20話
「今日は模擬戦だ。今のお前らの実力を測っておく。
特にキシリカ、しっかり見ておけ」
今日は休暇のはずだったのですが予定変更で一日中訓練です。
今の私には竜剣もあるし、入団直後のようには流石にならないと思っ――
「まずは私とルドでやる」
無理です。最初からサリナ小隊長とか無理です。
いくら強くなったといえど最強格が相手じゃ無理です。
しかし拒否はできないので観念して頑張ります。
「双剣術」
「双剣術」
お互いに双剣を握り真正面から見つめ合う。
少しでも気を抜けばやられてしまいそうな殺気に冷や汗が出ます。
「竜剣起動!」
サリナ小隊長が一歩踏み出し、仕掛けてくるタイミングで竜剣を使用し身体能力の底上げをしました。
それでもサリナ小隊長の剣は私の頬を掠めます。
反撃をしても全て弾かれる。なら、
「これはどうですか!?」
剣を投げ、注意をそっちに向かせる。
その隙に弓を構え放つ。
しかし、剣を避けられたうえに矢は叩き斬られました。
私の負けです。
「ルド、なぜ剣を投げた?」
試合が終わると、サリナ小隊長が寄ってきて聞いてきます。注意を引くためと答えると怒られました。
「お前が私に対して勝つには双剣術を使うしかないだろう。その勝ち筋を自ら捨てるな。
注意を引きたいなら使うべきは弓の方だ」
「すみません」
「謝るな。もっと考えて動けと言っているんだ。
ただ、前のような技術不足は減ったな。よくやった」
久しぶりにサリナ小隊長にまともに褒められた気がします。
それはそれとして全く通用しなかったショックもあります。
私たちの模擬戦を見ていたロゼリアがこちらへ近づいてきました。
ロゼリアも私と模擬戦をしたいようです。
「ルドちゃん、いい?」
「もうやる気満々なんでしょ? いいよ」
サリナ小隊長の掛け声で模擬戦開始と同時に私は竜剣を使用して距離を詰める。
ロゼリアはそれを予想していたのか水の壁を作って阻止してきます。
「やりづらいなぁ、まったく!」
「でしょ?」
私は一度距離を取り、水の壁に向かって嘔吐剤を投げる。水に嘔吐剤が混ざって刺激臭が立ちこめる。
匂いでロゼリアが顔を押さえた隙に後ろを取って斬りつける。
勝ったと思ったのですが、ロゼリアは剣が当たる前に振り向いてきて斧槍で殴りかかってきました。
咄嗟に左の剣で押さえたはいいものの、迂闊に動けない状態になり、水魔法で右の竜剣も弾かれたので降参しました。
「勝ったと思ったんだけどなぁ」
「不意打ちの嘔吐剤にはびっくりしたわよ。
水魔法で顔を覆ったから平気だったけど」
「なるほど」
水で嘔吐剤を落とされたらどうしようもないですね。肩を落としながらサリナ小隊長の所に戻ると、小隊長は嫌そうな顔をしていました。
「よりによって嘔吐剤かよ」
「結構便利ですよ」
「便利だからって普通使うか?」
そういわれると確かに。けど便利だからなぁ。
そんなことを考えているとサリナ小隊長から次の指示が出ました。
次の模擬戦はキシリカとロゼリアでやるそうです。二人が準備していると訓練場のドアが開きました。
「やっほ。訓練、私も参加していいかな?」
「シエルか。ならキシリカたちの模擬戦でも見ていけ」
やってきたのはシエル団長でした。普段は訓練場になかなか来ないので珍しいですね。
サリナ小隊長が見学することを促すとシエル団長は私の横に来ました。
「久しぶりだね、ルド」
「はい。お久しぶりです、シエル団長」
「聞いたよ。最近活躍してるんだって?」
「そうですね。入団当初と比べたら活躍できてる方だと思います。まだまだシエル団長たちには及びませんけど」
「そう。なら、よかった」
話が一段落したあたりでキシリカたちも準備が整いました。
またもサリナ小隊長の合図とともに模擬戦が始まりました。
まずは二人とも様子見もかねて遠距離から魔法の打ち合いをしています。
「仕掛けてこないのかしら? ロゼリア」
「キシリカちゃん相手に雑に攻めても返り討ちになるだけでしょう?」
