3話
あれから一ヶ月が経ち、ついに入団試験の日がやってきました。少し緊張していますがどんな人に会えるのか少しワクワクもしています。
「落ち着け、ルド。スキルがあるんだから落ちることはないんだ。」
「そ、そうですよね。頑張ります!」
入団試験は九時からなので八時半には着くように早めに出ることにします。
「…ルドはもっと早く出たほうがいいぞ。」
「そうですか?」
「また迷子になって行けなかったら次の入団試験まで待つ羽目になるからな。」
「ちなみに次の入団試験っていつですか?」
「一年後だ。」
「もう出ることにします!いってきます!」
「気をつけるんだぞ?」
シエル団長からの有り難い助言を素直に聞いて出発することにしました。この一ヶ月の間、何回も道に迷ってシエル団長に迎えに来てもらっているので前科大有りなのです。
そして早く家を出て騎士団の拠点を目指した私は…既に迷っていました。
「何でこうなるの?真っ直ぐ進んできたのにまた知らない場所に出てるなんて。このままじゃ遅刻して来年まで待つことになっちゃうよ!」
「…なるわよ!」
同じように叫んでいる女の人が横にいつの間にか立っていました。ツインテールになった赤い髪が左右に揺れています。
「あ、あのー、もしかして騎士団の入団試験に?」
「そうよ!なのに道に迷ったのよ!こうなるなら送ってもらえば良かったって…アンタも?」
「あはは…実はそうなんです。」
「じゃあ二人で向かうわよ!二人なら効率も二倍になるもの!」
「別に効率は変わらないんじゃ?」
「細かい事はいいのよ!行くわよ!」
「あ、ちょっ、待ってください!」
こうしてこの不思議な人と騎士団まで行くことになりました。三人寄れば文殊の知恵の三分の二版、と言えますが方向音痴が二人居てもなんの役にも立ちません。
「む、道が三つに分かれているわね。私は右だと思うわ。」
「私は左の道だと思います。」
「…私達って方向音痴じゃない、だから私達が選ばなかった真ん中の道が正解だったりしないかしら。」
「なるほど、頭いいですね。」
「そりゃあ私だもの。」
この道は右が少し遠回り、左も少し遠回りの道でしたが私達はわざわざ、そもそも騎士団に辿り着けない真ん中の道を選びました。馬鹿ですね。
それから時間が経ち、そろそろ入団試験が始まるというのに先程よりもさらに入り組んだ道に入り込んでしまいました。
「ここどこですか?」
「知らないわよ!というか入団試験まであと三十分しかないじゃない!どうするのよ!」
「私に聞かれても分かりません!取り敢えず走ったほうがいいですかね!?」
「貴方達、どうしたの?」
声のする方に振り返るとそこには青髪ロングヘアの美女が立っていました。この時の私達には間違いなく女神のように見えていたでしょう。
「アンタ、騎士団への道は知らない!?」
「え、知ってるも何も今ちょうど向かっているところよ?」
「お願いします、付いて行かせてください。お願いします!」
「それはいいけど、…本当に何があったの?」
迷ってしまって騎士団に辿り着けないことを話すと青髪の人は同情してくれました。
「それは大変だったわねぇ。じゃあ迷わないように手、繋ぐ?」
「子供みたいで恥ずかしいので遠慮します。」
雑談しながらも青髪の人は一度も迷う素振りを見せずに歩き続けています。分かれ道で毎回立ち止まっていた私達とは格が違います。
「貴方達、名前は何て言うの?私はロゼリアよ。」
「ふふん、覚えておきなさい。私はキシリカ、いずれ騎士団長になる女よ。」
「私はルドです。」
「ルド、もっと元気出しなさいよ。私のお陰で騎士団に行けるんだから。」
「キシリカ、何かしてたっけ?」
「この私の幸運がロゼリアを引き寄せたのよ、感謝しなさい。」
「キシリカちゃんは元気でいいわねぇ。」
個性的なメンバーになりました。
キシリカは何か貴族のいいとこのお嬢様で本当は騎士団に入る予定は無かったらしいけどスキルがあったのと人を助けたいと思ったから騎士団に入ることにしたらしいです。
あとシエル団長に助けられたことがあったみたいで、それで騎士団長に憧れたみたいです。
それに対して、ロゼリアは普通の家の生まれで、彼女の親はいつもポヤポヤしてる彼女の事を心配していたみたいです。
そんな彼女にスキルが発現して、騎士団の一員として将来有望になったから彼女の親はとても安心したようです。
特に騎士団を志望する理由はないようで、強いて言えば給料が良かったからみたいです。
「何よ、アンタ達二人共スキル持ちだったのね。ビックリしたわ。なら騎士団に入ってからも関わることが多そうね。」
「私もビックリしたわよぉ。騎士団って毎年一人スキル持ちが居たらラッキーって感じらしいのに、三人もいるなんて。」
「そんなに少ないの?」
「うーん、スキルの発現条件が分かってないからたまたま現れるのを待つしかないみたいよ。だからかしら?」
スキルにも種類があって戦闘用スキルとサポート用スキルがあります。
戦闘用スキルが発現する確率はサポート用スキルに比べると少なく、現在騎士団に所属しているスキル持ち七人のうち二人しか戦闘用スキル持ちが居ないらしいです。
そういう事情があるので私が召喚された国では私達が来た影響で一気に二十人以上スキル持ちが増えたので一気に戦闘力が上がっています。
「二人共、着いたわよ。」
「ここが、騎士団…。」
今までこの世界で見た建物の中で一番大きく、中からは活気が外まで伝わってきます。中には多くの人が居ます、恐らく騎士団志望者でしょう。
「スキル持ちの方はいらっしゃいますかー?」
