22話
ロゼリアのお母さんに見送られ、私達は魔物が大量発生しているという現象について対処するため、ひとまずこの領の騎士団に向かうことにしました。
三人で並んで道を歩いていると、ロゼリアのことを知っている人が多く、色々物をもらったので荷物が増えました。荷物を置きに行った意味はなんだったんでしょう。
「ここまでロゼリアが人気だと少し嫉妬しちゃうわね」
「昔から仕事とかも手伝ってたから知り合いが多いのよ」
結果として、大荷物になった私達はようやく騎士団の建物にたどり着きました。石造りのそれなりに大きな建物ですが活気はゼロですね。
「お邪魔しま〜す」
恐る恐る中に入っても、人の気配がまるでしません。不安になりながらも受付と思しき場所まで歩いてみるとついに人を見つけました。
「うわぁ! ビックリした!」
「…んぁ?」
受付の机に突っ伏したままびくとも動かない人が居ました。驚いて声を上げるとあくびをしながら腕を伸ばして立ち上がります。
「…ん? あれ!? お客さん!?」
「あ、あはは。どうも」
「すみません! てっきり今日も誰も来ないと思って油断してまして…ん? ロゼリア?」
「えぇ、久しぶりねぇ。アカリ」
どうやら受付の人はロゼリアの昔馴染みだったらしく興奮した様子で話しています。しばらく私とキシリカを放置して散々話した後、ようやくこちらにも気づいてくれました。
「それでね? それでね?」
「う〜ん、ごめんなさいね、アカリ。そろそろ私の仲間が限界みたいなのよ」
「え?」
荷物を置き、完全に座って待つ態勢に入っていた私達を見て、ごめんなさいと謝りながら自己紹介を始めてくれました。
「はじめまして、ロゼリアのお仲間?さん。私はアカリと申します! よろしくお願いします!」
「私はキシリカよ。よろしく、アカリ」
「私はルドです。よろしくお願いします、アカリさん」
アカリさんは私より少し小さく、黒髪の大人しそうな方です。
少し焦りがちなようで興奮すると夢中になって周りのことが目に入らなくなってしまうそうです。
「えっと、ロゼリア達はなんで騎士団に?」
「仕事よ、仕事。サリナ小隊長名義で手紙が届いてると思うんだけど」
「手紙、手紙。ちょっとまってて! どこやったっけなぁ?」
「ねぇ、ロゼリア。この子大丈夫なの?」
アカリさんが離れていったのを見て、キシリカが思わず小声で尋ねます。
「そそっかしい所はあるけど大丈夫よぉ。なんだかんだ仕事はちゃんとこなす子なのよ」
「ならいいけど」
「あ! ありました!」
相当奥の方にしまってあったようでホコリを被っていました。ホコリを払いながらアカリさんが封を開け、内容を確認しています。
「…はい! 確認しました。ソレイユ領主の依頼により遊撃小隊三名を派遣する、とのことですね」
一度確認するとアカリさんの仕事は早く、荷物を置かせてもらったあとすぐに他の騎士の人達の元へ案内してくれました。
その途中でロゼリアに本当に騎士になったのか確認をしていました。どうやら信じられない様子でしたが、きちんと説明すると自分のことのように喜んでいました。いい人ですね。
「失礼します」
案内された部屋に入ると二十人ほどの屈強な男性達がこちらを見てきます。身体強化ありでも負けそうなくらい屈強でちょっと怖いです。その中でも、リーダーっぽい人がアカリさんに「その方たちは?」と尋ねます。
「前線都市からの助っ人だそうです! やりましたね!」
「…! なるほど、やっと来てくれたのか!」
アカリさんの言葉を聞いて姿勢を正した皆さんを代表してリーダーさんが挨拶してくれました。
「我々はソレイユ領所属騎士団だ。前線都市所属遊撃小隊の皆さんを心から歓迎する」
こちらもキシリカが代表で挨拶をすると割とあっさりいい雰囲気になり、お互いに席について落ち着いて話すことになりました。
「はじめまして、遊撃小隊の皆さん。ここからは堅苦しいのは無しでも構わないだろうか?」
「えぇ、どうぞ。私たちもその方が助かります」
「ありがとう。では改めて、自己紹介をさせてもらう。俺はヤマト。ここで隊長をやらせてもらっている」
ヤマト隊長に続いて皆さんが自己紹介を済ませると、私たちも続いて自己紹介をしました。ふと横を見るとアカリさんがこっちの遊撃小隊側に座っていました。あっち側に座るべきでは?
「ロゼ、リア? あのロゼリア?」
「ようやく気づかれました? ヤマトさん」
「は!? 本当にロゼリアちゃん!?」
アカリさんに気を取られているとヤマト隊長側も面白いことになっていました。ロゼリアって本当に人気ですね。
「久しぶりだな! 大きくなった! まさか騎士になったなんてな! てことはなんだ? 騎士学校には通ったのか?」
「いえ、私はスキルがあったので学校には通っていません」
「そういえばそうだったな。
なら、早速実力を見せてもらおうかな!」
…騎士学校って、なに?
