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転移世界のあなたと私  作者: ツミハミ
起源の国 オリジナ
9/26

9話

 シエル団長にブラックオパールを渡してから二日経ち、キシリカ達とショッピングをする予定の日がやって来ました。ただ、また道に迷っていたので少し集合時間に遅れてしまいました。今はそれについてお叱りを受けています。


「あのー、なんというか、ほんとごめん。」


「アンタねー、私と一緒で方向音痴なんだから少しは早く出たらどう?」


「いや、これでも集合時間の30分前には着くように出たんだけど…。ごめん!」


「まぁまぁ、キシリカちゃん。本人も反省していることだし、今回は許してあげよう?」


「フンッ!次遅れたら流石に怒るわよ。」


「うん、分かった。」


「ところで、二人共お金はちゃんと残してある?」


「えぇ、もちろんよ。アンタ達との買い物楽しみにしてたんだから。ね、ルド?」


 そう言ってキシリカが笑顔で同意を求めてきますが今の私はこれにすぐ返答できません。なぜならブラックオパールとカメラを買った時にお給料の半分以上を使ってしまっているからです。


「…ルド?」


「その、実を言うと既に半分程使ってしまいまして…。」


「「…。」」


「…ごめんなさい。」


―――


 また少しお叱りを受けた後、ようやく買い物に行くことになりました。自分が原因とはいえ、あのときの二人の冷たい目線は出来ればもう浴びたくないです。


「あの、二人共、今日は何を買うおつもりで?」


「もちろん、服と剣よ!」


「剣?」


「私達の騎士団は支給される剣とは別に自分の剣を持っていって使ってもいいのよ。」


「あぁ、それで自分に合う剣を。」


「そういうこと。支給の剣も使いやすくていいんだけど、少しヒビが入ってきちゃったのよ。」


「そういえば、私の剣、片方折れちゃってたような。」


「そうよ。それもあって今日はここに連れてきたのにアンタって奴はもう。」


「はい、すみません。」


 こうやって気遣ってもらってたのを知るとまた罪悪感が。はぁ、やらかしちゃった。


「ま、まずは服でも買いに行きましょ。ほら、行くわよ。」


 キシリカとロゼリアが私の手を掴んで引っ張ります。こんな風にただ友達と遊ぶというのが久しぶりなので嬉しいです。


「着いたわよ。」


 少し歩いて連れてこられた店は比較的安い値段なのにも関わらずオシャレなデザインのものが多いので若者に人気のようです。店内に入ってみると、確かに品揃えが豊富で自分に合う服をじっくり探せそうです。


「キシリカはどんな服が好きなの?」


「私はわりと何でも好きよ。けど、家の行事で舞踏会とかに行くと重いドレスばっかり着させられるからそういうのは普段は避けてるわ。」


「あー、貴族って大変だね。」


「まぁ、私の家は別に上級貴族ってわけでもないし、スキルのお陰で騎士団に入れたからまだマシな方だと思うわよ。」


「ロゼリアは?」


「私は少しボーイッシュなデザインの服が好きなの。自分で言うのも何だけど私って背が高いほうじゃない?だからスタイリッシュに見えるかもって思ってね。」


「なるほど。」


「それに、私は家がそれほど裕福な方じゃなかったから飾りが沢山付いててそれなりに値段がするのは避けてたのよ。」


「あと、聞きたいんだけど髪色に合う服ってどうやって探してるの?二人共、赤とか青とか派手な髪色だし。」


 二人は炎魔法と、水魔法が由来して髪色が変わっています。かくいう私も黒髪がいつの間にか銀髪に変わっていたので今までとは色味の違う服を選ばないといけなくて苦労しています。


