雷閃の一撃
ソフィアたちと別れたエレナは大量の猿の魔物と対峙していた。それは目の前に数え切れない程存在し、全員がエレナを敵と認識し睨んでいる。
「ちょっと多いかなー」
そう言いながらエレナは魔力を解放する。解放された魔力が身体から雷の如くバチバチと火花を散らす。
エレナの周囲に迸る魔力は、まるで嵐の中心に立つかのように大気を揺るがしていた。彼女の体から放たれる雷光が、辺りを明滅させ、その圧倒的な力に猿の魔物たちは一瞬怯んだ。しかし、それでも彼らは逃げようとはせず、低く唸りながらエレナにじりじりと迫ってくる。
「これだけいれば、退屈しないで済みそうだね」
エレナは微笑みながら、手を軽く振り上げた。次の瞬間、解放された魔力が空気を震わせ、一斉に猿の魔物たちへと向かっていった。雷光が真っ直ぐに走り、その速度は目にも止まらぬ速さ。最前列にいた魔物たちは電撃に貫かれ、焼き尽くされる。
「でも、こんな小物相手に全力を出すのもなんだかな…」
エレナは魔力を緩め、手加減をするかのように拳を握りしめる。すると、彼女の周囲に纏わりついていた雷が徐々に収束し、まるで彼女の体に吸い込まれていくかのように消えていった。
「まぁ、これくらいで十分でしょ?」
エレナは、周囲に漂う魔力を制御しながら、肩を軽く回して気持ちをリセットする。彼女の視線は猿の魔物たちに固定され、冷静さを失わないまま次の一手を考えていた。しかし、魔物たちはそれを見逃さない。彼女が一瞬手を緩めた隙を突くように、猿たちは一斉に地面を蹴り、鋭い牙を剥き出しにして跳躍した。
「いいね、その勢い…でも!」
エレナの瞳が一瞬、金色に光り、右手を素早く地面に向けて突き出す。そこからわずかに発せられる魔力が、雷のような姿を持った。エレナが魔力を発すればそれだけで雷属性に偏る。
猿の魔物たちは激しくもがき、筋肉が痙攣していた。その身を動かそうと必死に抵抗するが、電気による束縛は簡単に解けるものではなかった。彼らはその異常な状況に驚き、そして恐怖を感じているのか、低い唸り声をあげながら必死に抵抗を続ける。
エレナはそれを静かに観察しながら、数歩後ろへと下がった。猿たちの必死な様子に対して、彼女の態度はあくまで軽やかで、どこか余裕が感じられる。
「これ以上は無駄だよ、猿さんたち」
そう言うと同時に、彼女は指を鳴らす。小さな音が響いた瞬間、空間に滞留していた魔力が一気に解放され、束縛された猿たちは解放される。
しかし、猿たちもただやられるだけではなかった。地面に倒れ込んだその一瞬の隙をついて、後ろに控えていた数匹の魔物が猛烈な勢いでエレナに迫る。今度は、エレナの魔力の範囲外にいた者たちが、彼女の隙を狙って牙を剥き出しにして飛びかかったのだ。
「ふぅ、さすがに隙だらけってわけにもいかないか」
エレナは軽く息を吐き、足を地面に強く踏み込む。次の瞬間、地面が大きく震え、彼女の周囲から無数の雷柱が急激にせり上がった。雷柱は槍のように鋭く伸び、猿の魔物たちを貫くことはなかったが、その進路を完全に遮断した。
「これは…まぁ、ちょっとした障害物ってところかな?」
エレナはいたずらっぽく笑いながら、周囲の雷柱を見回す。その間に、猿の魔物たちは何度も突進を試みるが、間を抜けることはできない。試した者から感電していく。
「へえ、まだやる気なんだ。なかなかしぶといね。実力の違いがわからないほど馬鹿じゃないと思っていたんだけどね」
エレナは、猿たちの行動に少し感心しつつも、手をゆっくりと上げる。そして、再び周囲の空間に魔力が集まり、雷柱が光り始めた。猿たちはそれに気づくことなく、やがてその雷が一斉に解き放たれる。
雷の奔流は空気を伝って、猿たちに直撃する。鋭い光と轟音がその場を包み、猿の魔物たちは一瞬にして動きを止めた。痺れた体は、無力にも意識は落ち、再び地面に倒れ込む。
「うーん、これじゃ退屈だな。もっと面白い展開はないかな?」
エレナは呟きながら、目の前で倒れる猿の魔物たちを見下ろす。しかし、その瞬間、彼女の背後から一際大きな唸り声が響いた。エレナが振り返ると、他の魔物たちとは明らかに異なる巨大な影が、森の奥からゆっくりと姿を現していた。
「おっと、やっとボスが出てきたみたいだね」
その影は、普通の猿の魔物たちを凌駕する巨大な体を持っており、全身に漆黒の毛並みを纏っている。目は血のように赤く光り、鋭い爪と牙が不気味に光を反射している。その威圧感は、これまでの猿の魔物たちとは比べ物にならない。
「やっと、少しは楽しめそうだね」
エレナは目の前の敵に向かって微笑みながら、再び魔力を全開に解放した。雷が彼女の周囲で激しく音を立て、空気中に漂う静電気が肌を刺激する。エレナの体は徐々に光を帯び、まるで雷そのものが彼女の体の一部であるかのように見える。
巨大な猿の魔物は、それをじっと見つめていたが、次の瞬間、右手を大きく振りかぶりエレナに向かって振り降ろした。その巨体から繰り出される攻撃は、その大きさに見合っているのかあまり素早くはなくその変わり威力がとんでもなかった。
エレナは瞬時にその場から飛び退いた。先程までエレナが居た場所は巨大な猿の手によって潰されている。もう少し遅れていれば、エレナも同じように潰されていただろう。
「凄い威力だね。でもちょっと遅いかな」
エレナはその巨体から距離を取るように、森を駆ける。木々の間をすり抜けるように進んで行く。それに対し猿はその巨大な手を地面と平行にし、木があること関係無しに思いっきり薙ぎ払った。
その手に対しエレナは大きく飛び上がりそれを躱す。
空中で手のひらに魔法陣を描くとそれが雷の形を持ち、バチバチと火花を散らした。
「激火雷撃」
手の中で燃え盛る雷が細長く姿を変えるとエレナはそれを思いっきり握りしめそれを猿に投げつけた。バチバチと進んでいくそれはまるで空気の中を泳いでいるかの如く。
そしてそれは猿の胸へと突き刺さった
「ぐっ、うぐ」
その胸に雷炎する電火が深々と突き刺さる。ここぞとばかりにエレナはもっと激火雷撃を撃ち込んでいく。
「がっ、あがぁ」
「もう終わりなの?図体ばかりでかくてそれ以外はなんもないわねー」
猿は苦しんでいる。自分の中に入ってきた異物に対処しようとその体が働いているのだが、それが彼にとって不快なのだろう。
「惜しいんだけど、あなたとはここでバイバイだね」
これで終わりだとばかりにエレナは空中に魔力を集めていく、そしてそれは巨大な魔法陣と成る。空が黒くなり始め、空中にバチバチと静電気が走る。その魔法陣によってその電気が集められる。それは集まると更に大きく成長した。今では空を覆い尽くす程の雷が世界に帯電している。
「激雷電重落」
豪快な破裂音と共に雷が降りかかる。極限まで大きくなったそれは空気を切り裂きながら大猿に落雷した。そして魔法が止み土埃が晴れ次にその場を見た時にはあの猿は跡形もなく消えていた。




