そんなソフィアに向かいまたもや飛行で飛んできた獣人は止めとばかりに、馬鹿ほどの魔力を溜めながら魔法を、構築している。
ソフィアも魔法壁を貼ろうとするのだが、魔力も切れかけで確りとしたものでは無い。電気が点滅するように、その壁もチカチカしている。
そして魔法が完成する。もう放たれるか、とソフィアが諦めて目を瞑った。
「……………あれ?」
恐る恐る目を開けると獣人は魔法を消していた。
「あぁ。そういうこと。だから貴方が脅威の子と呼ばれていたのね。あの方はよっぽど私と貴方を戦わせたくなかったらしいわね」
ソフィアは目を丸くした。その行為、言葉の意味が理解出来なかったからである。だが今のソフィアに頭を働かせる力は残っておらず、意識も落ちるのだった。
「またね。魔王様」
獣人は意識が落ちたソフィアに向かいそう言うとどこかに転移していくのだった。