「昔、スキルが覚醒したときに頑張って試着しまくっていい感じのを選んでたわね。今でもそれに近い色のを買うようにしてるわ。」


「なるほど、じゃあ私も今日は試着しまくってみようかな。」


「いいわねぇ、私達で何が似合ってるか見てあげるわ。」


「いいの? ありがとう。」


「もちろんよ。とは言ってもルドちゃんはスタイルがいいから何でも似合いそうよね。」


「う、羨ましい。」


 それから暫くの間、私の試着に付き合ってもらってようやく似合っている組み合わせを見つけました。


「ありがとう、二人共。おかげで納得のいく組み合わせを見つけられたよ。」


「別にいいのよ。代わりに、今度は私達の試着も手伝いなさいよ。」


「オッケー。」


 それからまた暫くの間試着に付き合って、全員が服を買い終わって店を出てきました。


「皆、試着したのを着っぱなしだね。」


「せっかく皆で選んだ服なんだから、どうせなら着て帰りたいわよね。」


「品揃えも良かったし、店員さんもしっかり対応してくれたから良かったわ。また行きましょ!」


「もちろん!あ、そうだ。皆が着替えたところでやりたい事があったんだ。」


「ん?何よ?」


「じゃじゃーん!カメラ!」


「カメラ!高かったでしょ!」


 先日古代遺物店で購入したカメラはそれからずっと腰の辺りに引っ掛けて持ち運んでいます。これで今日の思い出を残しておきたかったんです。


「? 二人共、知ってるの?」


「えぇ。めちゃくちゃ高いからこんなの上流貴族ぐらいしか持ってないわよ?どこで買ったのよ?」


「古代遺物店で買ったんだ!」


「え、ってことはそれ量産品じゃないの?」


「? 多分。」


「アンタ、すごいわね。量産品じゃないってことは性能も一級品よ。そんなん記者でも持ってないわよ。」


「え?量産品があるの?」


「一応あるわよ。中の構造を真似して作ってる団体があるのよ。けど今の技術じゃ難しいところが多くて、そこをスキルで無理やり補ってるから性能が低いのよね。」


「なるほど、まぁいいや。とりあえず、写真撮ろ!」


「いいわよ。」


「はい、チーズ!」


「っ、眩しいわね。」


「はい、これ!」


 二人に今現像した写真を渡します。


「おー、すごいわね!」


「ふふん、これが私の給料の大部分を持っていったカメラの力だよ。」


「これ、私達がもらってもいいのかしら?」


「もちろん、むしろ持ってて欲しいからあげたんだ。」


「そうなのね。ありがとう、ルド。」


「ありがとうね、ルドちゃん。」


「うん。私もこの写真は大切にするから。」


 親友みたいに勝手に思ってる二人との写真だから、とても特別なものに感じます。いつかこの世界で撮った写真を集めてアルバムを作るのもいいかもです。


―――


 写真の話も一段落し、そろそろ剣を買いに武器屋に行くことになりました。服も結構たくさん買ってしまったので、お金が足りるか少し不安です。


「どの店が武器屋さん?」


「確かこの道を曲がると見えてきたはずよぉ。」


「あ、あれよあれ。」


 大通りを右に曲がって少し細い道に入ると、剣のイラストが描かれた小さな看板を掲げているだけの目立たない武器屋さんが見えてきました。


「お邪魔しまーす。」


 中に入ると狭い店内で、埃が積み重なっている少し失礼ですが汚い店であることが分かります。本当にここで良い剣が買えるとは思えません。


「お父様に聞いたんだけど、ここの店主さんは少し癖が強いけど良い鍛冶師の人らしいわよ。」


「お!お客さんかい!」


 少し待っていると奥から低い声が響いてきした。


「はい!剣を買いに来ました!」


「そりゃあまた、こんなところまで良く来てくれたもんだ。ハッハッハッ!」


 店主さんは恰幅の良い初老ぐらいのおじいさんでした。今のところは別に普通の方に見えます。


「どんな剣をお求めで?」


「私は大剣が欲しいわ。」


「私は大斧をお願いするわぁ。」


「あ、私は普通の直剣を一本。」


「あいよ!少し待っててくれ。いくつかいい奴を持ってきてやるからよ!」


 そう言って店主さんはまた裏に戻っていきます。やはり普通の方なのでは? その後すぐに店主さんは私達がリクエストした物をいくつも抱えて戻ってきました。


「て、店主さん力持ちですね。」


「ん?そりゃあ剣を扱う仕事だからな、鍛えるさ。それに俺ぁ元々騎士をやってたからな。」


「店主さん、騎士だったんですか? 実は私達も今は騎士をやってるんですよ。」


「あぁ、そんぐらい見りゃあ分かるさ、後輩。」


「? 見りゃあ分かるってどういうことよ?」


 キシリカが聞くと店主さんは静かに答えます。


「お前さん等の手や足を見れば分かるってことさ。きちんと鍛えている奴の身体だ。」


「あ、ありがとうございます。」


「だが、まだ足りない。もっと強くならないといけない。だから、ここで手に馴染む剣を買って行くと良い。良い武器は良い持ち主を育てるからな。」


 カウンターの上に並べられた武器の本数は一人につき三本、そのどれもが支給用の武器とは雰囲気が違っていて不気味にも感じます。まるで武器の方が私達を見定めているような。


「あれ、私、普通の直剣をお願いしたはずじゃ。」


「ん?お前さんにゃ普通のはもう合わないだろうからな、勝手に用意させてもらったぞ。」


(…お金、足りるかな?)


 並べられた剣はどれも魔物の素材を使って作られているようで波長が合うのか合わないのかが手に持つと何となく分かるようです。


 しかし、手に馴染むような気がするものの、しっくり来る物のようには感じず、正直微妙です。この中で一番いい感じなのは左に置かれた、リザードと呼ばれるトカゲみたいな魔物の素材が使われた剣です。


