21話
シエル団長による天井破壊事件の翌日、サリナ小隊長に呼び出された私達はまたしても遠征に駆り出されました。
次の目的地はキシリカの領地であり、ロゼリアの家もあるソレイユ領。馬車で移動すると半日ほどで着きます。
夕暮れ時、ソレイユ領に到着した私達は、まず初めにキシリカの家に向かうことにしました。というのも騎士団に依頼を出したのはキシリカのご両親だったからです。
「いつか家に行きたいって言ってたら、すぐ行くことになったね」
「少し緊張するわぁ。領主様の家だなんて」
「ただの私の家よ? 緊張することないでしょ」
「そうだとしても、何年も住み続けた所の領主様なのよ? 私はやっぱり緊張するわ」
私はアベリア領の時と同じく初めて行くところなのでワクワクの方が大きいのですが、ロゼリアにとっては複雑な状況のようです。
例えるなら自分の住んでいる所の市長とかに会うようなものでしょうか。確かに友達の親だとしても緊張するような気がします。むしろ友達の親だからこそ緊張しますかね?
黄色い花が咲いている道を進んでいくと、少し入り組んだ道の先に周りより大きい建物が見えてきました。アベリア領の屋敷と比べても大きさに遜色はなく、飾りが少ない分、落ち着いた雰囲気がします。
「そういえば、お土産でも持ってこようと思ってたのに忘れちゃってた」
「お土産? そんなん要らないわよ。
ま、くつろいでいきなさい」
キシリカの案内で門を通ると大勢のメイドさんが出迎えてくれました。
「おかえりなさいませ、キシリカ様」
「えぇ、ただいま。お父様たちはいる?」
「はい。お待ちしております」
メイドさんが玄関の扉を開けると、広々とした白を基調とした空間が広がります。天井には大きなシャンデリアがついていたりして、いかにも貴族らしいお屋敷です。
「お邪魔しま〜す」
「あれ、お姉ちゃん? なんでいるの〜?」
奥のドアが開くと小さな女の子がトテトテと歩いて来ました。どことなくキシリカに似ている気がします。
「久しぶりね。お姉ちゃんに会いたかった?」
「うん!」
「お母様とお父様は?」
キシリカが妹ちゃんを抱きかかえながら聞くと、またも奥のドアから人が出てきました。
「ここよ」
「お久しぶりです。お母様、お父様」
「えぇ、久しぶり。元気にしてた? …そのお二人は?」
「手紙に書いたあの二人よ。銀髪のがルドで、青髪がロゼリア」
「はじめまして、キシリカと同じ隊に所属してるルドです」
「同じく、ロゼリアです」
「キシリカの父のサフェルだ。こちらは妻のカリナ」
「はじめまして、ルドさん、ロゼリアさん」
キシリカのお父さんは長身で、短く切りそろえた黒髪と顎まである髭の影響で威厳ある方です。対して、お母さんはキシリカをそのまま大人にした感じで、笑顔が素敵な可愛らしい方です。
挨拶を済ませると応接間に案内されたのでキシリカについていきます。途中でキシリカの他の兄弟達もやってきて合流しました。
応接間が騎士団等の施設と比べても豪華だったので尻込みしていると、キシリカが背中を押して私達を中に入れました。
「二人については色々な話をキシリカから聞いているよ。最近の手紙には、二人のことばかりなんだよ」
「そ、そうなんですか。光栄です」
「ルド、緊張しすぎ」
「…分かってるよ、うん」
緊張しすぎと言われても、どうしようもないよ。それに、隣に座ってるロゼリアなんか固まっちゃってるんだけど。
「う〜ん、緊張してるのかな?」
「うん、そうみたいね。お父様」
「え〜と、ロゼリアさんだったかな?」
「は、はい。なんでございましょうか?」
「君は確か、商店街のパン屋の娘さんだったよね?」
「え、ご存知なんですか?」
「もちろん。時々取り寄せて、うちの食卓に並べているよ。中の食感がフワフワでスープとよく合うんだ」
「あ、ありがとうございます!」
キシリカのお父さんのお話で緊張がほぐれたのかロゼリアも普通に話に加わるようになりました。それからしばらく私達の出会いの話や近況について話すと、本題に入りました。
