25話
ソレイユ領の中心部、そこから少し離れた農村部、そこに泥棒の村はありました。
「あれ、かな?」
「そうそう、あれだよ。お姉さん」
泥棒もそれが村であることを肯定する。ただ、普通の村とは様子が違うように感じます。
「けど、なんというか、ボロボロ?」
「失礼だな、お姉さん。けど、言う通りだよ」
木で出来た家は壁に大きな穴が空いているし、今年は農作業も行なっていないようで田んぼも荒れ果てている。
「なにがあったらこんなことに」
「せっかく来たんだからちゃんと解決してってよね」
泥棒が上から目線で話しかけてきてちょっとウザい。まぁ今回は騎士団のせいでもあるので甘んじて受け入れます。
他の村人たちにも話を聞くべく、近くにある拠点の場所を教えてもらい、そこに向かう。
「どうも〜、こんにちは〜!」
いかにも泥棒が住んでいそうな雰囲気の洞窟に辿り着き、村人の皆さんに挨拶すると私の肩に担がれた泥棒を見て私たちを敵と判断したらしく、攻撃してきました。
「え、あの、ちょっ、話を聞いて、くれませんか!?」
「リカちゃんを返せ〜!」
「リ、リカ? すみません。誰のことですか?」
「お姉さん、私のことだよ〜!」
肩に担いだ泥棒が返事をする。そういえば、名前すら聞いていなかった。
「すみませんが、攻撃されてると、リカさんを下ろそうにも下ろせないんですが」
「そ、そうなのか?」
わりと素直に武器を下ろしてくれました。私も約束通りリカさん?でしたっけを下ろすと村人さんたちが引っ張っていきました。
「痛い痛い! 髪を引っ張らないで、もっと丁重に扱って!」
手足を拘束していたのでリカさんは床をすごい雑に引きずられています。あれでリーダーとか、信じがたい景色です。
「あの〜、出来る限り皆さんを集めてもらえるとありがたいんですが」
―――
リカさんを引き渡したおかげで敵意は無いことを分かってもらえたのか、皆さんをすぐに集めてくれました。村人さんたちに囲まれた状況で話を始めます。
「え〜っと、まずははじめまして。私は騎士団の遊撃小隊所属のルド・エタニティと申します」
「騎士さんがこんな所までなにしに来たんだ?」
「皆さんの村で怒っていることについて、事情をリカさんからお聞きしたので解決しに来ました」
「あんた一人で?」
「はい」
本当はロゼリアもキシリカも呼ぶつもりだったんですけどね。二人の家族が仕事の見学に来てしまい、商店街の方から離れられなくなってしまって。
「一人は一人なんですが、私強いので任せてください」
「……そうなのか?」
皆さんの芳しくない反応ももっともですね。そもそも騎士団に不信感があるのに、やっと来たと思ったらこんな小娘一人ですし。
「皆、そんなに心配しなくてもいいと思うよ」
「なんでお前が分かるんだよ、リカ」
リカさん?
「なにを隠そうこの私、ルドお姉さんに捕まったんだよね。だから、うん、強いと思う」
「リカちゃんが?」
リカさんの言葉を聞いて周りの村人さんたちがザワついています。どうやらリカさんの実力は認められているようです。
「ルドお姉さんだけだよ。私を捕まえられたの」
「あのリカを捕まえるなんて、すごいな」
「ま、まぁもちろん? 私は本気出してないし、本気を出したらルドお姉さんからなんて簡単に逃げ切れちゃうけど?」
「なんですか、その妙な対抗心は?」
「とにかく、私はルドお姉さんのことなら信じてもいいと思う。少なくともルドお姉さんは真剣だよ」
思いがけず、リカさんの説得により私のことを信用しても良いんじゃないかといった空気が皆さんの間に広がり始めました。
心変わりされる前に話を続けてしまいましょう。
「その、だいたいの事情はリカさんから聞いています。数ヶ月前から物が無くなっていって生活に困っている、と。
なにか原因に心当たりは?」
「私らにはなんとも。ルドお姉さんはなにか目星がついてたりしないの?」
「おそらく魔物の仕業だろうと思ってはいるんですが、なにせここは結界の中ですし、あり得るのかどうか」
そうなのです。この村はソレイユ領の中にあるのです。その結果、結界があるせいでむしろ魔物の仕業と言い切ることができない状況。
手っ取り早いのは村に行って調べることなのですが。
「とりあえず、村へ行って調べてきてもいいでしょうか? それでなにか皆さんの手をお借りしたい状況になったら、また声をかけさせてください」
「どうぞよろしくお願いします」
「頑張って、ルドお姉さん!」
「……リカさん、お借りしてもいいですか?」
「……なんで!?」
―――
「なんで私を連れてきたの、ルドお姉さん!」
「いや〜、便利なんですよね。リカさんのスキル」
「それは私が一緒に調査しなきゃいけない理由になってない!」
「まぁまぁ、もし手伝ってくれたら泥棒してた件は少し私の方で口添えしときますから、ね?」
「ならいいけど……」
実際問題、リカさんのスキルはとても有用。なにかあったときに村人の皆さんにすぐにコンタクトを取れますからね。
リカさんと二人、改めて自己紹介を済ませながら村の方向へ歩く。道中は虫が多くて最悪でした。虫苦手なんですよね。
「荒れてますね〜、人が住んでいたとは思えない」
「元は、立派な村だったんだけどね」
「リカさんはどこを調べるべきだと思いますか?」
「無難に家の中とか?」
「ですね。そうしましょう」
家の中になにか変なものがないか二人で探す。棚に放置された本の中にもアリが居て気持ち悪かったです。
虫が壁、さらには天井にもビッシリで日本に居た頃なら間違いなく気絶していた自信があります。
「ルドお姉さん、こんなに虫がいるのによく平気だね」
リカさんも虫は苦手なようです。いや、むしろここまでくると苦手とか好きとか関係なく鳥肌が立つ光景かも。
特になにも見つからず、次の家に移ろうと外に出た瞬間、変なものを見ました。
「……アリが牛を運んでる」
「やばくない?」
明らかに異常な光景です。アリが自分たちより大きい獲物を運ぶのは見たことありますが、流石に牛を運ぶのは見たことないです。
「どこから巣に入れるんでしょう?」
「そんなの、普通に巣穴からじゃないの?」
「牛が入る大きさの?」
「……見たことないかも」
「追ってみましょう」
アリを追っていくと村の敷地からほんの少しだけ外れた場所に約二メートル四方の巣穴がありました。
アリが牛を運んでいくのを見た後、私たちも後に続いて行くことにしました。
「アリの巣とか、初めて入りました」
「普通のは人間が入れるサイズじゃないからね。
というかアリって巣穴のところに門番みたいなのが居るんじゃなかったっけ?」
「そうなんですか?
けど別に門番なんて居なかったと思いますが」
「……」
進んでいるうちに少しずつ、リカさんの口数が減ってきました。
「大丈夫ですか、リカさん?」
「う、うん。ちょっと閉所が怖いだけ」
「なら、ついてこなければよかったのでは」
「ルドお姉さん一人にするわけには行かないよ」
「ん? どうかしました?」
「う……後ろ」
「え?」
様子の変わったリカさんが私の後ろを指差しました。振り返るとそこには私より大きいアリが居ました。