「うーん、これ買うわ!」


 キシリカとロゼリアはもうしっくり来るのを見つけたようで購入を即決しています。


「ルドちゃんはなにか良いのあったかしら?」


「いや、正直…微妙。」


「む、そうきたか。ならその中でまだマシなのはどれだ?」


 店主さんもあまり見ないパターンなのか少し驚きつつも、しっくり来るのを見つけるためにもう少し絞り込んでくれるようです。 


「この、リザードが素材のです。」


「分かった。少し待っててくれや。」


「はい。」


 店主さんはそう言うと、また別の剣を取りに裏に下がっていきます。


「ねぇ、二人共。しっくり来るってどんな感じだった?」


「うーん、これしかないって言うのかしら。今までもずっと自分の一部だったんじゃないかっていうぐらい手に馴染むのよ。」


 ロゼリアは刀身がスライムと金属を混ぜ合わせた特殊な素材になっている大斧を買っています。スライムと水魔法の相性が良いそうです。


 それに対してキシリカが買った大剣は支給の大剣よりも大きさ、そして重さが増しています。炎魔法の熱がよく伝わるように全ての箇所が金属製になっています。


「都合良すぎじゃないかってぐらいピッタリだね。」


「そのぐらいピッタリだから手に持つとしっくり来るんじゃないかしら?」


「確かに。けど、やっぱり店主さんもすごいよね。ピッタリそうなのを特に何も伝えてないのに持ってきてくれるんだから。」


「きっと剣の声を聞いてるのよ!」


「キシリカ、剣は喋らないよ。」


「嬢ちゃん、これぁどうだ?」


 キシリカとふざけながら待っていると店主さんは先程のリザードの剣よりも禍々しい、赤い剣を持ってきてくれました。


「これは、一体何で出来てるんですか?」


「こいつはウチに置いてるのでもとっておき中のとっておき。竜の血が混ざった剣だ。」


「え、竜?」


「ほれ、取り敢えず持ってみてくれ。」


「あ、はい。」


 その剣を手にした瞬間、自分の身体にまるで接続されたかのようにしっくり来て、剣と血管がつながったかのように感じます。


「店主さん、これやばいです!凄まじい力を感じます!」


「おぉ、そりゃあ良かった!それにしてもお前さん、竜の血に適正があるとかどうなってんだ?」


「え、いや…もしかしてあれ?あの、実は私、龍って名前のスキルを持っていまして。」


「龍!?なるほどな、それなら確かにこれが適応するのも納得だ。」


「適応、ですか?」


「そいつには、昔討伐された竜の血が入ってるんだがまだ少し意思が残っているのか殆どの奴らは剣に弾かれてな。」


「剣に意思が?」


「強い魔物の意思が死後も残留するのは時々ある話だ。ちなみに、お前さん以外に持てた奴はあのシエル・アルテミスぐらいだ。」


 シエル団長、あの人は何処に行っても名前が出てきます。


「まぁ、出来れば買ってってくれ。これ以上置いておいても使い手が居なそうだからな。」


「あ、はい。頂きます。あと、私双剣使いなので先程のリザードの剣も頂けると。」


