代償の力
目を覚ますとまたあの世界に居た。魔王の精神世界だ。
「あんたが操ったの?」
ソフィアは早速気になったことを聞いた。
「ああ、そうだ。お前はあのまま薬を飲むことを見逃そうとしていただろう。あのままだとお前は負けていた」
魔王が淡々と告げた。
「え……あなたが、私を助けたの?」
ソフィアは意外そうな表情をしている。魔王はそんな様子のソフィアに対し口を開いた。
「この俺に助けて貰ったんだ。感謝しろよ」
魔王は闇に座りふんぞり返りながらそう言った。
「なんでよ!私一人でも勝てたのに。それに私は魔王の生まれ変わりなんでしょ?」
ソフィアは不機嫌そうにそう呟く。その髪からは圧倒的な存在感を感じられる魔力が溢れ出ていた。
「だからこそだ」
魔王は静かにしかし強くそう言葉を出した。そこには妙な威圧感があった。ソフィアが放つ魔力を力で抑え込む様に魔王を魔力を放出した。その迫力に一瞬息を呑むソフィア。
「まだお前では力不足だ。しっかりと鍛え直せ」
「わかったわよ……」
ソフィアは怒られた子犬のようにしゅんとして答えた。
ソフィアは気を取り直し、魔王に質問した。あの男、魔王を崇拝するあの団体のこと、そしてあの薬のことを。魔王はそれらのことを淡々と答えた。
「あの薬、あの薬はな。俺の力の一部を分け与えていたものだ。俺が生きていた時代でもほぼ使われていなかった。まさかこんな時代でも使われていたとはな」
「私もあなたの魔力を取り入れれば強くなれるのかしら?」
ソフィアは自分の力も成長していければと問いかける。魔王は少し悩んだ素振りを見せる。
「辞めておけ、過ぎた力は身の破滅を呼び寄せるだけだ。あの男のようにな」
魔王はソフィアに忠告する。その目は真剣だ。
「わかったわ」
ソフィアは素直に聞き入れた。そして話題を変えるように別の質問をした。
「あの団体ってなんなの?」
ソフィアのその質問に魔王は考えるような素振りを見せた
「なんなんだろうな。俺の時代にあんな奴らはいなかった。死んだ魔王が祭り上げるにはちょうど良かったんじゃないか」
「魔王ってそんな軽い存在なの?」
ソフィアは呆れ気味にそう言った。
その言葉に魔王は何か思ったのか、そうでないのかは分からないが、何も言わない。しかし、ソフィアの意識を現実へと戻すのだった。
目を開ける。首を貫かれた男が苦しそうに首に回復魔法をかけている。思ったよりも傷が深いのかなかなか治らないようだ。
ソフィアはそんな男に回復魔法をかけてやる。
「くっ、かはっ……なぜだ……なぜ俺を助ける?」
男は行動の意味が分からないといった表情で、ソフィアを見つめた。
「まだ聞きたいことが山ほどあんのよ。それにあんたを殺しちゃったら反省できないでしょ」
男は驚いた様に目を丸くした。だが直ぐに顔を元に戻すとフハハと高笑いをする。
「残念だな。俺は滅多なことでは口を割らないぞ」
「そ。でも安心して、喋るまで解放しないから」
ソフィアは男に魔法を掛ける。すると男は五感が鋭敏になる。吹く風に当たると肌がピリピリとし、まるで走った後の如くに心臓が高鳴る。
「な、何をした」
「ただ、感覚が鋭くなっただけよ。でも五感を鋭敏にすると集中が切れやすくなるし、魔力操作も難しくなるわよ」
ソフィアは男に忠告する様にそう言った。しかし男は何も答えない。黙って感覚の鋭敏化に耐えている様だ。
「あら、耐えるのね。ならこれはどうかしら」
するとソフィアは急に男の腕を掴んだ。感覚が鋭敏になっている男は今、触られただけでも激痛だろう。
「ぐっ、がぁっ」
男は悲鳴にも近い声を上げた。しかしソフィアはそんな男の様子を気にも止めず続ける。
「早く吐かないと腕なくなっちゃうわよ?」
ソフィアのその言葉に男はさらに歯を食いしばりながら耐える。そして遂に男が口を開いた。
「……わ、わかった……話すから腕を離してくれ……」
その言葉を聞いたソフィアはニヤリと笑い男の手を離した。
「思ったより早かったわね。もっと痛め付けるつもりだったのに」
男は自由になった腕に息を吹きかけて、回復魔法をかけている。そして慎重に話し出した。
「俺たちは、ある者の指示で動いている」
男は語り始めた。
「俺たちに力を与えてくれる方だ。魔王の力を持った人造の化け物、それが俺たちの主だ」
「へぇ、そんな奴がいるのね」
ソフィアはその話に興味を示している様に見える。しかし何処か軽い印象を持たれるような返事だ。
「その主人は何のため動いているの?」
ソフィアのそんな様子に気がつくことも無く男は話を続けた。
「それは……分からない……俺は末端の一員だから。だが、復活した魔王にこの世界の王権をもう一度握ってもらう。それは全員の共通認識として存在してる」
「わかったわ。あんたこれからどうなりたい?」
ソフィアは男に対して質問を投げかけた。それはあまりにも残酷で、非道な問いだった。
「俺は……死にたくない……」
男は絞り出すようにそう答えると、ソフィアの顔色を伺う様に見つめる。そしてまた口を開いた。
「なぁ、俺たちを解放してくれないか?もうあの団体には戻らないから」
その提案にソフィアは少し考えるような仕草をする。しかしすぐに答えを出したようだ。
「分かったわ、でも一つ条件があるわよ?」
「なんだ……」
「あんたもう一度その団体に戻りなさい。スパイとして入り込むのよ」
「そ、そんな無茶な!」
男は悲鳴にも似た声を上げる。しかしソフィアは気にも止めない。それどころかさらに続ける。
「あんたには力が足りないわ、だから強くなるためにもう一度その団体に戻るのよ」
その言葉に男は絶望したような表情を見せる。しかしすぐに覚悟を決めたようだ。
「……わかった……もう一度戻ろう……」
男がそう答えるとソフィアは満足そうに笑う。そして一枚の紙を手渡すのだった。その紙には魔法陣が描かれている
「これ、魔法通信用の魔刻印。この刻印に通信すれば私に繋ががるから」
ソフィアはそう説明すると、男は立ち上がった。もう一度仮面を被ると森の中の闇に消えるのだった。
「これで良かったのかしら?」
ソフィアは魔王に問いかける。しかし返事は帰ってこない。どうやらこちらからは干渉出来ないようだ。
「はぁ……疲れたわ」
ソフィアはそう呟くと、地面にへたり込んだ。その顔は疲れ切っているように見えるが何処か満足気だ。
そんな時、後ろからガサガサっと草をかき分ける音が聞こえてきた。振り向くとそこにはエレナたち三人が居た。
ソフィアが大丈夫だった?と問いかける。
「うん。大丈夫だったよ~」
「はい。私も大丈夫でした」
「こっちは大丈夫だったよ。ソフィア」
ソフィアの質問に対して、口々に返答した。
「良かったわ」
ソフィアは立ち上がると、エレナたちの方へと向かっていった。