「今回の騎士団への依頼は魔物の討伐、あるいは盗賊の捕縛だ」
「うちの領って、ここ所属の騎士団いたわよね? そいつらに任せればいいじゃない」
「残念なことに人手が足りなくてね。それと、今回は少し異常事態なんだ」
デジャヴを感じます。こないだのアベリア領所属の騎士団も人手不足だったんですよね。
「うちの領は前線都市の次に大森林に近い位置にあるからな。その影響で騎士団から逃れた一部の魔物がここまで来る」
「あ〜、私達が取り逃がしたのね」
「だが、これはいつも通りのことだ。一部取り逃がすのもあれだけ広大な大森林で戦っていたらあり得るだろう。だが、今回は違う」
「魔物の数が約三倍になっている。うちの騎士団も全員この対処に追われている」
「ではやはり、私達が取り逃がしすぎているということでは?」
そんなに取り逃がした記憶はないんですが。ここしばらくの大森林戦は後方に下がることも多かったですが、逃げていく魔物なんて見覚えがないです。
「取り逃がした、取り逃がしてない、どっちにしろその話はキシリカ達前線都市の騎士団に任せる。
問題は魔物が増えて人手が足りないこと。そしてその隙を狙った犯罪が増加していることだ」
「なるほど。お父様的にはどっちの方が深刻?」
「深刻度合で言えばどちらも同じ程度だ。
ただ、犯罪増加の原因は魔物の増加だから、できればそちらをなんとかしてほしい」
「任せて、お父様。どっちもパパっと解決しちゃうから! ね、ルド、ロゼリア!」
「…うん、そだね」
「…えぇ、頑張るわ」
「アンタ達、やる気なくない?」
「いや、あるよ。ただ、お腹が空いてて」
「お腹が空いて力が出ないわ」
「えぇ…」
すると、メイドさん方が料理を用意してくれているとのことでお言葉に甘えることにしました。
「美味しい…あったかい…」
「これ、レシピ欲しいわね。家で作ってあげたいわ」
ロゼリアがそう言うと、横から一人のメイドさんがレシピの書かれた紙をサッと置きました。
「いいんですか? ありがとうございます」
「…」
メイドさんは無言のまま後ろに下がりました。洗練された動きでかっこいいです。そういえばメイドさんって戦えるんでしょうか。よくアニメとかでそういうのを見た気が。
食事を終えたあとは、キシリカのご両親によると好きにしていて良いらしいです。魔物の件も切羽詰まってはいないそうなので、明日から取りかかることにしました。
その結果空いた今日一日はキシリカの兄弟達と過ごすことにしました。キシリカはご両親とアベリア領での出来事について話すことがあるようなので、今は居ません。
「じゃあ、お空飛びたい人は手を挙げて〜!」
「「は〜い!」」
二人居る弟くん達はロゼリアの水魔法で色々動き回って遊んでいます。男の子は元気が有り余ってますね。
一方、水魔法とかの派手なことができない私はソファに座って、妹ちゃんに絵本を読み聞かせしています。
本を読んでほしいとお願いしてきたので、膝の上に乗せてあげながら読んでいます。
読んでいる本はちびっ子がよく読む感じのお姫様と王子様が結ばれる話です。
私も昔はこういうのが好きで、よくお母さんに読み聞かせしてもらっていたと思います。
私は兄弟が居ないので、こうやってお姉ちゃんみたいに振る舞えるのが新鮮で楽しいですね。
妹ちゃんと一緒にウトウトしはじめたぐらいにキシリカが戻ってきました。辺りを見るとロゼリアのいた方の庭が雨の日みたいな地面になってて驚きました。
「おかえり、キシリカ。どんな話しをしたの?」
「リイキラのことよ。こないだのアベリア領でのことはお父様達の耳にも入ってたみたい」
まだ記憶に新しいアベリア領での事件。最終的に祭りでキシリカが舞うことになったり色々ありました。
「よくやった、だって」
「良かったね」
アベリア領での出来事を思い出しながら話していると妹ちゃん達も話に加わってきました。
「お姉ちゃん踊ったの? 見たかった!」
「そうなの? ならあとで踊ってあげてもいいわよ?」
「やったー! ルドちゃんは? ルドちゃんは踊らないの?」