「もちろん良いさ!…ただ、少し値は張るぞ。」


「え?」


「大体、このぐらいだ。」


 そう言って、店主さんが提示してくれた額は私の所持金を優に超えていました。


「あのー、申し訳ないんですがお金が足りなくて、竜の剣は今買えるんですが、リザードの剣の方はお取り置きして頂けたりします?」


「え!?あ、アンタもう給料が…。」


 は、恥ずかしい。まだ給料を貰ったばかりなのにもう全部なくなって…!? 今月の食費とか諸経費代、どうしよう!


「も、もちろんだ、ゆっくりで良いからそのうち買いに来てくれ。毎度あり!」


 結局、竜の剣のみ購入して店を出ました。店主さんが見えなくなるまで手を振ってくれて嬉しかったのですが…。


「ごめん、二人共。お金…貸して…。」


「ルドちゃん…。」


「…。」


「私、サリナ小隊長になんて言えば…!」


 ロゼリアがショックで膝から崩れ落ちます。それを咄嗟に支えながらキシリカが言います。


「ロゼリア!くっ、何やってるのよ、ルド!」


「いや、ほんっと、ごめん。」


「アンタ、そんな体たらくで先月はどうやって生きてたのよ?」


「先月は、シエル団長から貰ったお金だから何とか耐えてたんだけど、自分のお金になった途端に制御が…!」


「で、どうするの?ルドちゃん、今月はご飯抜き?」

 

「…残念ながら、そういうことに。」


「うーん、あれ?アンタそういえばあれは知らないの?」


「あれ?あれって何?」


「あ、あれね!ショックすぎて出てこなかったわ。ナイスよ、キシリカちゃん!」


「ん?あれって?」


「じゃあ、早速行きましょう。」


「あれって?あの、無言で肩掴むのやめっ、あのっ! あの〜!」


―――

 

 二人に引きずられ、辿り着いた建物は酒場のような活気のある大きなところでした。


「私、お酒は飲まないんだけど?」


「そもそもお金がなくて飲めないじゃない。」


「…そうでした。ここには何をしに?」


「アンタの冒険者登録よ!」


「?」


 人が居る酒場のような場所の奥にカウンターがあります。どうやらそこが受付のようでこれから私は冒険者?登録をさせられるようです。


「ようこそ、冒険者ギルドへ!」


 受付のお姉さんが出迎えてくれますが正直何も分かりません。


「あのー、冒険者ってなんですか?」


「では、今からご説明しますね。冒険者というのは簡単に言うと七王国間で使える身分のことを指します。国から国へ渡る場合に冒険者だと言って他国へ入ると検査がスムーズになります。」


 地球でいうパスポートみたいな感じでしょうか。


「メリットが大きいため本来は厳正な試験の後、誓約書を書いてもらい、仮登録。その後、いくつかの依頼をこなしてもらい信頼を得て、ようやく本登録となるのですが、オリジナ騎士団所属の方はここでいきなり本登録をすることができます。」


 すごいな、オリジナ騎士団。それだけ国民からの信頼が厚いのかな?


