26話
「リカさん、下がって!」
私たちの背後に突然現れた大きなアリ、これまで見てきたアリとはサイズがまるで違います。異世界サイズとでも言ったところでしょうか。
「せいっ!」
とりあえずなにも考えずに斬りつけてみましたが変な感覚です。
「すり抜けた……?」
「ルドお姉さん、前!」
「っ!?」
アリの左右合わせて合計六本ある脚、その中で一番前方にある右脚が変形する。変形した形は私がさっき斬りつけるのに使った剣の形そのもの。アリはそのままの勢いで私に対して剣を振り下ろす。
「そんなのありっ!?」
リカさんが知らせてくれたおかげで、間一髪後ろに跳んで剣を避けられました。アリは威嚇するようにカチカチと顎を鳴らしてこちらを見ています。
「リカさん、平気ですか?」
「ルドお姉さんの方こそ大丈夫!?」
「平気とは言えませんね」
なんなんですかね、このアリ。明らかに魔物ではあるんでしょうが、騎士団の資料に載っていた気がしますがどんな魔物か分かりません。いまいち思い出せない。
続けざまに竜剣を使用すると、私の雰囲気が変わったのに気づいたのかアリが突っ込んできました。
「え?」
あわやぶつかるんじゃないかと思うぐらい接近してもアリは攻撃してきませんでした。というより、私をすり抜けて後ろにいたリカさんの方へ向かっていきました。
「どうなって!?」
「ルドお姉さん、こいつ一匹じゃない!」
リカさんにはなにか見えたようです。
「すり抜けた時に見えたんだけど、こいつ、沢山のアリが一つになってる!」
「はい?」
スイミー的な? 小さなアリが集まって大きく見えているということでしょうか。アリは攻撃された瞬間に一匹一匹に分裂しているようです。なら私の剣がすり抜けるのも納得です。ですが、
「だとしたら、私、めちゃくちゃ相性悪いんですけど!」
キシリカとかロゼリアがやらないと駄目じゃないですかこれ!
「じゃあ一回逃げよ、ルドお姉さん!」
リカさんがとんでもない速度で動き回って、アリの攻撃を全て避けながら、私の後ろを指差します。アリがもう二匹、巣の奥からやって来ています。
「増援ですか、思ってたより早いですね。リカさん、撤退しましょう!」
リカさんを攻撃し続けていたアリを、一心不乱に斬りまくって原形がなくなるぐらいに分裂させました。
「今のうちに!」
「バイバーイ、アリさん!」
リカさんが変なボールのような物を投げると、中から煙が出てきました。その煙に紛れて、私たちはアリの巣を脱出しました。
「で、脱出できたはいいけど、どうするのあれ?」
「そうですね。とりあえず、作戦会議しましょう」
ーーー
翌日、騎士団でキシリカ、ロゼリア、それにヤマト隊長たちにも集まってもらいました。皆にアリの件を伝えるとキシリカは露骨に嫌そうな顔をしていました。
「私は無理よ。虫が昔から駄目なの」
「そうなの? できればキシリカに手伝ってもらうのが一番だったんだけど」
あのアリのように数が多い相手は、広範囲高火力のキシリカの炎魔法が最適なんですが。となると、
「ロゼリアぁ〜! お願い!」
「やっぱりそうなるわよねぇ。けど、キシリカちゃんほど役に立てないわよ?」
「いや、大丈夫。私なんてそもそも攻撃出来ないから。それに比べたらさ〜、ね?」
自分で言っててちょっと虚しくなりますね。
「……分かったわ。任せてちょうだい」
「やった! 流石ロゼリア。キシリカとは違うね」
「はぁ!? 苦手なものは仕方ないでしょ! アンタは平気なんだからいいじゃない!」
「キシリカ、私は虫が苦手じゃないなんて一度も言ってないよ」
「……悪かったわね」
「なぁ、ちょっといいか」
話がまとまりかけた時、ヤマト隊長が疑問を口にします。
「アリは、本当に結界の中に居たのか?」
「はい。そもそも村が結界の中にありますし、間違いないです」