大勢が並んでいるところから少し離れたところで一人の方が声を張り上げています。スキル持ちを探しているようなので私達ですね。
「あのー、私達スキル持ちなんですけど。」
「スキル持ちの方ですかって…三人!?し、少々お待ち下さい。」
私達の事を見た騎士団の人が焦った様子で裏の方に走っていきました。本当に三人もスキル持ちが居るのは珍しいようです。
「ふぅ、ここで今日はお別れでしょうね。」
「そうなの?」
「後はちょっとした面談をしたら今日は終了だもの。まぁ、すぐに会えるわよ。同期になるんだから。」
「すみません、準備が整いました。こちらにお越しください。」
「それじゃあ私から行くわね。また会いましょう、キシリカ、ルド。」
「ロゼリア、ここまで送ってくれて感謝するわ。この礼は騎士団に入ったら必ずするわ。」
「私もありがとう、ロゼリア。私はキシリカみたいなお礼ができるか分からないけど出来る限り頑張るね。」
「お礼なんていいのよ、それじゃあね。」
ロゼリアに手を振って今日のところはお別れをします。ロゼリアが居なかったら騎士団まで来れていないのでロゼリアは恩人です。
「次は私ね、ルド、アンタとは気が合いそうだから騎士団で合うのを楽しみにしてるわよ。…またね。」
「私もキシリカに会えて楽しかったよ。じゃあ今度は騎士団で。」
私もキシリカとは気が合うと思っています。初めて会った時から息ぴったりだったので。
「そこの方、こちらへどうぞ。」
「はい、今行きます。」
「失礼します。」
「はじめまして、私が今回の試験を担当します。どうぞ、お座りください。」
通された所にいたのは少し寝不足のように見える青年でした。私とそう変わらない歳のように見えるのに、試験官をしているとは、優秀な方なのでしょうか?
「それではまず、名前と年齢、後は自己紹介をお願いします。」
「えっと、ルド・エタニティです。歳は十五で、趣味は読書です。…後は、あまり思い付かないです。」
「ではこちらから質問します。そうですね、好きな物、嫌いな物、騎士団に入ってやりたいことをお聞かせください。」
静かな部屋で試験官さんのペンが走る音だけが響くので何が書かれているのか気になって上手く喋れません。
「好きな物、食べ物はケーキが好きです。嫌いなのは、子供っぽくて恥ずかしいんですけどピーマンです。騎士団に入ってやりたいことはまだ決まってないです。」
「いいですよね、ケーキ。私もよく自分へのご褒美で食べます。さて、騎士団に入ってやりたいことは決まっていないとのことですが、では何故騎士団へ?」
「初めは何もできない自分が何か役立てるならいいなと思って入ろうと思いました。今でもそう思ってます。それと、今日出会った友達が言ってたことなんですけど、騎士団に入って人を助けたいって。私ももし誰かを助けられるなら助けたいと思います。」
「そうですか、うーん。…合格ですね、ルドさん。」
「ほ、本当ですか!?」
「はい、受け答えにも問題ありませんし、人格が極端に破綻している、というような事も有りませんでした。私達オリジナ騎士団はあなたを歓迎します、ルドさん。」
「ありがとうございます!」
「それでは最後にスキル内容だけ教えて下さい。適正のある装備をこちらで揃えさせてもらいます。」
「はい、えっと、身体強化、双剣術、治癒魔法、龍です。」
「龍ですか!?凄いですね、伝説の英雄の相棒の名を冠するとは、あなたが騎士団に入ってくれて良かったです。」
合格が決まったあと試験官さんは物腰が柔らかくなって丁寧に対応してくれました。スキルに龍があったのも良かったみたいで凄い褒めてくれました。嬉しかったです。
その後、服の採寸をして今日は帰ることになりました。三日後に正式に騎士団に加入することになり、その日の内に入団式があるそうです。
入団式の後、寮に向かい、そこで仲間達と共同生活をしながら魔物と戦うことになるそうです。けど私達スキル持ちは特殊な訓練が一週間あり、そこでスキルについて詳しく学ぶそうです。
入団試験の後、シエル団長も仕事が終わったそうなので一緒に帰ることになりました。
「今年の新入りはきちんと話を聞いてくれて助かった。どうせ今年も夜中までかかると思っていたからな。」
「大変だったんですね。」
「あぁ、だがルドの方が大変だっただろう。何かあったか?」
シエル団長に遅刻しかけたこと、キシリカやロゼリアのこと、入団試験の時に話したことを伝えました。
「何だ、また道に迷ったのか?やはり送ってやればよかったな?」
「ちょっと馬鹿にしてます?」
「ふふ、いやそんなことはない。ただ、良かったな、友達が出来て。それに話を聞いた限りいい奴らじゃないか。大切にするんだぞ。」
「もう、シエル団長は私のお母さんか何かですか?けど、そうですね。私も大切にしたいです。それに、騎士団での生活も楽しみです。」
「寮に住むとなると、持って行く荷物を纏めないとな。少しお小遣いも渡しておこう。」
「ありがとうございます。けど少し残念です。もうシエル団長と一緒に居られないんですね。」
「別に騎士団で毎日会えるだろう。それに何かあったらいつでも帰ってきていいんだぞ。鍵も渡したままにしておくから。」
この一ヶ月の間、拾ってもらってからずっと私はシエル団長にお世話になっています。
騎士団に入ったのもシエル団長がオススメしてくれたからで、そもそもシエル団長が居なければ私は東の大森林で死んでいました。
「シエル団長、本当にお世話になりました。」
「これからは騎士団の仲間としてよろしく頼む。」
「はい、ルド・エタニティ、誠心誠意頑張ります!」
シエル団長の笑顔が夕焼けの光に照らされてとても眩しく見えました。