「少し質問なんですけど、他国へ入る時の検査がスムーズになるってどの程度のものなのでしょうか?」


「本来の検査では、まず入口で個人情報を書かされます。その後、前に滞在していた国に本当にその人物が存在しているか問い合わせられます。その結果、確認が取れた場合にのみ入国が許可されるので数日から数週間かかります。」


 うわぁ、めちゃめちゃ大変。


「ですが冒険者になって、冒険者カードと呼ばれる身分証明書を提示すると、その検査を飛ばして、すぐに入国することができます。」


「…すごいんですね、冒険者。」


「はい。一年毎に資格の更新の必要はありますが、それさえすれば様々なサービスを受けられます。お金に困った場合、ギルド側で単発の依頼を斡旋したり、お酒や食品の割引を受けられたりもします。」


「なるほど、特にデメリットはない感じですかね。」


「はい。特に騎士団の方は試験もパスできるので冒険者になっておいて損は無いはずです。」


「じゃあ、登録お願いします。」


「では、こちらの紙に氏名、現住所、職業、年齢等、必要事項をご記入ください。」


「はい。」


 一応ゆっくり確認しつつ書き終えて書類を渡すと受付のお姉さんは後ろに下がっていきました。


「アンタ、ほんとに冒険者の事知らなかったのね。それでどうやって旅してたのよ?」


「まぁ…色々?」


「そういえばルドちゃんは方向音痴だったわよね。それでどうやって旅を?」


 まずいです。なんか色々バレそうです。けど、この二人になら私のことについて話しても大丈夫な気もしてきてしまいます。そうこうしているとお姉さんが一枚のカードを持って戻ってきました。


「ルド・エタニティ様、登録完了です。最後にこのカードの四角い線で囲まれた部分に人差し指で触れていただけますか?」


「あ、はい。」


 素直に従って指を置くと青い光が出て、そのまま数秒すると消えました。


「今のは?」


「ルド様の指紋を登録させて頂きました。これにて本当に登録完了です。」


 指紋認証!?


「あ、ありがとうございました。」


「はい、こちらこそありがとうございました。冒険者カードを紛失されたり、依頼の斡旋が必要になったりした際はまたご気軽にご相談ください。」


「はい。分かりました。」


 指紋認証、すごいですね異世界。というかこんだけの技術力があって何でカメラの量産品は性能が落ちるんでしょうか?実は冒険者カードも古代遺物だったりして。


「ルッドォ、早速依頼見に行きましょ!」


「何? ルッドォって、変じゃない?」


「変じゃないわよ、ルッドォ。」


「じゃあ、キッシリカァ?」


「…変ね。」


「でしょ。」


「ほら、二人共何ふざけてるの?」


「「ごめ〜ん。」」


 少し移動して依頼が貼ってある看板まで来ました。依頼には、いつでも募集している恒常依頼と恒常依頼よりも報酬の高い特殊依頼の二種類があるようです。


「ロゼリア、特殊依頼って難しいの?」


「うーん、どちらかというと魔物の討伐、遠征の護衛とかの少し面倒臭い依頼が多いわね。そういうのは一回達成したら同じ依頼は出ないでしょう?だから特殊依頼として処理してるのよ。」


「なるほど、なら恒常依頼かな。」


「ルドちゃん。これは?」


 そう言ってロゼリアが見せてくれたのは家の建設の手伝い。一日で稼げる金額が他のより二割ほど高いです。


「何でこれだけ報酬が高いんだろ?」


「インフラ整備とかの生活の根幹に関わる依頼は報酬も高いのよ。他の魚釣りとかよりはよっぽどね。」


「けど何で冒険者ギルドを通して依頼を出してるの?普通に仕事の募集すれば良くない?土方とかならすぐに集まりそうだし。」


「冒険者ギルドを通すと怪我とかして今までの仕事が出来なくなった時でも別の依頼を受けるだけですぐに別の職種に移れるじゃない?だから冒険者側からするともしもの不安が減っていいのよね。