「ってことは、魔物が領内に侵入してるってことだろ?」
「まぁ、そういうことになりますね」
「どうするんだ。この事実を知って、放っておくことはできない。もし別の魔物が侵入してきたらまずいぞ」
「それはそうなんですけど、侵入方法が分からない以上どうしようもなくないですか?」
「……そうだな」
ひとまず先に、既に結界内に侵入してしまっているアリの対処を急ぐことにしました。侵入方法に関しては、キシリカやヤマト隊長たちが調べてくれることになりました。
ーーー
「ふぅ、またここに戻ってくることになるとは。リカさん、ナイフの調子はどうですか?」
例のアリの巣の前、今回はロゼリアも加えてやってきました。リカさんのスキルの中に短剣術があったので、騎士団からナイフを貸し出しています。
「完璧だよ! というか、お仲間連れてきたんだから、私要らないよね?」
「いや、必要よ。私が魔法を使っている間、気を引き続けてもらわなきゃだもの」
「なるほどなるほど」
リカさんとロゼリアは早くも打ち解けているようです。会ったのは牢屋以来だと思うんですが。気が合うんですかね。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
二人の会話を中断させて、巣の中に向かいます。巣の中では基本的に私が前を進み、私とリカさんでロゼリアを挟むように進みます。奥に進むにつれ、暗くなってくるので明かりも持ってきています。
通路が、はじめは二メートル四方しかなかったというのに、だんだん広がってきています。入り組みすぎていて自分が今どこに居るのかも分からなくなってきました。方向音痴克服直後の人間には厳しいですね。
「ねぇ、ロゼリア。アリの巣ってどれくらい広いの?」
「巣によってサイズは変わるみたいよ。ただ、通路があって、役割ごとの部屋があるっていうのはどれも一緒みたいね」
「へぇ~」
あまり景色に変化がなく、退屈になってきたので適当に話をしていると横の部屋から前に見たのと同じ、人よりも大きなアリが出てきました。すかさず剣を抜きます。
「ロゼリア、段取り通りによろしく!」
まずは私が前に出て、アリを斬って分裂させる。そこでロゼリアが水魔法を使って分裂したアリたちを包んで、窒息させる。半数ぐらいが死んだところで水魔法を止めて、私たちはさらに巣の深くまで走り出します。
すると、再び合体して体のサイズが半分ほどになったアリが私たちを追いかけてきます。
「ビンゴ! 予想通りだね」
前回巣から逃げたとき、煙で撒いたとはいえアリが全く追いかけるそぶりを見せなかったのが気になっていました。そこで、騎士団の資料であのアリについて調べてみると驚くべきことが判明しました。あのアリは魔物ではなく普通の生物である、ということです。
ではなぜ、あんなふうに分裂したり、合体するようになったのか。それは、元凶の魔物に操られているから。その魔物は俗にいう女王アリ。つまり、この巨大な巣の中にいる魔物はただ一体。
「女王アリの元まで案内してもらうよ」
女王アリを守るためだけ生み出された分裂するアリは、女王アリを狙う者を追い続けて排除する。前の時追いかけてこなかったのは、私たちが女王アリのいた方とは真逆に逃げたから。
当然、女王アリの居場所を私たちは知りません。ですが、方向さえ合っていればその習性によって、分裂するアリが追いかけてきてくれるので、それを目印に女王アリのところまで行けます。
習性を逆手にとって、女王アリの所まで道案内をしてもらいましょう。
そうして、そのまましばらく走っていると一際広い空間に出ました。分裂するアリも足を止め前方を見上げています。
それは、三メートルほどの楕円形をした複数の卵、その上にまるで玉座に座っているかのように佇む一匹のアリ。
「あれが、女王アリ。いや、《《ドミナント》》!」