こっちにも話が飛んできました。私はキシリカじゃないから踊れないと言うと、妹ちゃんは不満気です。
「まぁそりゃ、ルドは練習してないもの。これであっさり踊られても困るわ」
「けど、ルドちゃんが踊れたら様になると思うわよぉ。キシリカちゃんに教えてもらったら?」
「ロゼリアまで…」
そんな感じで話をしていると夕食の時間になり、妹ちゃん達と一緒に食卓へ向かい、キシリカのご両親も交えて皆で食事を取りました。
キシリカの妹ちゃん達は久しぶりに帰ってきたお姉ちゃんと一緒に寝たいとのことで、私はロゼリアと二人で用意されたゲストルームに案内されました。
「あ〜、疲れた! 子どもって元気だね〜」
「そうねぇ。けどそれが子どもの良いところよ」
「だね」
明日からの行動について先ほど皆で意見は纏めておきました。魔物との戦闘区域や盗賊の出現地域の関係で、より近い場所にあるロゼリアの家に移ってから仕事をするつもりです。
「ロゼリアも兄弟居るんでしょ?」
「えぇ。前の休暇以来だから久しぶりに会えるのよ。楽しみね」
―――
「おぉ、ここが…」
「いい匂いねぇ…」
次の日、キシリカの家から出発し、ロゼリアの家まで移動してきました。仕事に取りかかる前に荷物だけ置いていくつもりです。
ロゼリアの家はキシリカの家に比べると当然小さな家ですが、それなりに広さがあり、一般家庭としては十分な広さですね。
ただ、兄弟が複数居るとなると手狭に感じそうです。私達がお邪魔しても本当に大丈夫なのでしょうか。
「流石パン屋ね。匂いだけでお腹が空いてくるわ」
「なら、食べてから行く? 私の友達って言えば出してくれると思うわよ?」
「いいの? やったぁ」
気の抜けた会話をしながらドアを開け中に入ると、一人の店員さんがいました。するとロゼリアが声をかけます。
「ただいま、お母さん」
「あら、ロゼリア!? なんでここに? 帰ってきてたの?」
「そうよ。けど、休暇じゃなくて仕事でこっちに来たの」
「後ろの二人は友達?」
「えぇ。同じ遊撃小隊のルドとキシリカよ」
ロゼリアと同じで穏やかそうなお母さんです。私とキシリカも自己紹介を済ませると店の奥に案内されました。
どうやら店の二階を居住スペースにしているようで他の家族は皆そっちにいるそうです。階段を上って二階に着くとちびっ子の頭が目に入ります。
「ただいま〜」
ガチャっとドアを開けながら中に入っていくロゼリアについていくと中には先ほど見えた小さな子が一人と、お父さんらしき人が一人いました。
「なんだ、ロゼリアか!? 帰ってきてたのか?」
「うん。昨日帰ってきてたよ」
「それに、奥の二人は友達か? 言ってくれればなにか用意し――」
「お姉ちゃんだ〜!」
ロゼリアのお父さんの話を遮るように妹ちゃんがロゼリアに向かって走り出し抱きつきます。ロゼリアと違ってわんぱくな感じでどちらかというとお父さん似なんでしょうか。
「ただいま。お土産持ってきたから後で渡すわね。それと、お料理も作ってあげる」
「ホント!? やったー!」
ロゼリアが妹ちゃんと話しているうちにお父さんに自己紹介を済ませて荷物を邪魔にならないところに置かせていただきました。
寝るところはロゼリアの部屋の一部を借りる感じになりそうです。
「私もお料理食べたいなぁ〜」
「そうねぇ。ロゼリア特製のが食べたいわねぇ」
「はぁ。二人にも今度作ってあげるわよ」
ここぞとばかりにロゼリアに約束を取り付けさせ、私とキシリカは大満足です。ロゼリアは私達と違ってとても料理上手なので、寮でも時々作ってもらっています。
「それじゃ、仕事に行ってくるわ。夜ご飯をこの二人の分も含めて作っててくれる?」
「えぇ、任せなさい。ロゼリアのお友達が来たとなれば、お母さん張り切っちゃうわ!」
「ほどほどでお願いするわね、お母さん」
朝イチのパンを頂いて、そろそろ仕事をしに行くことにしました。パンはクロワッサン的なものだったんですが、サクサクしててとても大満足でした。これからしばらくあれが毎日食べ放題だと思うと最高です。
「いってらっしゃい」
「いってきます」