 それにギルド側から見てもそういう利点のおかげで依頼を受けてくれる冒険者が増えてくれるから助かるのよ。」


「へー、じゃあこれ行ってみようかな。あ、けどもう今日は無理だよね。」


「そうね。行くとしたら明日の朝からかしら。明日はルドちゃんの家の前に集合ね。」


「了解よ、ロゼリア!」


「キシリカちゃんは私が途中で家に寄るから一緒に行きましょうね。」


「え、二人も来るの?金欠なの私だけなのに。」


「ルドちゃん一人じゃ迷子になるでしょ?」


「え、いやまぁ、そりゃありがたいけど。」


「だから一緒に行きましょ!」


「…ありがと。」


「いーのよ、私達友達でしょ?」


「うん!」


「ちゃんと感謝しなさいよ、ルド。」


―――


「それじゃあ、行ってきます。仕事が終わったらそのまま寮に帰る予定なので、今日は帰ってきません。」


「あぁ、分かった。行ってらっしゃい。」


「いーなー、私も騎士団長に行ってらっしゃいって言われたいわ!」


「なら、行ってらっしゃい、キシリカ。」


「え、ほんとに言ってもらっちゃったわ!やばいわよ、ルド!」


 一日経ち、皆で特別依頼に行く日になりました。今はシエル団長の家の前で集合したところです。そうしたら案の定キシリカが暴走気味に。


「私も騎士団長といっしょに暮らしたいわ!」


「はいはい、行くわよキシリカちゃん。それでは騎士団長、失礼します。」


「あぁ、ルドとキシリカのことをよろしく頼む。」


「やだ!待って!騎士団長〜!」


―――

 

 工事現場に着くと十人程度の方達が出迎えてくださいました。その後説明を受け、レンガを運んだり壁にペンキを塗ったり一日中仕事をこなしました。


 ロゼリアは昔、ここで働いていた経験があったらしく再会を祝うために皆で打ち上げに行くことになりました。今はそのために冒険者ギルドの横にある酒場にやってきています。


「それじゃあロゼリアとの再会を祝してかんぱーい!」


「「「かんぱーい!!!」」」


 昨日の夕方来たときにはすっからかんだった酒場にすっかり活気が溢れています。


「しっかし、またロゼリアに会えるとは思わなかった! 騎士になったって聞いてたからな!」


「えぇ。私ももう立派な騎士です。」


「あのポンコツがなぁ? ほんとに立派になったな! ガッハッハ!」


「え、ロゼリアってポンコツだったの?」


 私がそう聞くとロゼリアは少し恥ずかしそうに顔を背けながら首を縦に振ります。


「昔のこいつはそりゃあひどかった!レンガを運ばせりゃ落として割る!ペンキを塗らせりゃムラがひどいし、少し目を離すとすぐボーっとして手が止まる!」


「そうなんですか、正直今のロゼリアのイメージとはかけ離れているような気がします。」


 今のロゼリアはどちらかというとしっかり者のイメージがあります。けど言われてみれば初めて会った時にもそれっぽいこと言ってたような…。


「けどな、こいつは家族のために自分なりに一生懸命働いてたんだ。だから俺たちもこいつを仲間だと思っていたし、認めてた。騎士になったって聞いた時は皆嬉しかったさ。」


「だってよ、ロゼリア。」


「えぇ、私も皆と居ると楽しかったわ。今度は騎士として皆のことを守るわね。」


「あぁ、頑張れよ!そこの新入りの嬢ちゃん達も騎士なんだろ? ロゼリアのこと、よろしく頼む。」


「もちろんです。」


「もひろんよ!」


 口の中を食べ物でいっぱいにしたキシリカも返答します。


「キシリカ、食べながら喋らない!」


「ごめんなひゃい!」


「ところで、ロゼリアは何で急に戻ってきたんだ? 騎士になったんだから収入は安定したんだろう?」


 ここにきて私が一番聞かれたくなかった話題になってしまいました。


「それは、ルドちゃんが給料をっ!?」


 既のところでロゼリアの口を塞いで言うのを妨害します。私が金欠になったからです、とかこのいい感じの雰囲気の中言うのは恥ずかしいので嫌です!


「? ルドが金欠だからよ。」


「キッシリカ〜!何でそんな簡単に言っちゃうの!」


「ガッハッハ!何かあったのかと思ったらただの金欠か、心配して損したぜ!」


 皆さんがあまりにも馬鹿らしい理由に笑っています。こうなるから言いたくなかったのに!


「金欠なのは自業自得なんだからしょうがないじゃない。むしろ一緒に来てあげてるだけ感謝しなさいよ!」


 はい、そのとおりです。何も言い返せません。


「なにはともあれ、お疲れなさい。ルドちゃん。」


「お疲れ、ロゼリア。」

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