―――
私の疑問はさておき、魔物との戦闘のため、私達は郊外の草原に出てきました。
結界があるとはいえ、万が一のこともあるため、増加した魔物はできる限り討伐しているそうです。
ヤマト隊長が私達遊撃小隊の力を見たいとのことで、ひとまず私達だけで戦闘することになりました。
「ヤマト隊長、人使い荒いね」
「あんなんでいいのよ。隊長だもの。さて、そんじゃ行けるわね、二人とも」
「「もちろん」」
「じゃあ、戦闘開始!」
久々の戦闘です。腕が鳴りますね。
敵の数は約百体、これを三人で倒せと言うんですからヤマト隊長もサリナ小隊長タイプなんでしょうね。
カラスズメ等の空を飛ぶ魔物は二人に任せて、私は地上でオークやらなんならの力自慢と戦うことにします。
「双剣術」
オークとゴブリンに至っては大森林戦で戦いすぎて最近は無傷で倒せたりするようになってきました。
ただ、魔物にも個体差があって、力がびっくりするほど強いのもいれば斧の扱いが上手いのもいたり様々です。
とりあえず二十体ほど斬り捨てたあと、おかしなことに気づきました。
「死体が消えない?」
大森林戦で出現する魔物は通常の魔物とは違い、あらゆる成長段階を吹き飛ばして、その場に成長後の姿で出現します。
そして、倒された時には粒子状となり、死体を残さずに消えていきます。
しかし、この魔物達は消えない。
つまり、この魔物達は大森林から来たわけじゃないということです。
「危なっ」
考えに夢中になっていると、危うくオークに殴られるところでした。
普段の大森林と違い、周りに障害物がなくて助かりました。魔物の動きがよく見えます。
オークの振り上げた斧を左の剣で受け止め、がら空きになった胴を右の剣で一刀両断します。
少し油断すると、今斬り伏せたオークの死体に隠れてもう一体のオークが大剣で斬りつけてきました。
「大剣? なんで?」
思わず攻撃をくらってしまったので、気を取られてしまっていましたが、治癒魔法で治したあとに冷静になるとこれまたおかしなことに気づきました。
大森林で出現するオークは例外なく大きな斧を持ち、白い布を肩から斜めにかけているのですが、このオークは違います。
キシリカの大剣よりも大きい大剣を持ち、黄色い布をかけ、顔にも大きな傷があります。
「君、もしかしてリーダー格なのかな?」
まるで肯定するかのように鼻を鳴らす。
それを見て、お互い剣を構え直す。
「竜剣起動!」
踏み込みながら、私は左腕を薄く切って竜剣を起動する。走っている最中に急に加速した私に反応できずに不意を突かれたオークは体勢を崩す。
体勢を持ち直す前に右手を切り飛ばし、取りこぼした大剣を奪ってオークの心臓に突き刺す。
「ふぅ。ヒヤヒヤするよ」
大剣を捨て、残った魔物の方を見ると、私を化け物を見るようなような目で見たあと、逃走しようとする。
「逃さないわよぉ」
ロゼリアが水で壁を作って逃げるのを抑止する。
逃げ場がなくなった魔物達は最後の抵抗にこちらに向かって一心不乱に走ってくる。
しかし、その先にあるのはキシリカが作った炎の壁のみ。
「終わりね」
そうして、魔物達は炎と水の壁に挟まれるようにしてじわじわと死んでいった。
「お疲れ、二人とも」
「えぇ、そちらこそ。……また竜剣使ったの? ルドちゃん」
「あはは、便利で、つい」
三人で話していると、遠くで見ていたヤマト隊長らが近づいてきました。
「驚いたな、スキル持ちの強さは知っていたつもりだったがこれほどとは」
ヤマト隊長は本気で驚いているようです。
スキル持ちの戦いを見るのは初めてなのでしょうか。
しかし、今大事なのはそんな話ではありません。
「ヤマト隊長、魔物の異常増加についてお話があります」
―――
「今回の魔物、大森林由来ではありません」
「そうなのか?」
消えない魔物、大森林の魔物とは明らかに異なります。
その上、通常とは異なるオークの存在だったり、あらゆる状況がそれを示唆しています。
「ひとまず、サリナ小隊長には手紙で報告しようと思っています。ですが、その前に今回のことについて詳しく話を聞かせてください」
「了解した、と言っても短い話だ」
ヤマト隊長曰く、一ヶ月ぐらい前からなんとなく前線都市方面からやってくる魔物の数が増えているような気がしていたそうです。
始めは気のせいだと思っていたそうですが、負傷者が増えてきたり、段々人手が足りなくなってきたりして、ついに異常事態だと認識したそうです。
ここ、ソレイユ領には前線都市に存在する城壁のようなものはありません。
あるのは球状の結界のみ。
アベリア領の時のように結界がなくなれば、魔物による被害は甚大であることが予測されます。
「私、分かったわ」
これまで静かに話を聞いていたキシリカが声を上げます。
「これ、こないだのセフトホークの時と全く同じなのよ」
普段はやってこない魔物がやってくる。
しかもその方向は、前線都市方面から。
このことはヤマト隊長に見せてもらった最近の記録からも読み取れました。
セフトホークの時は、あれが生態系の上位に位置する魔物だったため、他の魔物を寄せ付けなかったこと。
そして、セフトホークの飛行速度が他の魔物より優れていたために、ここよりも前線都市から離れたアベリア領に早い段階でやってきたこと。
この二つの条件により魔物の異常増加としては見られなかった。
しかしソレイユ領には一ヶ月前から、なんらかの要因で大量の魔物が前線都市方面からやってくるようになった。
その結果、魔物の異常増加として観測された。
筋は通ります。
「なら、やることは一つじゃない? 前線都市方面に騎士を全員呼んで、防衛すればいいのよ」
「前線都市方面というのは分かっていたからな。もう既にそれはやっている。
だが、それでも負傷者が多すぎて手が回らない。
一度、魔物への対処は諦めようとしたが、そうすると他の領にも影響があるかもしれないからな」
「そんな状況でも何とか対応するために私たちは呼ばれたんですね」
「あぁ。君たちは普段多数の魔物を相手取っているんだろ? ……助けてくれ」
ヤマト隊長が頭を下げてお願いしてきます。こちらの返事はもちろん、
「任せてください!」