こんな風に軽口をたたき合いながら戦いは白熱していく。さっきの私がした模擬戦と比べても明らかにレベルは上。
自分が弱いという事実をこうむざむざと見せつけられるとくるものがあります。
模擬戦の結果としてはキシリカの勝ち。
炎を防御していたロゼリアが耐え切れなくなって吹き飛ばされました。
ロゼリアに治癒魔法をかけているとシエル団長がサリナ小隊長となにか話しているのが見えました。
「ねぇ皆、私とサリナの模擬戦、見たい?」
「見たいです!」
「だってよ?」
「……仕方ない」
シエル団長の言葉にキシリカが一番に反応する。
私たちも見たいと言うとサリナ小隊長は観念した様子でシエル団長と一緒に歩いて来ました。
私たちが端に寄るとそれを確認したサリナ小隊長とシエル団長はお互いに双剣、そして細剣を取り出して構えました。
「皆、気を付けてね。そっちまで危ないかもだから」
「え?」
シエル団長の言葉に反応できないでいると、次の瞬間、とてつもない風圧が押し寄せてくる。
手で押さえても目が開けられないほどです。
その風は二人の剣のぶつかり合いから発生しています。
今までの私たちの模擬戦がまるで子どものチャンバラごっこのように思えてしまうような激しい剣技の応酬。
「サリナ、腕上げた?」
「舐めてもらっては困るな!」
シエル団長の突きをサリナ小隊長が受け止めると、二人ともさらに速度を上げる。
このままだとあまりの速さに見えなくなりそうなので竜剣を使用しましたが、それでもギリギリ。
私が今までに戦ってきた獣、それにセフトホークのような速さ自慢の魔物と比べても別格。
もしかしたらキシリカとロゼリアの二人にはもう見えていないかもしれない。
「なにあれ?」
突然、二人の速度が落ちる。模擬戦を終わらせるのかと思いきや、シエル団長の剣の周りに輝く円状の魔法陣のようなものが出現する。
「そこまでやるか、シエル!」
珍しくサリナ小隊長が焦ったように声を荒げる。それにお構い無しでシエル団長はニヤリと笑いながら剣を向ける。
「グランシャリオ!」
「特殊硬化!」
二人がなにかを叫ぶと、訓練場に目映い閃光が走る。それはシエル団長の剣の先から放たれたものだった。
あまりの勢いに辺りは埃が舞い、一時的になにも見えなくなる。
視界が晴れると、そこには膝をつくサリナ小隊長とそれを見下ろすシエル団長の姿があった。
「やっばぁ……いまのなに?」
キシリカが思わず呟く。私も同感。
天井がまるで元から吹き抜けだったかのように破壊されています。
そんな凄まじいレベルのシエル団長の攻撃とそれを受けても出血も無く、立ち上がれなくなるだけのサリナ小隊長、どちらも化け物です。
「あっ、サリナ小隊長! 今治癒します!」
その後すぐに外が騒がしくなりました。今の衝撃と光は一体なんだとびっくりしているようです。
「やりすぎだ、シエル」
「うん、ごめん。調子乗っちゃった」
訓練場に武装した騎士が大勢入ってくる。
その中にはケーニッヒ副団長もいました。シエル団長が事情を説明すると、納得しつつもドン引きしていました。
「えぇ……なにしてるんですか……」
「ごめん。ケーニッヒ、天井の修復頼んでいい?」
「任されました。けれど、今後は気を付けて」
シエル団長が集まってきていた皆にも謝罪して、騒ぎは収まりました。
色々片付けをしたあと、寮に戻り二人とあの模擬戦について話しました。
主に話したのは速さについて。やはり二人には途中からあまり見えてなかったようです。
「ルドには見えてたの?」
「うん、一応。とは言ってもギリギリ見えるってだけ。あれに加わったりは無理だね」
「あれって私達の身体強化と変わらないのよね?」
「そのはず」
「じゃあやっぱり素のフィジカルが違うんでしょうね」
いつか団長達に追いつくためにもこれまで以上に訓練を頑張りたいところです。
そう意気込んだ次の日、私達はソレイユ領にいました。
「また遠征?」




